10/この力を必要としているあなたに、私はこれを返しましょう
「ああ、ったく。またですか」
コロンが久野の口に、右手で何かを放り投げた。突然のことで何が何だかわからなかったが、久野はコロンが投げたそれを、うっかり飲み込んでしまったようだった。
「えっ、久野、大丈夫?!」
「うん、大丈夫。何かちょっと、喉が……」
「え、いや、今、コロンが……」
「久野フミカ。喉の調子が悪いようでしたら、うがいでもしてきますか?」
コロンは何食わぬ顔で、今指輪を投げた右手を戻しゆったりと頬杖をつく。
「うん……ねえコハク、お手洗い借りて良い?」
「え、あ、どうぞ……」
「ありがと」
コロンが久野に気を遣うという不自然な状況にも関わらず、久野は素直に席を外した。
「…………」
「大丈夫ですよ、お兄様。私の指輪は、食べても人体に影響はありません」
「……」
「心や記憶には、効果がありますが」
「……つまり、また久野の記憶を消したのか」
「はい。前にも言った通り、今のお兄様ではあいつを許してしまう。それでは、とても面白くない」
「…………」
久野の記憶を消してしまうのは、良くないことである気はする。でも、僕が許すかどうかに関わらず、人を襲った記憶は忘れていた方が良い。今のところこの結論に、変わりはなかった。
「それよりも、あいつが戻ってくる前に終わらせてしまいましょう」
いつの間にかコロンの左手に、僕が今の今までつけていたうさ耳のカチューシャがあった。
「ちょっ、コロン、それ返して!」
「ええ。勿論返しますよ」
するとコロンは頬杖をつくのをやめ、右手で僕の隣、さっきまで久野が座っていた椅子を指さした。
「いっ?!」
釣られて顔を向けると、隣の席には頭部の無い、クロコの身体が座らされていた。
「この力を必要としているあなたに、私はこれを返しましょう」
コロンがカチューシャを、クロコの身体に向かって放り投げる。するとカチューシャはきれいな弧を描き、クロコの首の断面を通り抜け、クロコの身体の中にすとんと落ちた。
「うわっ?!」
その途端自分の身体が重くなった気がして、バランスを崩した僕は椅子から床に転げ落ちた。
「それではお兄様、良い一日を」
「コロン!」
そして次の瞬間、僕も、コロンも、家の中にあったもの全てが、宙に浮いた。何なら僕の家も、浮かんでいる。まるで天地が反転したような勢いで、僕達は真上に、落ちていった。
「またいつか、どこかでお会いしましょう」
「久野……!」
家や家の中にあったものの方が、僕より少し早く、上空へ落ちていく。遮るものがなくなって見えたのは、道端に停めてあった車や他の建物、地球上の全てが空に落ちていく光景。最後に見たその景色は、少しだけ、幻想的だった。
オーナーを再設定。設定を承認。対象を再認識。オーナーを認証。
サーバからセーブデータをダウンロード。完了。
時差を計算中。完了。現在地を通信中。完了。
「ここは………………僕の家があるはずの場所」
7月13日、朝の10時過ぎ。僕は見覚えのある空き地で、目を覚ました。真っ黒なドローンの群れが空を覆っている。視界に移る僕の腕は白い。僕はまた、アンドロイドになったらしい。
「…………コハク!」
すると、僕の隣で同じように気を失っていたらしい久野が飛び起きた。
「久野! 大丈夫?」
「私は大丈夫……それより、ここって、コハクの家がある場所だよね……」
「え? うん……。ていうか久野、もしかして、元の世界のこと覚えてるの……?」
「あ、うん、そういえば……」
僕がアンドロイドになり、僕の家もなくなった。つまり、ここはアンドロイドのいる世界。ただ以前と違うことが一つ。久野に、アンドロイドのいない世界の記憶が残っているということだ。理由はまだ良くわからないが、それを突き止める上で、はっきりさせておかなければならないことが一つある。
