強さの証明
パシューと共に、安全な夜を超えて、デンファレとトールは旅に戻ることにした。ムスブとユカリに事情を説明すると、寂しそうな顔をしていたが、自分たちが足手まといになることは理解していたようで、説得することもなくパシューの元にいると言っていた。二人はパシューの正面に立って、挨拶をしていた。どうやら、二人はパシューのことを手伝うことを決めているらしく、そのことも彼女に伝えていた。生贄として国を追放されたというのに、逞しく健気な子供たちだ。
デンファレはパシューとの会話もそこそこに林から出ることにした。パシューと別れようと手を振って、一時の別れの挨拶をしようとした。すぐそこにパシューが近づいていた。
「ちょっと、あたしの実力見せておこうかと思ってさ。その方が安心でしょ」
彼女の言う通り、彼女の戦いを見たことはない。デンファレもトールもハンドガンを持っていることを知っているし、それが護身用であると考えている。どちらかと言えば、道具や魔法を駆使して、魔獣を惑わして逃げるという戦術を使っているのだと思っている。筋力もないし、特別魔法の扱いに長けているというわけでもなさそうだから、二人がそう思っているのも当然のことだろう。
「実力って。パシューが弱いなんて思ってないわ。じゃないと国の外で生き残るなんて無理でしょうし」
「まぁまぁ。じゃ、あたしが見せたいって思ってくれればいいし。それじゃ、行こ」
いつの間にか、デンファレではなく、パシューが二人を先導していた。子供たち二人でこの場所にいるのは不安なので、パシューが二人もついてこさせた。こうして、パシューを先頭にして、五人は林の外へと出ていった。
林から離れても、すぐには魔獣は出てこなかった。五人の魔獣避けは既に機能していない。彼女が林に仕掛けた魔獣避けの効果範囲にいるのだ。中々、広い範囲に効果が出ている。トールはパシューは苦手だが、その研究者としての腕は彼が感心するほどだった。
さらに歩くと、ようやく、魔獣の姿を見かけるようになった。草むらの先に、群れていない魔獣がいるのが見えた。魔獣はサソリのような見た目で、体の大きさは子供たちと同じくらいだろう。大きなハサミと胴体の背中側に曲がった尻尾の先には針が飛び出ていた。全身が黒と緑の迷彩柄の甲殻に覆われていて、トールの剣でも斬れなさそうなほど硬そうだ。幸い、サソリは五人には気が付いていない。デンファレとトールは移動している間に、その魔獣を見たことがあった。硬そうな見た目で、戦っても勝てないと思ったため、何度も避けてきた魔獣だった。デンファレはいつものように、その魔獣を避けようとしていたところに、パシューは耳元で囁いた。
「あれ、倒したら、凄い?」
デンファレは反射的に頷いてしまった。
「じゃ、今回はあれが獲物で。ちょっと見てて」
彼女は草むらから飛び出し、魔獣の背後に移動する。その間に、ホルスターからハンドガンを取り出して、人差し指にトリガー部分に指入れてぐるぐると回した。彼女にとってはそれが戦闘開始の合図になる。うまく、グリップ部分を握り、銃を構えた。狙いをつけているのか、いないのか、彼女はすぐに発砲した。その弾丸は相手の効果に弾かれた。弾丸は弾かれたと同時に割れたのか、跳弾はどこにも見当たらない。
魔獣はその攻撃に気が付いて、かさかさと足を動かし、攻撃した彼女を正面に捕らえた。魔獣のハサミも尻尾の針も届きそうにない。魔獣は足を気持ち悪く動かして、彼女に近づいていく。彼女は一定の距離を保つように移動して、自身の得意な距離で攻撃する。再び、銃を構えて、三発放った。またも銃弾は甲殻に弾かれる。周りから見れば、むやみやたらと撃てるときに撃っているという印象だ。しかし、デンファレは彼女がただ撃ちまくるだけではないと思っていた。
「ま、こんな感じなら、オッケー。ハンドガンで十分」
彼女は銃口を相手に向けたまま走る。サソリは方向転換と前進は同時にできないようで、すぐに側面に移動するパシューを正面に捕らえようとして、方向転換を続けている。そのせいで、サソリはその場に留まっている状態だ。
彼女は相手に向けて、再び銃を放つ。弾丸は相手の足と胴の甲殻の隙間に入った。弾丸が入るか入らないかくらいの隙間に、弾丸を通したのだ。もちろん、甲殻の無い部分では弾丸の侵入を拒めない。サソリの魔獣は足を失った。動きが鈍ったところに、銃弾が次々と叩き込まれる。足が次々と機能を失い、ついには動けなくなった。動かないとはいえ、相手は硬い甲殻に覆われている。少なくとも、銃弾は効かない。足を壊した彼女は次に、尻尾の付け根を何度か撃って千切った。次にハサミ、そして、目。魔獣はまだ生きてはいるが、どんな行動ももうできない。
「仕上げだし」
彼女はポケットから、栓のされた透明な液体の入った小瓶を取り出した。それを魔獣の上へと投げた。それが魔獣の上に来た瞬間に、それを銃で撃った。瓶が割れて中の液体がばら撒かれ、魔獣へと降りかかる。その液体は魔獣の甲殻に染み込んでいく。やがて、全ての液体が染み込んだのを確認すると彼女は魔獣の胴へと銃を撃った。着弾すると同時に、魔獣の内側から、いくつもの棘が突き出てきた。それは魔獣のものではない。パシューが発生させた魔法だ。パシューはサソリの魔獣に完璧に勝利し、デンファレの方へと振り返り、Vサインを見せた。




