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神殺し召喚  作者: ビターグラス
草原にて
29/72

ムスブとユカリの事情

「それで、どうしてこんなところにいたのよ」


 子供たちはデンファレの問いに顔を曇らせた。こんなところに子供が二人でいる以上、何らかの事情があるのは考えずともわかることだ。二人の暗い顔を見れば、何か酷いことがあったことも理解できる。デンファレは無理に言わなくてもいいと言おうとしたときに、ムスブが話し始めた。




 話を聞き終わると、デンファレは怒っていた。それはトールにするようなすぐ冷める怒りとは違う。二人の話は難しくはなかった。わかりやすい故に、彼女は憤っているのだ。


 二人は生贄だった。フィアレックスは子供が一番好きな食べ物で、あの魔獣が人間の国に迫っているのがわかった国王は生贄として、このムスブとユカリを選んだ。彼らの両親は最後まで反対し、力づくで二人を家から出さないようにしていたのだが、騎士の力に敵うわけもなく、両親は騎士たちに死罪とされて、その場で殺されたらしい。そして、二人を生贄にするのを邪魔する人もいなくなり、二人は国から出て、フィアレックスの餌になるために国から追放された。そして、二人は死にたくない一心で、この場所まで何とか生きていた。


「まだ二日目で二人に会えたのは、凄く運が良かった。ありがとう、二人とも」


 そんな状態なのに、二人は落ち込んだ様子もなく、生き残るという強い意志を感じる瞳をしていた。


「デンファレ。怒るのも無理はアリマセン。私も怒りを抑えているほどです。今にも飛び出して、あの国を滅ぼしてやりたいですが、今はやるべきことをやりましょう」


「トール。私はこんな人間の国も救わないといけないの」


「そうですね。この世界を救うということはそう言うことです。善も悪も、度の世界にもありますから、世界を救うということは、そのどちらも助けることになるでしょうね」


 デンファレは納得いかない表情で、思い悩んでいるようだった。トールは既にそう言うのに対しては割り切っている。ヴィクターの清濁併せ吞むという言葉を思い出す。悪も善も許容してこそ大きな人間になれるという意味だったはずだと、トールはヴィクターがその言葉を語っていたときのことを思い出していた。デンファレも女神という立場で、世界を守らなくてはいけない以上、その世界にある善も悪も許容できなければいけないのだ。小さな器では女神として、世界を見守っていくことなどできないだろう。


「まぁ、いいわ。それで、二人はこれからどうするつもり」


 納得はできなかったが、このままここでずっと悩んでいるわけにもいかない。デンファレは二人の頭に手を置いて、二人に訊いた。二人は少しの間、それぞれで考えているような様子であったが、すぐに困った顔で視線を合わせていた。それも仕方のないことだ。望んでこんな場所に来たわけではない。次にやるべきことなど思いつくはずもない。デンファレはそんな様子の二人を見ていられなくなった。ここまで酷い状況に置かれてもなお、二人で何とかしようとしているのだ。


「わかったわ。とりあえず、私たちに付いてきなさい。どこか落ち着ける場所が見つかるまで面倒見てあげる」


 デンファレはトールの方をちらと見た。彼女はトールに文句を言われるかと思ったが、トールはつまらなさそうな表情で頷いていた。彼も二人の境遇を知り、ここでさよならですとは言えなかった。彼がつまらなさそうな顔をしている理由は、彼自身も人間の国がしたことに苛立ちを覚えていたからだ。ヴィクターの言葉を思い出さなければ、もっと怒っていただろうと、彼自身もそう思った。


 デンファレはトールが頷き、文句も出なかったのをみて密かに胸を撫でおろす。彼はこの二人を危険視していたからだ。一緒に行動して殺されたらどうする、とか言われるかもしれないと思ったが、そんなことはなかったようで一安心である。


「でも、俺たちはきっと二人に邪魔になる。二人でも何とかやっていけるよ。俺たちの超能力を使えば、そう簡単に魔獣には見つからないから」


「うん。そうです。ユカリの隠す力とお兄ちゃんの全部が見える力があれば、簡単には死にません」


 ユカリは得意げに自分たちの超能力のことを話していた。ムスブの全部が見える力と言うのは、周囲の状況が常に理解できるという超能力。ユカリの隠す力は周りから認識されなくなる超能力だった。デンファレたちが二人を見つけたときは、このまま生きているくらいなら、せめて知性ある者に殺されたいと考えたからだ。もし、二人がそう考えていなかったら、デンファレたちはこの二人を見つけることはできなかっただろう。フィアレックスは二人を見つけることが出来ずに、そのまま人間の国を食い荒らしていたかもしれない。


 デンファレは二人の意志の強い目を見つめていた。頑張って生きている二人に少しくらい力を貸したい。彼女はそう思っているだけだ。


「じゃ、私たちが勝手についていくわ」


 二人は仕方ないなという顔をした。そうして、二人はデンファレたちと一緒に行動することになった。

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