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神殺し召喚  作者: ビターグラス
1 わがまま女神の召喚
3/72

どうすればいいの

「信仰がないって。そりゃそうだろ。なんで気が付かないんだよ。地上があんなになるまで放っておいて、地上の生物がその力を信じられるわけがないだろうが」


 言葉は強いが、その声色はかなり落ち着いたものだ。ヴィクターは怒鳴らないように、自制していた。とぼけた女神がふざけたことを抜かしている。地上で暮らす生き物が可愛そうだ。


 女神は抑えきれていない怒気を怖がって、それ以上は言葉が出ない。それに、今更ながら、この世界が本当に危機に晒されていることを理解する。この世界の生き物がいなくなれば、真の意味で信仰が零になるのだ。そして、そうなれば残りの信仰を使い切ってしまえば、瞬時に消滅するのだ。ヴィクターに斬られたときのように消滅に恐怖することもなく、一瞬でこの世界からいなくなるのだ。このままなら、そう遠くない未来でそれが起こる。女神はそれを理解し、絶望していた。


「私が、地上に行っても、もう、何もできない。そして、ここにいても地上にいても、終わりはすぐそこに来てる。あんなに平和な世界だったのに」


 ソファにうなだれ、顔をクッションに押し付ける。彼女は絶望の未来しかないことに涙を流していた。自身の消滅もそうだが、いままで平和に過ごしていたはずの地上の生物たちが不憫でならない。それも自分のせいで、そうなってしまったのだ。もっと早く、助けていればどうにかなったかもしれない。信仰があるうちだったら、自分が地上に降りて、災厄を退けることもできただろう。


「それで、どうする? このまま、世界が終わるのを待ってる?」


「でもぉ、もうどうしようもないもん」


 ソファから顔を上げたが、まだ涙を流していた。最初の頃より酷い泣き顔で、綺麗な顔が台無しだ。


「じゃ、先に消滅させるか」


 ヴィクターは剣身が透明な短剣を持ち出して、女神にそれを向ける。女神はそれに怯えた様子はない。それどころか、絶望に飲まれた彼女はそこで死ぬ方が楽だとすら考えていた。彼女は平和な世界の女神だったのだ。足掻いて、どうにかする経験も手段もない。


「はぁ、もう駄目ですよ。その女神。殺しても殺さなくても同じですよ。ヴィクター様が手を煩わせるような奴でもないでしょうよ」


 そこまで黙っていたトールが口を開いた。今までのやり取りをイライラしながら見ていたのだ。さらに、彼は女神が少しも足掻いて、世界をどうにか救おうとしていないことが腹立たしかった。


「戻りましょう。こんな世界を救っても意味がありません。召喚されても世界を救う義務はないですよ」


 ヴィクターは女神から視線を離した。トールの言うことが正しいと思い、その場所から移動しようと黒い楕円を出現させる。そこを潜れば、もうこの世界と関わることもない。


「待って。待ってよ。貴方なら、どうにかできるんじゃないの。お願い。この世界を救ってよ」


 ソファから立ち上がり、ヴェクターのローブを掴んで止める。そして、みっともなく彼に懇願する。もはや、なりふり構っていられないという必死さしかない。


「だから、俺じゃなくて、あんたが世界を救うんだ。俺がここで救っても、次はどうする? その時、俺はもういないんだ」


「これが終わったらちゃんとする。もっと自分を鍛えて、信仰を得られるようにするわ。だから、今回だけは助けてよ」


「わかった。手助けはしてやる。でも、救うのはあんただ」


 あまりのみっともない姿にヴィクターは折れた。それに、あの邪神の消滅が確認できたのなら、それは面倒ごとが一つ減ることになる。


「それでお願い」


(まぁ、この女神にとっては大事な世界ってことだし。少し力を貸すぐらいならいいか)


「トール。すまないが、この女神の援助をしてくれ。見込みがないと判断したなら城に戻ってきていいから」


「わかりました。貴方がそう言うのであれば、従いましょう」


 その言い方は本当は従いたくないという意見が簡単に理解できるものであった。そもそも、神様と言うものが嫌いであるトールは神のお守りなどしたくはないのだ。


「ああ、そうだ。女神、その格好じゃ目立つから人間と同じ服装で行けよ」


 女神はその言葉に反抗することなく頷いた。そして、ソファの後ろに移動し、そこにある前に捧げものでもらった服を取り出した。




 女神が服を取り換えて戻ってきた。白い布一枚みたいな薄着ではなくなったが、露出自体はあまりあわッていないように見える。袖が無く、お腹も露出ている布製の青の服に、太ももがほとんど露出しているかなり水色の短いパンツに、膝より少し上まである明るい茶色のブーツ。服の上には緑色のケープをつけている。ケープの裾にはいくつかの花が刺繍してあった。シンプルな服装だが、その服装も女神に似合っている。だが、どこにも武器を持っていなかった。


 ヴィクターがここに来る前にいた世界の神様は、必ず自分の武具を持っていた。だが、少し考えれば、彼女が自分の武器を持っているはずがないと理解できる。


「餞別だ。これをやろう」


 ヴィクターは黒い楕円から、一本の剣を取り出し、彼女に渡した。見た目にはあまり特徴はない。剣身は両刃で、鞘は藍色で淵には橙のリングが付いている。グリップ部分は強く握らなくても滑りにくい素材だ。そして、鍔と剣身が十字にぶつかったところに白い宝石が埋め込まれている。


「あんたと一緒に成長してくれる剣だ。最初は売ってる剣の方が強いかもな」


「……ありがと。一応、礼を言っておくわ。それじゃ、行くわ」


「では、私も行ってまいります」


 女神は光のリングを生成しようとしたが、それが出現しないのに気が付くと、ヴィクターの方へと振り返る。彼は少しあきれた表情で楕円を出現させ、今度こそ二人は地上へと降りたのだった。

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