ピンチを抜けて
フィアレックスは尾を切り落としたことで、バランスを崩した。頭の方が重くなり、後ろに重心を移動させた。尾があれば、体を支えることが出来ただろうが、今はそれが無い。そのため、後ろに倒れそうになったが、足で体を支え切った。そして、トールの方へと体を回転させた。
トールは魔獣が何をしてくるかわからず、魔獣から離れようとその場から後ろへと飛んだ。魔獣はそれを見て、空中にいるトールに向かって突進し始める。尾が無いせいか、その素早さが先ほどよりも上がっている。空中では躱すことが出来ず、戦斧で突進を受け止めた。先ほどよりは重くはないものの、巨体であることは変わらない。彼にダメージはないものの、その衝撃はそのまま伝わる。彼は後ろへと吹っ飛ばされていく。その勢いを殺そうと、戦斧を地面に突き刺した。それでも少しだけ後ろに引っ張られてそれから地面に足を下ろすことが出来た。
トールが着地しようとするのと同時に、魔獣はトールに向かって火を噴いた。トールはそれを認識したところで、防御のために盾を手に取る時間はなかった。戦斧の頭の部分でいくらかガードできたものの、その部分の面積はあまり大きくはない。防げない火が彼のローブを焼こうとしていたが、ローブに燃えなかった。だが、トールには熱によるダメージはあった。
その熱に怯んでいる間に、魔獣は火を止めて、飛び上がった。ジャンプは先ほどよりも勢いがないが、それでも巨体が迫ってくるというのは迫力がある。トールは後ろに引いて、その攻撃を躱す。魔獣が戦斧の間合にいることに気が付き、すぐに戦斧を横に凪ぐ。しかし、それを理解していたのか、魔獣は再び彼に向かってジャンプ。躱された斧の反動を制御しつつ、相手の動きがゆったりに見えた。それは回避できない、防御できないという未来が見えたからだろう。
「く」
先に口から悔しさが漏れ出した。彼は斧を引き寄せながらも、あの足に踏まれる未来を回避できないのを受け入れてしまっていた。
(一撃くらいなら……)
斧を片手で引き寄せるようにして、右手の鎧で魔獣の攻撃を受け止めようと構えた。魔獣の勢いが止まるはずもなく、巨体の体重が乗った足がのしかかる。鎧の超能力で強化された筋力で魔獣の体重を押し返した。魔獣はバランスが取れずによろける。その隙を逃すほど、彼は油断していない。引き寄せた斧を相手の太い足の中でも細い足首を狙って凪ぐ。その攻撃は見事、相手の足首に大きな斬撃の跡を残した。フィアレックスはその足で自身の体重を支えることはできなくなった。そのまま、顔から崩れ落ち、地面を揺らした。しかし、フィアレックスの目はトールを睨んでいた。まだ、相手の戦意は無くなっていない。それをみて、トールはその首を何度も何度も、斧の刃を叩きつけて、切り落とした。いくら巨体で頑丈なフィアレックスと言えど、首を切り落とせば絶命する。もう目の前のフィアレックスは動かない。
(さすがに強かったですね。もっと楽に勝てると思っていたのですが、そう言うわけにはいきませんでしたか)
トールは鎧をクローバーに戻す。彼は鎧を付けている間は体力が消耗される。全身つければ、三十分しか動けず、そのあとは完全に身動きが取れない程の疲労感に襲われる。しかし、全身つけ慣れれば、その消費はかなり抑えれられる。それでも、彼は疲れたと思える程度の時間、鎧をつけていた。もし、フィアレックスと同じレベルの魔獣が来た場合、彼にそれを倒すだけの体力は残っていない。どこか、魔獣に見つかり難い場所に隠れないといけない。
トールはデンファレたちがいる場所に移動しようと歩き始める。戦闘している最中に、かなりデンファレから離れてしまったことが、そのときになって理解できた。そして、デンファレたちを見れば、魔獣に囲まれていてた。ブラウンレトリバーだ。一匹ならデンファレ一人でも勝てる相手。だが、五匹ほどのブラウンレトリバーに囲まれている。魔獣たちはその牙を、むき出しにして、デンファレたちに噛み付こうとしている。
トールが再び、鎧をつけて走っても、間に合わない距離。さらに、彼が庇えるのは一人のみだ。どれだけ強い人間でも、囲まれている三人全員を一度に襲われた場合、守れるのは一人が二人が限界である。
(デンファレ。何とか死なないでくださいよ)
トールは走って三人の元へと向かった。
(強い魔獣じゃない。でも、私に二人同時に守る力は無い。また、トールに頼ることもできない)
デンファレは剣を抜いて、目の前のブラウンレトリバーに向けた。子供たちと背中が触れあっていて、子供たちの震えが彼女にも伝わっているはずだ。
「大丈夫。二人とも、こんなところで死なせない。私が守るわ」
それは精一杯の強がりだ。彼女もそれを理解している。それでも、顔女はその言葉を嘘にしないための覚悟を決めた。三人でこの場を切り抜ける、その覚悟を。




