タイムリープ?!
どんな人にでも、他人には言えない過去があるでしょう?
"黒歴史"とでもいうのかな。
それはまだ若い小学生にとっても同じはず。
これはそんな物語。
バァン!!
「動くんじゃねぇ!!ガキども!!」
「「「きゃぁあああ!!」」」
3時間目の算数が終わった時、教室内に若い男が入ってきた。
血走った目、荒い呼吸。とても正気とは思えない。
手にはリボルバー。
天井に向かって威嚇射撃として放たれた一撃は学校中に響き渡った。
その衝撃が!迫力が!彼の持つ銃が本物であることを物語っていた。
(またここからか..。)
だが僕にとっては何度も見た光景。
(今度こそみんなを助けてやる!)
佐藤君の決意は揺るがない。
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僕の名前は佐藤健太。みんなからは"サトケン"て呼ばれてる。
"ゴブリン"じゃなくて"ベルリン"のイントネーションね。
東京第二小学校5年3組の11歳。
将来の夢はお金持ちになることと、綺麗なお嫁さんをもらうこと。
好きな食べ物はカレー、お寿司、きゅうり。
好きな人は同じクラスの坂井さん。可愛くて真面目でやさしいクラスのアイドル。
ライバルは多いけど、僕は絶対に坂井さんと結婚してやるんだ!
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いつもと変わらない5月のある日
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!車に気をつけてね!」
「わかってるって!」
僕が靴を履く時に母さんはいつも晩御飯のメニューを発表してくれる。
「今日の夕飯はカレーだからね♪」
「はーい!」
(カレーか!今日は寄り道せずに早く帰ってこよう♪)
まだ登校してもいないのに、帰宅するのが楽しみでしょうがなくなる。
「父さんは?」
「今日は早く仕事が終わるって!」
「やった!」
(久しぶりに一緒に晩ご飯が食べれる!」
父の仕事は警察官。
いつも忙しそうで、晩御飯の時間が合わないんだ。
朝も早かったり、夜は遅かったりで、合わない日の方が多いくらい..。
ちなみに父の好物もカレーだ!福神漬けはマストらしい。
「じゃ行ってきます!」
「気をつけるのよ!」
僕はそう言って元気に家を出た。
最初の角を曲がってすぐのところのゴミ捨て場に、近所の佐々木さんが立っていた。
「ケンちゃんおはよう!」
「おはよう佐々木のおばちゃん!」
「今日も元気ねぇ。何かいいことでもあったの?
「今夜は父さんとカレーなんだ!」
「そう。お父さん今日は早く帰ってきて、一緒に晩ご飯なの..。いいわねぇ。」
「そ、そういうこと!」
「気をつけてね。」
「はーい」
(私も今夜はカレーにでもしようかしら..。)
カレーの波は伝染するらしい。
近所に住んでいる佐々木さん。
僕の母さんより20歳くらい上っぽいけど、女性に年齢を聞くのはナンセンスさ。
いつも朝に会うタイミングが同じだから、自然と挨拶するようになった。
帰り道で「おかえり」と言われた時は返答に困るけど、行きなら無問題だ!
佐々木さんと挨拶した後、いつも通りの道順で学校へ向かう。
学校の前の少し大きな道には街路樹が何本も植えられている。
ひときわ大きな木の下には見知らぬ男性が立っていた。
背丈は175センチくらい。服装は普通だったけど、背中のリュックがやけにパンパンだった。
顔見知りでも無さそうなので、そそくさと横を通り過ぎようとしたら、
「あ、坊や!東京第二小学校ってあの建物かい?」
「は、はい。そうです。僕も東二小なんですけど、お兄さん誰ですか?」
「あ、そうなの?!急に声をかけてごめんね。これから学校?」
「は、はい」
「あ、そうだったんだ。!親戚の子がそこに通うことになったんだけど、場所とか通学路とか知っておきたくてね。急に呼び止めちゃってごめんね。行ってらっしゃい」
「は、はい。行ってきます」
不思議な雰囲気のお兄さんだった。
やさしそうな雰囲気ではあったものの、他の人とは違う"何か"を感じられたような気がした。
(場所ならネットでいくらでも調べられそうだけど..)
