トールの本気の一端
トールは魔獣を相手に苦戦を強いられていた。何より、見た目とは裏腹に移動の速度が速い。真横に移動することはできないようだが、それでも動きが素早い。既に三度、口から吐き出される液体の攻撃を躱した。噛み付きは五回避けた。カウンターで斧も三度叩き込んだ。しかし、手応えが無い。斧を叩きつけた衝撃がどこかに分散して、斬撃になるまでの威力に到達していないように感じていた。力が足りないのか、そもそも戦斧のような重い武器では効かないのか。それはわからないが、彼は斧を手放して、槍を持った。癖で盾も持とうとしたが、ガードするという選択肢があっても使わない方が良いことを考えると重荷でしかないと判断した。
相手の攻撃手段がどれほどあるのかわからない以上、自ら近づいて新しい攻撃に当たって、深手を負うなんて馬鹿なことにはなりたくない。そのため、トールは斧を使っていた時と同じようにカウンターを狙っている。魔獣が走って近づいてくるのを見て、相手の動作をよく見た。突進してくるのか、あの液体が飛んでくるのか、はたまた他の攻撃が来るのか。彼は既に回避の体勢に入っていた。
魔獣は口を開けて、そのまま突進してくる。噛み付いてこようとしているとトールは判断して、相手の側面に移動するように跳んだ。しかし、トールがいた場所を通過しても魔獣の口は閉じていない。そして、魔獣はその口を着地して、すぐには次の行動を起こせないトールに向かって、透明の液体を吐いた。
回避できないと判断した彼は盾を手に取り、自身に液体がかからないように防御した。全身を隠すほど大きくはない盾では液体が防御しきれるかどうかわからない。液体が盾にぶつかる感覚がなくなり、彼はすぐにその場から移動する。地面に落ちた液体に触れないように、魔獣から離れた。
(カウンターばかり狙っていても、攻撃が通りませんね。積極的に言ってみましょうか)
彼は魔獣の接近を見ながら、液体を防いだ盾を握ったままにする。彼は魔獣の出した液体でできた水溜まりを除けながら、相手に向かって走っていく。魔獣もトールの動きが変化したのを察知しており、走るのをやめている。トールは更に加速して、盾を前面に構えながら、槍の先も相手へ向ける。魔獣はその槍が自分に刺さるのを恐れて、先に口を開いて槍を持つ腕に噛み付こうとした。それを盾で弾いて、のけぞらせた。首の辺りが狙いやすくなり、トールはそこを突いた。槍の先が突き刺さる感覚はあるが、奥までは入っていないというような手応え。槍を抜けば、その部分からは少量の血が垂れてきていた。攻撃が深く入っていない証拠だ。斧の時もそうだったのかもしれないが、魔獣の皮が分厚く、それに包まれた肉と皮の間に硬い組織があり、それ以上刃が入らないようだ。生半可な力では、攻撃が通らないようだと理解した。
彼は槍を手放し、剣を手に取った。ローブのクローバーから出た光が彼の体を覆い、彼は全身に鎧を纏い、最後に頭に鎧が装着された。彼の背後に浮遊する武器の中に弓が付いたされたが、彼はそれをこの場では手に取ることはなかった。
(ここから三十分ほどですか。この状態なら余裕ですね)
彼の超能力は彼の体力を奪う。フルプレート状態でいられるのは三十分ほど。三十分経つと鎧は解除され、彼は一切動けない状態になる。移動することも考えると制限時間の五分前には超能力を解除しなければいけない。デンファレのところに行って、もし戦闘を行っていた場合のことも考えて、フルプレート状態を解除するのは十分後くらいが理想だろう。
(それでも、次で決めますから考える必要はなさそうです)
トールは盾に、剣の刃を当てて剣を引いた。盾と剣がこすれて、高い音が出る。魔獣はその音を嫌がるように首を振る。トールの剣が淡く光る。その剣の先を天へと向ける。空から降る光が剣に集まっているかのように、剣の光は強くなった。眩い光が彼の視界を白くする。魔獣はその光に目を向けているだけで動きはない。
「勝利の光をあなたへ捧げます」
彼は天へ向けて、呟いた。光る剣を構えて、魔獣へ向けて一つ飛ぶ。剣を掲げて、魔獣へと向かう。魔獣の正面に着地すると同時に魔獣の頭へ、光る剣を振り下ろした。魔獣の頭に当たると、より一層強い光をはなち、剣身が頭に沈み込んでいった。血も肉も、光によって塵へと変わっていき、宙を漂い、見えなくなる。
「――っ!」
光が二度瞬き、眩さが無くなる。魔獣は既にそこにいなかった。今まで、そこにいた形跡すら残っていない。
相手を消滅させたのを確認すると、彼は鎧を全て解除した。フルプレート状態だったのは数分だけ。デンファレが戦闘をしていても、まだ戦闘できる体力は残っている。
(さて、速く合流しなければいけませんね。デンファレはどんなトラブルにでも首を突っ込んでいしまいますから)
彼は超能力を使用しせず、デンファレを逃がした方向へと走っていった。