「…………」
久野が辺りを見回している。僕と同じように、いるべきはずの人物を探しているようだった。
「コクノは…………?」
そう、アンドロイドのいる世界にいるはずの人物、いや、天使、コクノ。アンドロイドのいる世界の復活は、コクノの復活を意味している、はずだ。
「はい、その通りです」
振り返ると、空き地につなぎを着たコロンが立っていた。
「コロン……」
「ただ、毎回アンドロイドのいる世界というのは不便ですので。私はフェイザーの言い方に倣い、コクノの創った世界はフェーズ3と呼ばせてもらいます」
「フェーズ3……」
ミウさんは、ゾンビのいる世界を確かフェーズ1と呼んでいた。そしてアンドロイドのいる世界は、フェーズ3。だとすると、元の世界がフェーズ2なのだろうか? 数字の順番に、何か意味はあったりするのだろうか……。
「コロン、コクノはどこ……?」
久野が立ち上がり、コロンに詰め寄る。辺りを見回すが、この場にコクノの姿は見当たらなかった。そしてうさ耳のカチューシャも、頭部の無いクロコの身体も、見当たらなかった。
「すみません。その質問に答えることはできません」
コロンが、僕の後ろの方を見てにっこりと笑った。
「え……?」
振り返ると、金の銃をコロンの方に構えたもう一人の悪魔、クロコがいた。
「その質問に答えたら、私がコクノを撃ち殺しに行くから、か?」
コロンは銃に見向きもせず、空き地の土管に寄り掛かり腕組みをしていた。
「はい。その通りです」
「……これは何のつもりだ、コロン」
「それはあなたに力を貸すためですよ、クロコ」
「……何?」
「私の任務は、星木ミウの捕獲、でしたよね?」
「そうだ。それとコクノの再稼働に、何の関係がある」
「彼女は、アンドロイドに興味を持っていました。フェーズ3が復活すれば、彼女は必ず現れる。彼女の捕獲を済ませてから、まとめてコクノも消去すれば良いでしょう」
要するにコロンは、ミウさんを誘き出すためにこのアンドロイドのいる世界を復活させたのか? まさかそのためだけに、コクノを蘇らせた? でもコクノは死んでなかったんじゃ……。
「それならコロン、コクノの居場所を教えてもらえるか?」
「勿論それは、謹んでお断りします」
「……だろうな」
クロコにコクノの居場所を知られてしまったら、クロコがまたコクノを襲う。多分そういうことなのだろう。この二人は、同じ悪魔と言え完全に味方同士、というわけではなさそうだ
「はい。申し訳ありませんが」
「まあいい。この調子でしっかり仕事してくれよ、と言いたいところだが」
するとクロコが、コロンに向かって何かを放り投げた。反射神経の良い久野には、それが何か見えたようだった。
「え、鍵……?」
どうやらそれは、何かの鍵らしい。
「ミッションコンプリート。約束の物だ」
「どうも。でも、もうよろしいのですか?」
コロンは受け取った鍵を、片目を瞑ってまじまじと見つめている。遠目に見る分には、何の変哲もない錆びついた鍵に見える。
「ああ。これで一旦、契約は完了にしたい」
「契約……?」
そしてコロンに向けられていた銃口が、僕の方を向いた。
「この力を、破壊させてもらうために」
「……え?」
「コハク!」
目の前から銃声が聞こえ、目の前が真っ暗になった。
「……」
僕はクロコに右目を撃ち抜かれ、活動を停止した。
オーナーを再設定。設定を更新。対象を再認識。オーナーを更新。
サーバからセーブデータをダウンロード。完了。
時差を計算中。完了。現在地を通信中。完了。
「………………コハク?!」
7月14日、夜の10時過ぎ。僕は山河工房の作業台の上で、目を覚ました。
「オーナー……いや、久野……?」
「コハク、右目、痛くない?」
「え、右目……?」
僕が反射的に右目をさすろうとすると、久野が慌てて僕の右手を掴んだ。
