気を休める場所
盗賊から逃げてきた日から三日が経った。とにかく、魔獣と出会わないように移動して現在地も見失ってしまっている。それでも、何度か背丈の小さな魔獣を見逃して、戦闘もしてきた。トールは戦闘する度にデンファレの様子がまたおかしくならないか気にしていたが、あの盗賊と戦ったとき以来、彼女がおかしくなることはなかった。対人戦闘のときにしかならないのかもしれないとトールは推測している。人と戦うときは彼女の同行には注意しなければいけないということを頭の片隅に記録しておくことにした。
「お姉ちゃん、なんか少し変な匂いしませんか?」
魔獣が当たりに見あたらない状態が続いていたので、一行は隠れることはほとんどせずに歩いてた。その時に、ユカリが鼻を鳴らしていた。
「変な匂い?」
デンファレも鼻に意識を集中して、何度か匂いを嗅いでみたが、特に変わった匂いはしない。しかし、ユカリにとっては気のせいで済むような匂いではないようだ。彼女にはその匂いの発生源はわからないようで、キョロキョロしているだけだ。ムスブが超能力を使って、周囲を見たが目立つものは何も見つけられない。
「……こちらではないでしょうか。なんと例えたらいいのか、いい言葉が思いつかない匂いが微かにします」
トールが匂いのするであろう方向を指さしていた。どうやら、彼にはその匂いはわかるらしい。一行は彼の指した方向に移動を始めた。
しばらく歩いていたが、特に何も見つからない。トールにも正確な匂いの発生源はわからない。
「まぁ、何も見つからないし、一旦ここらへんで休むことにするわ」
移動してきた先には林のような場所で、魔獣の気配もなく、休むにはうってつけの場所だ。四人はそこで休むことにした。デンファレは既にその場に座っている。子供たちもデンファレの横に座った。トールは座らなかったが、多少気を抜いている様子だった。
トールも含めて、周りに魔獣がいないことが気を緩めてしまう原因となっていた。デンファレと子供たちは足を前に伸ばして、座ってくつろいでいる。そんなとき、草を揺らす音が聞こえた。トールはすぐに辺りを警戒し始める。デンファレも足を戻して、しゃがみながら子供たちを守るように辺りを警戒した。探さずともすぐに、その音の主を見ることができた。
背丈はデンファレより少し高いくらいで、スレンダーな体。健康的な白い肌を持っている。デンファレに負けず劣らずの金髪が肩に届かないくらいの長さで、大きく見える目は翡翠のようだ。前を開けた白衣が目立つが、白衣の中は白いタンクトップにジーンズのホットパンツを着用している。右の太ももにはハンドガンがホルスターの中にセットされている。
(銃ですか。ヴィクター様も同じようなものを使っていましたが、使われるとかなり厄介ですね)
トール一人であれば、銃の処理はできるだろうが、自分以外に銃口を向けられた場合はそれに対処することはできないだろうし、さすがのトールも近距離で放たれた銃弾よりも速く動くことはできるはずもない。しかし、トールの警戒はただの想い過ごしであった。白衣の女性は銃を手に取ることも無く右手を上げた。
「やぁやぁ、こんなところで、どうしたのさ」
白衣の女性は、四人に警戒することもなく、笑顔で話しかけていた。トールもその警戒心の無さに驚いて、硬直している。しかし、デンファレだけは緊張を解いて、彼女の言葉に答えていた。
「少し休憩してたのよ。ここらへんには魔獣もいないみたいだし」
「そりゃそうでしょ。魔獣避け使ってるし」
白衣の女性は、笑ったまま、デンファレの前に行き、距離を感じさせない話し方をする。そんな彼女にデンファレは警戒心を完全に解いてしまっていた。デンファレは彼女が悪い人ではないと判断していた。トールはそんあ気安い人物に会ったことが無く、どう対処していいものか戸惑っている。
「魔獣避け? そんなものがあるの?」
「作ったのはあたしだけど、レシピは冒険者から聞き出したって感じ。ま、あたしなら作れるってだけだし。みんなにも作ってあげよっか」
「いいの? もらえるなら助かるわね。お願いするわ」
「オッケ。ちょっと時間かかるけどいい? その間、ここらへんで休んでていいからさ」
それから、デンファレは名前も聞かず、白衣の女性と意気投合して、騒いでいた。
「ってか、名前、教えるわ。あたしはパシューっていうんだけど、マギアるの元王宮魔法学者なんだけど、追放された感じなんだよね」
「私はデンファレ。冒険者みたいなものかな。あそこで立ったまま固まってるのはトールで、私の先生みたいなものね。この子たちは、ムスブとユカリ。ムスブがお兄ちゃんで、ユカリが妹よ。よろしく」
話の途中でようやく、自己紹介をして、お互いに名前を知った。その間も、トールは二人の話に入ることもできず、二人を見守ることしかできていない。子供たちも、もうデンファレの近くにはおらず、トールの目の届く範囲で、草を弄っていた。
二人の会話はまだ続くようだった。




