VSフィアレックス
吹っ飛ばされたトールは次の攻撃を警戒して、すぐにその場を飛びのいた。彼の予想通り、彼のいた場所にフィアレックスが突進してきていた。
そこでようやく、魔獣の突進を受けて、吹っ飛ばされたことを理解した。突進の衝撃はあったものの、盾でうまく防いでいた彼にダメージはほとんどない。だからこそ、すぐに飛びのくことが出来たのだ。
(槍が突き刺さったはずですが、効いていないのですかね)
彼は魔獣の背中に突き刺さった槍に、戻るように念じると槍は魔獣の背から抜けて彼の後ろに待機した。魔獣の背の槍が抜けた傷からはほとんど血が流れていない。人間でいえば、紙で手を切った程度のダメージなのかもしれない。あの威力の槍ですら、大したダメージを与えられないとは思わなかった。しかし、攻撃の手段はそれだけではない。剣も戦斧もある。
フィアレックスとトールは仕切り直すように再び正面から対峙する。今度はフィアレックスが先に動いた。相手は重心を後ろにして屈んだ。太い尾に体重が乗って、折れ曲がっているようにすら見える。そして、その太い尾で自身の体を飛び上がらせた。トールはそれを見て、すぐに魔獣の方へと走った。トールがいた場所に魔獣の巨体が落ちる。地面が割れたと思えるほどの衝撃がそこにいた全員に伝わった。デンファレと子供たちはその衝撃波に体が痺れているかのような錯覚を覚えていた。トールだけがその衝撃の中でも自身の恐怖を操っている。だからこそ、次の攻撃が避けられないことも理解していた。
魔獣は再び口を開けて火を噴く。トールの後ろにはデンファレたちがいる。デンファレではその火を防ぐことはできない。だから、トールがその盾で守るしかなかった。
「早く、逃げなさいっ。そこにいられると邪魔です」
「わ、わかったわ」
デンファレもすぐに理解を示して、子供たちの手を取って走り出す。トールが防いでいる火にあたらないようにその場を離れていった。
(これで少しは戦いやすくなりますね)
トールは突進を警戒して、剣から槍へと持ち替える。槍の先端を相手の方へと向けた。この状態で相手が突進してくれば、相手の力で槍が突き刺さるだろう。しかし、突進は来ない。相手はまだ、彼の様子を見ているようだった。トールからすればこの魔獣が何をしたいのか全く理解できていない。
フィアレックスは何度か連続で火を噴くと、その熱が体に籠る。その熱を冷ますために休憩して、熱を冷ます習性がある。それを知らないトールは次の攻撃の警戒をするのみだ。
熱が冷め、魔獣が動き始めたことでトールも動き始める。彼は少し開いてしまった相手との距離を一気に詰めて、ジャンプや火の射程から逃れた。そのまま、顔の下に移動して、その槍で喉元を突こうとしたが、そこも槍で傷つけられない程硬い。刺さることは刺さるが、手応えがないのだ。魔獣は足元でつついてくるトールに向かって太い足でけり上げた。動き自体は素早くないので、簡単に躱すことが出来た
槍では埒が明かないので、彼は戦斧に持ち替えた。戦斧を使わなかったのは、相手が炎を吐いたり、飛んだりしていたからだ。器用に動ける相手では、戦斧のような大きな動きを必要な武器は当たらないことの方が多くなる。だから、戦斧で攻撃できるという確信が持てるまで、使わないようにしているのだ。
彼は盾と剣を手放して、戦斧を両手で持って構えた。彼はまだ魔獣の下にいた。その位置で、相手の首目掛けて、戦斧を振り上げた。槍よりも深く刃が入った手ごたえはあるものの、致命傷にはなっていない。魔獣は痛みを感じて、低い唸り声をあげた。足元にいる虫を踏みつぶすような動作で何度も彼を踏みつけようとしているが、彼は既に魔獣の下にはいない。彼は軽く跳躍して、魔獣の背に乗った。そこから、再び軽いジャンプで、戦斧を振り上げた。戦斧が振り路されたのは魔獣の尾の付け根。斧は彼の狙ったところに刃が突き刺さる。しかし、魔獣の肉は固く、見た目三分の一程度しか切れていない。柔らかい肉に到達しているのはほんの少しだ。だが、二撃目が当たれば、次は切り落とせるだろう。同じ場所に二度刃を当てるというのが難しいことであり、ましてや、戦斧という小回りの利かない武器でやるというのだから難易度は高い。
「ふっ。ぐ」
彼は三度飛ぶ。今度は地面からの跳躍で尾の付け根を狙える。戦斧を振り上げて、狙いをつけた。腕に力を入れて、振り下ろす。魔獣がトールの方に向こうと体を回転させ始める。狙いをつけていた場所がずれていく。それでも彼は狙いをずらして、同じ場所をまだ狙っていた。狙い続けて、斧を振り下ろした。
ずしんという大きな音と共に、フィアレックスの尾が地面に落ち、切り口から大量の血が流れ、辺りが振動するほど、大きな咆哮が辺りに響き渡る。