「ダメ! あんまり触らないで。取れたら怖いから」
「取れたら? …………右目が?!」
久野が何かすごく怖いことを言っている気がする。僕はなるべく頭を揺らさないようにバランスを取りながら、慎重に作業台の上から降りた。
「うん。だってそれ交換するの、私がやったから……」
「交換した? ……僕の右目を?!」
「うん……ねえコハク? コハクはクロコに撃たれた時の事、覚えてる?」
「え? ああ……。そうだ、僕は……」
僕は昨日、この世界ではただの空き地、元の世界では僕の家がある場所で、現れたクロコに右目を撃ち抜かれ活動を停止した。
「あの後、コロンと一緒にこの工房までコハクを運んだんだけど……」
コロンも手伝ってくれたのか。コロンの立ち位置、未だにはっきりしていない気がするのだが、コロンは一応僕達の味方、という認識で良いのだろうか。
「それでその後……久野が僕を修理してくれたってこと?」
「うん。撃たれた右目は治せないくらい壊れちゃってたから。店長に頼んで、新しい右目に取り換えさせてもらったんだけど……」
「えっと……久野が?」
「うん。私が。何か……できた」
そう言って久野は苦笑いをしている。どうやら久野は、ここ数日の異常なまでの環境の変化を経て適応した、というかもう、考えることを諦めたようだった。
「今回のフェーズ3では、そこの久野フミカはアンドロイドショップ山河工房店長、山河虎論の弟子にあたるようです」
いつの間にかコロンが、さっきまで僕が寝かされていた作業台の上であぐらを組んでいた。久野はコロンを見て、少し安心したような表情を見せた。
「コロン……戻ってたんだ」
「すみません。ちょっと野暮用で」
「…………」
とは言え、アンドロイドショップ山河工房店長、山河虎論の正体はそこにいる悪魔コロンだ。何なら生徒会顧問、宮浦悟朗先生の正体もこの悪魔だ。まだこのことを知っているのは僕だけのはず。この事実、いつ久野に言うべきなんだろうか。そもそも、久野に言うべきではないのだろうか。
「……あ、店長から電話だ」
「え」
しかし久野は、スマホにかかってきた山河店長からの電話に出るため、部屋の隅の方へ歩いて行ってしまった。その電話をかけたはずの山河店長であるはずのコロンは、目の前で両手をひらひらさせるとわざとらしく僕に向かってウインクをした。
「私はここにいます。そして、私は何人でもいます」
「……」
「それよりお兄様。あなたにお客様ですよ」
コロンが作業台から華麗に飛び降り、作業室の扉を開ける。すると見覚えのあるアンドロイドが一体、ゆっくりと中に入ってきた。
「ミオさん…………!」
元の世界の元クラスメイト、魚岡ミオ。以前このアンドロイドのいる世界で会った時は、ミウさんに撃たれ活動を停止した、はずだった。
「ご無沙汰しております。アンドロイド・虎丸コハク。私はアンドロイド・魚岡ミオ。オーナーの情報を回収に来ました」
「え、ミオさん、あの時撃たれたけがは、もう大丈夫なの?!」
ミオさんは僕と違って、右目だけでなく胸部も撃ち抜かれていたはず。元の世界に戻れば撃たれたことも無かったことになる、みたいなことを以前コロンは言っていた。しかしその理屈だと、アンドロイドの世界に戻れば傷が復活してしまうのではないかと心配していたのだが、今のミオさんは特に問題無さそうに見えた。
「アンドロイドの、感情に類似した行動を確認……感染体を発見。破壊を開始します」
彼女は僕に銃を構えた。
「えっ……」
しかしその引き金が引かれる前に、それに気づいた久野が、ミオさんの襟首を掴んでいた。
「何で! ミウは……いつもコハクを、そうやって……!」
「……」
「何度も傷つけるの……」
ミオさんは抵抗することも無く、涼しい顔で久野の方を見ている。
「ご無沙汰しております。久野フミカ様。ですが、そのアンドロイドは感染しています」
