夜に襲い来る者
四人は魔獣に見つからないように移動できていた。ムスブとユカリに超能力がかなり有能で、まず、魔獣の姿が見える前に、ムスブがどこに魔獣がいるかを知らせるため、魔獣を迂回して移動できる。デンファレやユカリがついてこれずに、魔獣に見つかっても、ユカリの超能力で魔獣が四人を見失いどこかへ移動していくのだ。これまでデンファレのせいで見つかっては戦闘になっていたトールからすれば、かなり助かっていた。
「本当に有能ですね。二人は」
二人と出会ってから、既に三日ほど経っていた。デンファレとトールは自身の正体がばれないように、きちんと三食、食べ物を摂取していた。睡眠をとっているふりをして、夜の間にトールとデンファレは周囲の探索をしていた。食料確保とデンファレの訓練として、魔獣と戦っているのだ。その間、ムスブとユカリはかなり強力な金属の壁を生成する魔法で守っていた。ちなみにその魔法はトールの物で、デンファレはその魔法をみて唖然としていた。土の壁を固くする以外に材質を変えるという発想はこの世界にはない。
「そうね。助けるとか言ったけど、助けられてるのは私ね」
デンファレとトールは子供たちを残してきた場所へと戻ってきた。彼の作った金属の壁に幾つもの傷がついていた。トールの体内の魔気量が多くて、その程度の傷では魔気が消費されたことに気が付かなかったらしい。
「魔獣が来ていたみたいですね」
デンファレは傷跡をじっくりと見ていた。その傷跡に違和感を感じている。魔獣の知識があるからこそ、何か引っかかる部分があるのだが、それが何かはわからない。
「へへっ。待ってて正解だったぜ。まさか、こんなきっれいな女が旅なんてよ」
「隣のイケメンは私のだから。顔に傷つけんなよ。お前たち」
いつの間にか、デンファレたちは人間に囲まれていた。動物か魔獣かわからないが、獣の毛皮を剥いで、それを利用して作ったような服を着ている。全員、武器を持っている。男女の比率は大体半々だ。男はデンファレの体を舐めるようにみてはにやけ面を晒している。女たちはトールの顔をみて、よだれを啜るような音を立てている。
「はぁ、盗賊ですか」
トールは周りを見て、勝てるという確信を持っていた。しかし、デンファレは剣を抜くことが出来ない。相手が魔獣でないことが剣を抜くことを躊躇わせている。
「と、トール。ごめん。剣、抜けない」
「……そうですか。では、そこで縮こまってなさい」
呆れたように、彼女のことがどうでもいいかのように、そう言った。しかし、トールもこうなるかもしれないというのは予想の範疇だった。
「へぇ、あんた一人でこの人数と戦うってのかい。随分、自身があるみたいじゃないか」
盗賊の人数は、男女合わせて三十もいない。トールは自分の敵じゃないと思っている。だが、少し考えればわかることだが、この魔獣が跋扈する草原で生き残ってきたのだ。さらに、デンファレよくみればわかっただろうが、盗賊が着ている毛皮は魔獣の物だ。つまりは、小悪党ではあるが、その実力は塀の中の国に使える兵士や騎士よりも危険な環境の中で生き残ってきた者たちなのだ。
盗賊たちは一斉にトールに向かっていく。様々な方向から剣が振られるが、トールはその全てを紙一重で回避していく。しかし、手よりも剣の方がリーチが長い。そのため、カウンターを当てることは難しい。だから、彼は攻撃した来た順に踏み込んだり、退いたりして、間合を変えながら、確実に攻撃を叩き込んでいく。パンチ一発で気絶する程度の力に調整して、次々と倒していく。後ろからの攻撃を身を低くして躱し、反転するとほぼ同時に拳を突き上げる。足払いを低く飛んぶと同時に体の角度を変えて、首のあたりに蹴りを叩き込んだ。空中にいる間に、剣が振り下ろされる。剣の面を手の甲で弾じき、地面に足が付いた。周りにいる相手に足払いを掛けるように、彼は前面に足を振る。その攻撃を読めなかった二人は転び、飛んで躱した二人に蹴りをお見舞いする。蹴りは胴に入り、地面に叩きつけられた。転んだ二人の腹にも蹴りを食らわせる。二人は呻いた後、動かなくなった。そうして、残りの敵は盗賊たちに指示していた男と女だけだ。
「さて、残りは貴方達だけですが。当然、戦いますよね」
威圧感と敵意が残った二人の盗賊を襲う。二人は体が引き気味になったのに気が付いて、口角を上げた。魔獣とは比べ物にならない敵。さらに、誰も殺す必要が無いほど強い。それが二人はわかっていたが、それでもここで引き下がることはできない。部下が良いようにやられて、黙っていることはできないのだ。
「おう。やってやるぜ。後悔するなよな」
「私の椅子になるなら許してあげるわ」
男は背中に背負っていた斧二本をそれぞれの手に持った。女は鞭と短剣を取り出し、鞭をしならせ宙を叩き、破裂音を辺りに響かせた。本気で二人は彼を殺そうとしていた。




