いってきます
「どう。あたしもやるっしょ」
「そうね。正直なことを言えば、ここまで戦えるとは思っていなかったわ。すごく強いじゃない」
パシューが戻ってきて、デンファレに自慢げに言い、デンファレは興奮気味に彼女に寄る。トールも彼女の戦い方に感心しているようだった。デンファレもトールも彼女に子供たちを任せる安心感がより増した。彼女に任せておけば、いざ魔獣に襲われたときでも、問題なく戦ったり、逃げたりできるだろう。
「これで安心でしょ。デンファレたちが戻ってくる場所もあたしが守っておくから、安心して行ってきな」
「うん。ありがとう。じゃ、そうね。……パシュー、いってきます」
デンファレは少し考えて、パシューにそう言った。それはまたこの場所に戻ってくる、自分の変える場所はここだから、というものだった。パシューもそれを理解しているようだ。
「いってらっしゃい。気を付けて。トールも怪我しないようにね」
デンファレはその言葉に手を振って、その場を去っていく。トールはまさか、自分にまで声をかけてくるとは思っていなかったため、少しの間、硬直していたが、彼は仏頂面で、行ってくるとだけ呟いて、デンファレの跡に続いた。
草原に出ると、遠くに草原と岩場の境目のような場所が見えた。その先には小さいが何かが建っているのが見えた。そこがアニマナイズだろうと予想して、エルフの国を目指すことにした。
直線距離では移動しようとすると、邪神の城を通ることになるので、アニマナイズ側に移動して、そこからエルフの国を目指すことにした。
アニマナイズからエルフの国へ行こうとすると、人間の国から行くよりも森の範囲が多いことがわかった。現在、二人はアニマナイズ側から、エルフの国にいく森の前にいた。堂々とその場にいることはできず、既に草むらに隠れている。前に森の前を見たときと同じで、強そうな魔獣がそこら辺をうろついている。
「トール。これ、魔獣避けだけで逃げられると思う?」
「見つかったら効果なしと言うことでしたから。無理でしょうね。この数の中を全く見つからなずに抜けるのは無理です。一体と戦闘を始めたら、他の魔獣も寄ってくるでしょうし、戦闘は確実に避けないと逃げ切るのは難しくなります。森から抜ければ、追いかけてこないというわけでもなさそうですし、やはり、見つかったら最後です」
トールの見立てを聞いて、その場でしばらく考え込む。そこまでして、エルフの国に行っても必ず邪神に対抗できる物や経験が出来るわけではない。それを考えると、人間の国に行く方が簡単かもしれない。変装すれば、入れるかもしれない。しかし、ムスブとユカリのことを思うと、人間の国で穏便にしていることができるかは怪しい。心情的なことを考慮するならエルフの国の方が良いだろう。
「トール。私を運んで移動できるかしら」
「そうですね。気は進みませんが、魔獣の隙があれば、抜けられないこともないと思います。しかし、見つかる可能性の方が大きいのも確かでしょう」
デンファレは彼の答えに少しの間、黙り込んで悩む。彼といる時間はそんなに長くはないし、そもそも彼の力はそこが知れない。今まで見てきた戦いの中で全力を出していたのか、それとも手を抜いていたのかもわからない。ただ、少なくとも自分よりは格段に強いということがわかっていた。彼に頼りすぎるのはよくないとは思う。本来なら、実力をつけて、自身であの魔獣一体くらいなら倒せるようにしないといけないのだろう。しかし、彼女はそんな悠長なことを言っていられる余裕がこの世界にはないのかもしれないと考えていた。そう思う理由は、ムスブとユカリが生贄として、国を追放されていたからだ。世界を救えば、そう言うことは減っていくだろうと彼女は考えている。世界に余裕が生まれれば、そういうことをする必要がなくなるはずだ。彼女は自身の考えを改めて、脳の中で整理して、決心した。
「トール。私を運んでこの森を抜けて。そのままエルフの国まで行くわ」
トールはその言葉を聞いて、やはり、気が進まないような表情をしていたが、最期にはわかりましたと了承した。彼がそれを了承したのは、彼女の瞳のせいだ。前までの、目の前のことを解決するだけの、考えなしの発言ではないと思ったのだ。少なくとも、今の彼女は何か確実に守りたいものがあるようだ、と彼は勝手に感じ取った。彼も感じ取ったそれが、本当に彼女が思っていることなのかはわかっていない。それでもいい。彼はそんな風に思っていた。
「では、すぐに行きましょう。ゆっくりしている時間はないでしょうから。私の超能力にも限界はありますからね。長時間の使用はできません。勝負の時間はあまりありませんよ」
デンファレは重く頷いた。彼の限界など見たことはないが、自分の超能力なのだから、その限界は理解していて、そう言っているのだとわかる。
草むらから、森の中の魔獣の様子を伺う。魔獣は未だ、動き回っている。木の葉で日光が遮られて、明確にその姿を捕らえることはできない。それでも彼はデンファレを抱えて走り出した。