「お願い、ミウ……もうやめて……」
「かしこまりました。久野フミカ様のご命令であれば」
人間の命令に反応したのか、ミオさんは素直に銃を下ろした。しかしこの様子だと、今回の彼女は元の世界の記憶を持っていないらしい。久野は悔しそうに、そのままミオさんの胸に顔を埋めた。
「どうして……何で……」
「今に始まったことじゃないでしょう」
コロンが伸びをしてから、作業台に華麗に飛び乗ってまたあぐらを組んだ。
「ご無沙汰しております。コロン様」
「これはどうも、アンドロイド・魚岡ミオ。それで久野フミカ。こういうことがある度に、今まであなたはどうしてきたか、覚えていますよね?」
「……」
久野は何も言わずに、じっとしている。
「そう。怒り、憎み、そして…………忘れた」
「……」
「いずれ忘れてしまう一時の感情に、限りある時をかける必要はあるのですか?」
「…………じゃあ、どうしろっていうの」
久野は相変わらず、コロンの方を向くことは無い。
「どうする必要もありません。あなたの命が、その瞬間その感情を必要としていたのですから。それはこの歪な世界にも、必要な力ということです」
「…………」
「ただそうですね。私に力を貸して頂けるなら、彼女のオーナーを見張っていてください。それが、あなたにできることです」
「彼女の、オーナー……?」
「それを探しに来たんですよね? アンドロイド・魚岡ミオ」
コロンが尋ねると、ミオさんはうなずいて答えた。我に返った久野はミオさんから離れ、慌てて服の袖で顔を拭った。
「誰なの? ミオの、オーナーは」
「はい。私のオーナーは、柏櫓ジン様です」
「えっ」
「ジン……?」
柏櫓ジン。元の世界では中学の時まで、僕と久野と彼の姉、ユキさんの四人でよくつるんでいた幼馴染。そしてこの世界では、ミオさんのオーナーなのか。
「柏櫓ユキ様の命で、所縁のあるこの場所へ探しに参りました。ここに、私のオーナーがいらっしゃいませんでしたか?」
所縁のある場所……? どういう意味だ……?
「いや、来てないけど……。ミオさん、それってどういう意味?」
「はい。私のオーナー、柏櫓ジン様が家でなさりました」
「え……」
「家出……?」
久野と顔を見合わせる。あのジンが、家出……?
「…………ホント、笑えないブラックジョークでしょ?」
そして作業室に颯爽と入ってきた三人目の幼馴染が、腕を組んで肩をすくめた。
「ユキ……?」
「ユキさん……!」
「……久しぶりね、久野さん、虎丸さん」
「ユキさん……どうしてここに……?」
「魚岡さんが言った通りよ。私は、弟を探してここに来た。まあ目星はついてるし、ジンが行方不明になったのは魚岡さんがアンドロイドになる前、世界が変わってしまう前のことなのだけど」
いつの間にか工房の厨房を漁っていたミオさんが、アイスティーを四人分淹れて持ってきた。ミオさんがアンドロイドになる前……それはつまり。
「ユキも、元の世界の記憶があるってこと?」
久野が尋ねると、ユキさんは腰に手を当て不敵な笑みを浮かべた。
「ユキもってことは、久野さんも覚えてるようね。それで、虎丸さんの方はどうかしら?」
「……僕も、覚えてる」
「そう。それを聞いて安心したわ。魚岡さんは覚えていないようだったけど、アンドロイドになったら記憶が消える、というわけではなさそうね」
「…………うん。全部コクノの、匙加減だから」
ユキさんの後ろから、聞き覚えのある気がする声がした。今の今まで気づかなかったが、よく見るとユキさんの後ろに小さな女の子が一人、ユキさんの陰に隠れながらこちらの様子を伺っていた。
「久野さん、虎丸さん。この子が誰かはわかるかしら?」
久野と顔を見合わせるが、どうやら久野も知らない人のようだった。
「え、いや……」
