安息の一時
「それにしても、冒険者、ね。今時、冒険者なんていないでしょ。あの黒い城をぶっ壊すの?」
「そうね。それが私たちの最期の目標よ。冗談じゃなくてね」
パシューは馬鹿にしたわけではなく、感心していた。今まで、国の外で出会った冒険者たちは、最初こそあの城を壊そうとしていた人も多かった。しかし、今、国の外にはほとんど冒険者はいない。さらに、いたとしても国からの依頼で、魔獣や獣を狩り、肉を調達することが仕事になっている。もはや、あの城をぶっ壊そうという人はいなくなってしまったのだ。だからこそ、パシューは勇敢にも誰も成せない夢を目標と言える彼女を素晴らしい人だと思えたのだ。
「私はパシューがこんなところにいることの方が気になるわね」
「それは、簡単な話。あたしはマギアル、あ、エルフの国ね。そこから追放されただけだし。なんか、あたしの魔法の理論が気に食わないんだってさ。マジ、信じられない」
当時のことを思い出すとどうにも腹が立つようで笑顔は無くなり、不機嫌そうな顔をしていた。しかし、それも少しの間のことで、すぐにデンファレに笑顔を向けていた。その様子から、気にしていないわけではないだろうが、彼女のなりにそのことと決着しているのだろう。デンファレは特に慰めなどは言わなかった。
「それより、デンファレの注文、すぐに作っちゃうから。じゃ、あとで」
そう言うと、その場から離れていく。
「嵐のような人とは、彼女のことを言うのかもしれませんね」
トールが誰に言ったわけでもなく、そう呟いた。
しばらく、その場で時間を潰していると、パシューが戻ってきた。その手には掌に収まるくらいの袋を四つ持っていた。
「待たせてごめん。ほらこれ」
彼女はデンファレにその小さな袋四つを渡した。デンファレはその内の一つを開けて、中身を確認する。中身は種類の違う木の実三つとそれと同じくらいの大きさの歪な球体の黒い塊だ。中身を確認したデンファレはパシューへと視線を移した。
「そのままだと効果が無いからさ、こうやって、揉んで」
パシューは白衣のポケットから、デンファレが持っているものと同じものを取り出して、その袋の下に掌が来るように掴んで、袋を揉んだ。すると、そこから何かに例えにくい匂いを感じた。肉のような匂いと言うのが一番近いだろうか。臭いというわけではないのだが、好き好んで嗅ぎたいという匂いでもない。
「ふふふ、この匂いが気になる? この匂いは、人間が集まってる匂い。ほとんどの魔獣は自分たちより群れの数が多い場合は、簡単に手を出してこないって習性を利用してるから、魔獣たちの視界に一人で入ったら、これも意味無くなるってこと」
デンファレは何度か頷いて、彼女の話を理解した。貰った袋を子供たちとトールに渡した。使える回数に制限はなく、中の黒い塊、石炭が無くなった時に補充すればいいらしい。これは良いものを貰った。
「それで、こっからどうすんのさ。もう城に向かう感じ?」
「いえ、それは無理ね。私の実力が全く足りないからね。パシュー、もう一つ、頼みごとをしてもいいかしら」
パシューは首をかしげて、デンファレの話の先を促した。パシューの中ではデンファレのお願い事をあまりの無茶でもなければ受けようと決めていた。
「この子たちの面倒を見てほしいのよ。これからは更に危険な場所に行くの。そこに二人は連れていけないわ。だけど、安全な場所なんて国の外にはない。でも、パシューなら二人を任せられるわ。お願いできる?」
「オッケオッケ。それくらいお安い御用って感じだしっ」
満面の笑みで、サムズアップ。彼女は態度は軽いが、彼女はしっかりと二人の面倒を見るだけの用意はあった。彼女の太ももにあるハンドガンは飾りではないのだ。
「二人のことは良いけど、二人はどうするのさ」
「エルフの国の周りにある森に行こうと思ってるわ。かなり強い魔獣が平原と森の境目辺りをうろついているみたいだけど、そこを抜ければ、あとは強い魔獣はいないかもしれない」
「まぁ、それは正解。エルフの国、マギアルには私のこの袋より強力な魔獣避けをセットしてきたし。ある程度、あの国に近づければ、そこから先は魔獣は出ないはず」
彼女はトールとは話し合わないで次の目的地を決めてしまった。トールも近くで彼女の話を聞いていて、それに対してなにも言わないところを見ると、彼女の意見を否定する気はないらしい。もしくは、パシューのことが苦手で何か話せば、自分に話しかけてくるかもしれないから空気になっているのかもしれない。
「そう。わかったわ。森に入れなかったら、また戻ってくるわ」
「あ、そっか。また会ってくれるんだね。そうだな。うん。じゃ、ここら辺にちゃんとした拠点でも建てておくよ。わかりやすいようにね。いつでも戻ってきていいからさ」
「うん。ありがとう」
その後、五人で何事も無く、過ごした。トールにとってはパシューがいる空間は何事もないというわけではないが、魔獣や悪意ある人が来ることも無なかった。子供たちも、安心してぐっすりと眠っていた。寝る時でも魔獣がいつくるかわからないという状況で寝ても疲れは取れなかったようだ。




