目的地など無く
デンファレとトールは三日ほど、アニマナイズに滞在して、色々と見て回った。魔獣が襲った傷はあるものの、既に町の人々は自身の生活を始めていた。デンファレはその立ち直りの速さに驚いていたが、トールにとっては驚くことでもない。彼自身にもその速い立ち直りの力はあるからだ。
そして、二人はアニマナイズを出ることにした。宿屋にお礼を言って、店を出た。そのまま門を目指しながら、次の行動の打ち合わせをしていた。
「次はデンファレ。貴女を強くすることです。今のままでは邪神どころか、邪神の使いにも勝てなません。それではこの世界を救うことなどできないでしょう」
デンファレはトールの意見に反対することなく、そのまま聞いている。自分に実力がないのは痛いほど理解できているのだ。
「そして、できれば貴女の信仰の力を溜めることです。私には理解できていないものですが、それが無いと、貴女は力がだせないようですし」
「それは、私が人を救えば大丈夫だと思う。今回も本当に少しだけど、カロタンたちの感謝が私の信仰の力になっているわ」
信仰の力と言っているが、要はどれだけ感謝されているかと言う話である。紙以外は感謝を心で受け取り、それが直接力にならない。だが、神と言う存在はその感謝を自身の力にする特性があるのだ。だから、今回、カロタンたちを守ったことで、デンファレへの感謝がそのまま信仰の力に還元されているのだった。
「そうでしたか。では、これからも人助けをしましょう。貴女だけの力で行ってほしいのですが、無理そうなら手を貸しましょう」
デンファレはトールが手を貸すなんて言うとは思っておらず、嫌われているという認識からは程遠い言葉に違和感を覚えた。しかし、それを言葉にして伝えるのも難しく、結局は彼女はそれを話すことはしなかった。
そうして、二人はアニマナイズを出た。カロタンたちには国を出ると伝えていないので、見送りに来ることはなかった。その代わり、門番の犬の獣人が手を振って見送っていた。
目的はあるものの、目的地は決まっていない。ただ、アニマナイズから離れるだけで、人間の国にもエルフの国にも向かっているわけではない。
人間の国に言ったところでまた追い返されるだろうし、エルフの国に行くには森を森に棲む強力な魔獣を倒さないとの戦闘を想定しなければいけない。デンファレの実力では強力な魔獣に勝つなんてことはできないし、逃げきることもできないだろう。
「トール。次はどこに行くのよ」
「それは貴女が決めることですよ。私の度ではないのですから」
「それはわかってるけど、アニマナイズ以外の国には行けそうもないもの。トールなら何か思いついてるんじゃないかと思っただけよ」
デンファレは腕を組んでトールから顔を逸らす。それでも、トールの隣から離れず、二人は同じ方向へと歩いている。
「あ、そうだ」
デンファレは組んでいた腕を解いて、何か閃いたように目を大きくした。トールは嫌な予感がしたが、とりあえず何も言わずに話を聞くことにした。
「トール。もう、あの黒いもやに覆われた場所に行きましょ。そして、邪神を倒してわりにするわ」
トールはあまりに突飛で無謀な思いつきにため息が出そうになるのを堪える。それでも、額に手を当てるのは抑えられなかった。
「デンファレ。今の貴女の実力では勝てませんよ。カウホンにも勝てないとわかっているのに、なぜ邪神には勝てると思うのですか」
デンファレはそれもそうねと言って、口を閉ざした。そして、何かを考えているように腕を組んで、指を顎のあたりに当てた。トールはその様子を見て、何かいいアイデアが出るとも思えないと思いながらも、自分も大したアイデアが無いので、何も言えずに黙っていた。
しばらく歩いて、アニマナイズよりは人間の国に近い草原の辺りを歩いていた。魔獣を警戒しながら歩いているが、それでも何度か戦闘を行っていた。しかし、二人には戦ったような傷や汚れはない。弱い魔物程度なら、デンファレでも対処できるようになっていたし、トールも戦闘に参加すれば、もはやそこらへんで負けることはなかった。
そんな中、草原の草陰に何かが隠れていた。遠くから見れば、小さな魔獣に見えたが、何か違和感があった。デンファレはその違和感を放っておくことが出来ず、それに近づいていく。トールは既に、引き留めるのを諦めている。たとえ、それが魔獣であっても、デンファレの実力であれば、負けることはないだろう。そう思っていれば、引き留める理由もない。トールは念のため、デンファレの後ろについていった。
その影は近づけば、魔獣でないのがわかった。それどころか、獣でもない。そこに身をかがめて丸まっているのは人間の子供だ。それも二人。服装は小汚い白い布を一枚使って適当に作ったようなワンピースのようなものだけだ。体を隠せる程度の機能しかない。靴もはいていない。まるでいきなり国から追い出されたような様子だ。
二人は近づいてきたデンファレに気が付いた。トールも子供だとわかると、警戒を解いて、近づいた。
「しねっ」
デンファレが二人に声を掛けようと、腰を下ろして手を伸ばした。その瞬間、丸まっていた二人が、ナイフを振るった。デンファレはそのナイフを認識できていない。まさか、子供がそんなことをするとは、デンファレには予想などできはしなかった。