「それなら紹介しないといけないわね。私の妹、レイナよ」
「ユキさんの、妹…………?」
「お兄様の弟である私や、久野フミカの妹であるコクノと同じように、ということですね」
今まで黙っていたコロンが、ついに口を挟んだ。
「その言い方…………まさか…………」
ユキさんが、自慢げにその子の頭を撫でる。
「ええ。その通りよ。この子は私の妹でありジンの妹。そしてジンから生まれた、悪魔だった人」
ユキさんがロビーのソファに座ると、レイナさんもその横に座って木の机に頬杖をついた。するとその机に、三人分の紅茶がミオさんによって並べられる。
「悪魔、だった……?」
久野が恐る恐るユキさんの向かいに座る。そして残り一つのアイスティーは、何と悪魔コロンの座っている作業台の上に届けられた。アンドロイドの僕には無いらしい。たいそうおいしそうにアイスティーを味わっているコロンを横目に、僕は作業台に寄りかかった。
「…………そうだ。僕はもう悪魔じゃない。姉ちゃんの妹で、人間だ」
レイナさんはみんなに注目されたせいか、座ったままユキさんにくっついて、ユキさんの陰に隠れてコロンを睨んだ。
「まさか…………契約の代償を自分自身に…………?」
コロンがアイスティーの入ったコップを左手で揺らしながら、どこか楽しそうに笑っている。
「ええ。面白いですよ。次世代の悪魔が、我々が禁忌としていた契約を易々と完了していくというのは。まだこの世界が、面白くなれるということですからね」
「禁忌…………?」
作業室の天井に、なぜか水影が揺れている。コップの中の氷がぶつかる音が、まるでこの部屋がコップの中にあるかのように、部屋中から聞こえてくる。
「お前だって、先代方に比べたら大概だ。お前のせいで、空がいつ赤くなってもおかしくないんだぞ」
レイナさんはそう言うと、いつの間にかレイナさんのコップの中に入っていたストローの先を、思い切り嚙み潰した。
「それは私のせいではありませんよ、レイナ。星木ミウが力を手にした時から、世界の崩壊は始まっていました」
「…………あの人間に力を与えたのはお前だろ? 結局お前のせいじゃん」
「それは私のおかげですね、レイナ。星木ミウが力を手にしたから、世界の復活が始まったのですから」
「あの…………二人とも?」
人間とアンドロイドを置き去りにして、悪魔同士の問答が続く。いや、レイナさんの方は元、悪魔らしいけど……。
「…………姉ちゃん、やっぱり帰ろう。コロンは兄ちゃんの居場所も、コクノの居場所も教えてくれない」
レイナさんがアイスティーを飲み干しソファから立ち上がった。コクノはともかく、ジンの居場所…………?
「……コロン、ジンの居場所も知ってるのか」
「いいえ? あの島は、私の管轄外です」
管轄外…………? あの島っていうのは、まさか…………。
「それなら丁度良いわね」
するとユキさんが僕の方に近づいてきて、飲みかけのアイスティーを差し出した。
「えっと……?」
僕がアイスティーを受け取ると、ユキさんはミオさんの方に振り返った。
「アンドロイドでも、味覚は機能しているらしいじゃない? 魚岡さん? 次からは、虎丸さんの分も淹れてあげること。それから魚岡さん、あなたの分もね」
「……かしこまりました。柏櫓ユキ様のご命令であれば」
レイナさんが飲み終えたアイスティーのコップをミオさんが厨房に下げに行くのを見届けてから、ユキさんが僕の肩を軽く叩いた。
「虎丸さん、この機会に一度、戻ってくるのはどうかしら?」
「えっ……」
「元の世界では、星木ミウという子の親が願望会の支配者だったのよね?」
元の世界では…………? それって…………。
「まさか……」
久野も、コロンも気づいたようだった。久野は眉をひそめ、コロンは口角を上げる。そしてレイナさんが、鼻で笑う。
「そうだよ。この世界では姉ちゃんが、願望会の支配者だ」