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神殺し召喚  作者: ビターグラス
9 エルフの国へ
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模擬戦

 振り下ろした剣は当たり前のように抑えられた。オブストは見え透いた剣の軌道に、冷めた態度で剣を掌で受け止めていた。デンファレとしては人相手に攻撃したことが無いと思っている。女盗賊との戦闘は彼女の記憶にはないのだから、これで初めて、人に剣を振るったことになる。木剣とは言え、人を傷つける行為を躊躇ってしまう。


「おいおい。こんなぬるい剣術でここまで来たのか。隠密技術が凄いだけ、と言うことか?」


 オブストはぶつぶつと口を動かして、何かを話していたが、デンファレの耳までは入らない。たとえ、入っていたとしても、それが意味を成した言葉ではなく、音としてしか捉えられない。今、彼女は人を傷つけるというプレッシャーと戦っているのだ。代謝しないはずの体だが、冷や汗が背中を伝っている気がする。彼女は相手の掌から剣を抜いて、相手と少し距離を取った。次は二歩歩いて、散歩目で踏み込む。剣を下から切り上げる。しかし、やはり単調な剣筋では相手に当たることもなく、簡単に抑えられた。再び、剣を離してもらい、距離を作った。


「何というか。思った以上に能力がない。運が良かったのか? まったくわからんな。……まぁ、いいか。俺の攻撃を受けさせればわかるかもしれないしな」


 彼はデンファレが距離を空けたのを見て、デンファレのように一歩踏み出した。その踏み出した足で、地面を蹴って、少しだけ宙を舞う。その跳んだ体勢を変えて、拳を振りかぶる。デンファレは、彼が跳んだ時点で防御ではなく回避を選択していた。しかし、すぐに動いては相手の連撃を使わせる隙が出来るかもしれない。彼女も今までの戦いで様々なことを学習していた。彼女は相手が目の前に着た瞬間に真横に跳ぶ。着地する前に体を捻って相手を正面に捕らえるように着地する。相手の拳が地面を叩いている隙に、剣を振り下ろした。それは相手への最初の攻撃よりも鋭さを持っていた。しかし、それに刃があったとしても、相手には致命傷にはならないだろう。


「なぜ、本気で打ってこない。この剣では傷はつかん。思い切り振れ」


 デンファレは相手の言葉には全く答えず、剣を相手に向けて構えながら見つめるだけだ。彼女も人相手に剣を振れないと戦えないことは理解している。しかし、人を傷つけることが心も体も拒否しているのだ。自分が人を殺すことが出来ない。自衛のためであっても、守るべき者たちを傷つけることさえ、できないのだ。


「稽古をつけてやろうと思ったが、本気でやらないなら、排除するのみ。元々、俺の仕事はエルフの国の周辺の警備なんだ。怪しい奴や魔獣は殺して排除しろって命令を受けているんだ」


 相手は先ほどと比べ物にならない闘気を発していた。デンファレはその闘気に怖気づいていた。剣を持つ手が震える。このままでは盗賊と戦った時と同じように気絶してしまう。彼女は恐怖に負けないように、何とか心を奮い立たせるしかない。しかし、その状態で剣を振ることも、相手の攻撃を連続で回避することも出来そうになかった。


「まぁ、運がなかったな」


 オブストは地面を蹴って走り出す。デンファレとの距離があっという間に詰められる。デンファレの剣を持つ手に力が入る。拳が振り上げられているのを見て、体ごと斜めにして、相手の攻撃を回避する。恐怖心の中でも体が覚えているカウンターで剣を振る。しかし、剣には力が無く、相手の胴に木剣が当たっているのだが、相手は痛くもかゆくもなさそうだ。デンファレが剣を引く前に相手の拳がデンファレの胸の辺りを狙った軌道で飛んでくる。彼女はそれを左手で受け止めようとして、左腕に拳の衝撃が加わる。もちろん、左手だけでその衝撃を防げるはずもなく、彼女は後ろへ、三メートルほど後ろに下がらされた。左手は痺れて、使いものにならない。そして、その攻撃は彼女の心をへし折るのに十分な威力であった。


(負ける。そして、このまま殺される。もう、ただの試合じゃない。排除するって言っていた。……でも、まだ消えたくないなぁ)


 彼女はそう思いながら、既に負けていた。オブストは彼女が諦めていることがわかった。そんな人にこの世界を生きていくことは無理だ。彼はそう思った。そして、それならここで殺した方が彼女の為なのかもしれないとも思った。しかし、彼はデンファレの様子を見て、考えを改めた。彼女が脱力して倒れそうになったが、木剣でそれを止めた。脱力した風で、彼女はゆらりと立ち、正面に彼を捕らえたまま立っている。俯いているせいでその顔は見えない。しかし、戦う意志を感じた。


 オブストが先ほど、殺すと言ったのは彼女の真の実力を計るためだ。窮地に陥らないと、実力を発揮できない人もいる。だから、あんなことを言った。そして、今窮地に立った彼女はその実力を発揮しようとしている。しかし、先ほどまでとどこか様子が違う。


 そして、彼は今、デンファレが恐怖心に負けて、死にたくないという一心で戦っているのをすぐに理解できた。それは昔、オブスト自身にも起こったことがあるものだったから、それがすぐに理解できた。

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