しかも今は5月。新入生というわけでは無いだろう。
(転校生でも来るのかな。)
先程のお兄さんが気がかりになったが、考えるだけ無駄なので急いで学校に向かう。
下駄箱に外靴をしまって、上履きに履き替えた時に、後ろから声をかけられる。
「おはよう!サトケン!昨日の宿題やってきた!?悪ぃけど見せてくんね?」
声をかけてきたのは同じクラスの加藤健次郎。
みんなからは"カトケン"て呼ばれてる。
イントネーションは僕と同じ。"ベルリン"ね。
カトケンは頭はいいんだけど面倒くさがり。いわゆる"要領がいい”タイプ。
僕は真面目に宿題もしてるんだけど、そのおこぼれを持っていこうとする。
テストの点はクラスで一番なんだけど、宿題とかをやってこないから、先生も手を焼いているみたい。
裏表なく誰に対しても平等に接するから、人によっては生意気に感じるらしい。
気を使わずに思ったことを言えるから僕にとってはありがたい。
本人には言えないけど、僕はカトケンのことが結構好きだ。
もちろん友達としてね!
「嫌だよ!たまには自分でやれよ!」
「いいじゃんか。減るもんじゃないし!」
「はぁ..。今回だけだかんな」
「助かるわ!4時間目の国語の時には返すから!」
「はいよ」
いつもの何気ない会話。
そんなやりとりをしてた数時間後にまさかあんなことになるなんてね。
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「今日の授業はここまで!日直は黒板綺麗にしといて。次は国語だから、みんな辞書を出しておいてください!じゃあ号令!」
「起立!礼!」
「「「ありがとうございました」」」
「着席!」
担任の森先生は次の授業の準備のために職員室に向かった。
森先生は、今年から僕の学校に赴任してきた女性の先生で、"若くて可愛い"。
新人ながらも僕らのクラスの担任になって、生徒みんなに優しく接してくれる。
男子生徒からはもちろんのこと、女子からの人気もある。
今日の日直は坂井さんと山田君。
坂井さんは僕の初恋の女の子。
1年生から同じクラスで、出会った時からずっと好きだ。
カトケンもずっと一緒なんだけど、僕が坂井さんを好きなことは話していない。
ライバルは増やしたく無いんだ。
山田君はとっても真面目。
いつも成績はクラス二位。カトケンにはなかなか敵わないみたい。
山田君はカトケンをライバルだと思ってるけど、カトケンはそうじゃないみたい..。
先生に言われた通りに、山田君と坂井さんが黒板を消している。
前の授業が算数だったから、消すのに結構苦労している。
黒板の半分を消し終えた頃、山田君が思い出したように、
「そうだ、みんなちゃんと辞書を用意しておいて!無い人いたら隣のクラスで借りてきて!」
(やっぱり山田君はまじめだなぁ。)
辞書はみんな教室の後ろの棚に入れている。
(わざわざ思い辞書を家に持って帰るのは山田君くらいだろう。)
各自、それぞれのタイミングで棚から辞書を持っていく。
休み時間も終わりが近づき、
自分の席について談笑する人、立って話す人、黒板消しをクリーナーにかける人。
それぞれが、森先生が教室に入ってくるまで自由にすごしている。
(教室の最後列から教室の光景を見るのは結構乙なものがあるなぁ)
感傷に耽っていた僕に
「サトケン!借りてたノートなんだけど...」
隣の席のカトケンが話しかけてくる。
と、その時、
!!ドンッ!!
突然教室の前のドアが勢いよく開けられた。
僕に話しかけようとしていたカトケンも驚いているようだった。
(森先生?!そん開け方したらドアが壊れちゃうよ!)
しかし、教室に入ってきたのは森先生ではなく、若い男の人だった。
バァン!!
「動くんじゃねぇ!!ガキども!!」
突然の出来事にクラスのみんなは固まってしまう。
突如として現れた男。
タイトな黒のパンツに、オーバーサイズのパーカー。
右手には拳銃。
男は教室に入るや否や、天井に向かって発砲した。
突然の発砲音と、彼が持つ拳銃を認識するや否や、女子たちが叫ぶ。
「「「きゃぁあああ!!」」」
「うるせぇ!!騒ぐんじゃねぇ!!」
(なんだなんだ!)
教室の一番後ろで僕は、現実とは思えない出来事に唖然としていた。
(あの人、さっきの男の人?!)
「このクラスに俺の弟を殺した奴がいる!!」
...ざわざわ...
みんな怯えているみたい。もちろん僕だってそうだ。
「どいつだぁ!」
佐藤君の長い1日の火蓋が切って落とされた。
「これは誠が〜の時に・・」
クラスに入ってきた男は自身のリュックから弟の遺品を出す。
最初は正気でなかった彼だが、時間が経つにつれ冷静さを取り戻していく。
次第に冷酷になっていく彼に、クラスのみんなは怯え切っていた。
僕たちは最後列である特権を使い、密かにノートの切れ端で会話をしている。
--おい、サトケン。これからどうする?--
隣の席のカトケンは冷静に現状を分析していた。
--お前はなんでそんなに冷静でいられるんだょ!--
--いつだって男は、『心に太陽、頭は絶対零度』よ!--
外からサイレンの音が聞こえるようになってきた。