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神殺し召喚  作者: ビターグラス
9 エルフの国へ
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デンファレの不安

 トールから先に行けと言われたデンファレは魔獣のいない森を駆け抜けた。魔獣だけでなく、獣もいない。樹と草花しか視界に入らない。途中で不安になって、何度も走ってきた道を振り返る。トールがやられているとは思えないが、万が一と言うことがあるかもしれない。一人でいる心細さが、彼女の不安の原因だ。早くトールと合流したところだが、ここで戻ってしまってはトールが逃がしてくれた意味がなくなることはわかっているので、そんな無駄なことはしない。


 何度、後ろを振り返ったかわからない。振り返りつつも前進していると、足音が聞こえてきた。魔獣かもしれない。そう思って、太い幹を持った樹の裏に隠れる。その場でしゃがみ、草の影から足音のする方を見る。視界のよくないこの場所では、草の隙間から見ても、足音の主の影もよく見えない。しかし、こんな場所で身を乗り出して草から出てしまうのは、状況が悪くなるかもしれないと考えて、デンファレはそれ以上は前に出ようとはしなかった。


 足音だけでなく、草を静かにかき分ける音も聞こえてきた。徐々に近づいてきているようだ。草の影から見ていると、そこにいるのは人型のようであるということだ。もしかすると、エルフの国の近くで、エルフがそこまで来ているのかもしれないと、希望を持ったが、トールがいない不安が、彼女を積極的にはさせない。生き残る上では、怖がるくらいがちょうどいいだろう。


「ふむ。そこに誰かいるな。出てこい。魔獣じゃないだろう。人なら出てこい」


 デンファレはそれでも隠れたままだった。かまをかけているとか、そういうことを考えていたわけではない。ただただ、不安感からそういう行動になっただけだった。


「出てこないか。なら、少し脅かしてやろう。その場所から絶対に動くなよ」


 そこにいる者の息を吐きだして、吸う音が聞こえる。その音が終わると、彼女が背にしていた樹がバキリと音を立てて折れた。折れた場所はちょうど彼女の頭の上の辺りであり、折れた樹は彼女の方には倒れなかった。


「さて、これでわかってもらえると良いんだが」


 こんなのを見せられたら、デンファレも出ていかないわけにもいかず、彼女はおずおずと木の影から姿を現した。


「なんだ。いるじゃないか。と言うか、こんな綺麗な人をヒューマンズは追放したのか。どんなことをしたんだ、あんた」


 彼女を脅していたのは、男であった。金髪ではあるが、ボサボサしているのが目についた。ここにいるということはエルフと言う種族だろうが、その見た目はすらりと細くスタイルが良いというイメージとはかけ離れている。手足、胴に至るまで、筋肉で武装しているのではないかと思えるほどの筋肉量。顔を鼻が大きく、整った顔とはいいがたい。タンクトップはぴちぴちで、ハーツパンツの裾はぼろぼろで明らかに見た目には気を遣っていないのがわかる。


 デンファレは相手が思った以上に怖い見た目であり、さらに不安が増す。心の中では既にトールを呼びたい気持ちで一杯だった。しかし、それと相反するように、自分で何とかしたいという心も彼女の中には確かにある。相手の目は見ることが出来なかったが、彼女はようやく自分の目的を話した。


「……なるほど。追放されたわけではないのか。だが、今更、世界を救おうとは、バカバカしい夢だな」


 男はデンファレの言葉に呆れているようだった。この世界の住人にとって、この世界を救うことは既に何度も試して、不可能だと判断した後なのだから、そう言う反応になるのも当然だった。


「まぁ、そうだな。俺でも、手合わせくらいならしてやれるか。あんたがどれくらい戦えるのか知らないが、やるか?」


 あの強さを目の当たりにして、手合わせをする。それは願ってもない邪神を倒すための糧になる経験だ。デンファレは彼の言葉に感謝しながら、彼と戦うことにした。




「そうだな。まずは、俺の名前くらいは知ってもらいたい。俺の名はオブスト。三百年くらい格闘家をしている者だ。何か吸収してくれるといいが」


「私はデンファレ。冒険者よ。じゃ、模擬戦、お願いね」


 名乗りが終わり、ついに戦闘が開始された。オブストは最初は特に構えをすることはないようだ。しかし、デンファレはその状態の彼に対して、どこから攻めていいのかわからなかった。どこから攻撃しても届かない気がするのだ。


「攻撃しないと、始まらないぞ」


 彼の声を聞いてようやく、デンファレが動き出す。彼女の持つ剣は彼が格闘家である彼がなぜか腰に引っ提げていた木剣である。なぜ、使いもしない剣を持っているのか訊けば、昔仲良くなった獣人に作ってもらったお守りみたいなものらしい。さすがのデンファレもそんな大切そうなものは使えないと遠慮したが、ずっと使わないのも剣としては可哀そうだということで、使わせてもらうことになったのだ。


 デンファレは一歩踏み込んで、振り上げた剣を振り下ろした。

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