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Eleven Top

B.K.Bを支え続ける十一本の柱。


隣町のクリップスとの雌雄を決する、若きベテラン達。

 決戦となる当日。ハスラーも含め、メンバー全員がアジトに集結した。大所帯になったので詰所の中ではなく、その外ではあるが。

 メンバーが30人を超えた今、全員が室内に入るというのは厳しいだろう。


「ハスラーはもちろん戦闘には参加しない。初めての攻めの戦いだ。決行は今夜! 気合い入れてかかるぞ、ウォーリアー!」


 マークがウォーリアー全員に向けて檄を飛ばしている。

 その様子を見ながら、俺はハスラーの増員を考えていた。大元の数が多きくなったのだから、資金繰りも強化する必要があるのは明らかだ。最低でもあと三人くらいはハスラーが欲しい。ブツの仕入れ量や、さらなる顧客の獲得も考えなけらばならない。


 ウィザードは今までマリファナ以外のクスリや武器も仕入れてきた。だが、俺はその取引相手を知らない。コンプトンブラッズのレイクからはそれ以外に仕入れている様子はなかったからだ。

 コンプトンブラッズ、あるいはそちらの取引相手に掛け合ってどうにかならないだろうか。


「よぉし、また夜に集合だ! 解散!」


 マークがそう言ってウォーリアーへの檄を終える。特に決めてはいなかったが、奴は戦闘員のまとめ役のような存在になっていた。腕っぷしも強いし、先頭でみんなを引っ張っていくにはぴったりの存在だと言える。


 実は俺とは別に、サブリーダーのようなものを立ててはどうかという話も出ていた。だが、それは初期メンバーであるイレブントップ全員の反対で流れている。

 俺達は十一人を同等だとみていたし、新しく入った奴らも部下や下っ端だとは見ていない。仮にも俺がクレイの血を継ぐ弟としてプレジデントになり、十一人はE.T.と呼ばれて別格扱いされているが、みんな同じ仲間なのだ。偉ぶるつもりはない。

 上下関係もなく、横一列だという考えだ。もちろん意見が割れたりしたときの指針としては俺の決定が最優先されるが、それ以外では誰もが自由に活動できるようにしている。


「サム、ちょっといいか」


 一旦解散するウォーリアー達を見ていると、横からシャドウが話しかけてきた。


「どうした?」


「ウォーリアー全員からの意見があるんだが、どうにも伝えづらいみたいでよ」


「うん? 遠慮するなよ、ニガー」


「実は、今夜の戦いにお前も来てほしいって話なんだ。お前はプレジデントだし、ハスラーだってのもわかってる。だから、一緒に戦えとは言わないが、そこにいてみんなの士気をあげてほしいんだよ。やっぱリーダーが見える場所にいると、現場の気合の入り方が違うだろう?」


 シャドウの言うことも良く分かるが、返答に困る依頼だ。俺がのこのこ出ていって殺されてしまっては、せっかく俺をハスラーに選んだウィザードの計らいが水の泡となってしまう。

 俺は窮して黙り込む。もちろん、それを理解しているシャドウも同様だ。


「……サム、夜までに考えといてくれよな。それじゃまた」


「あぁ」


 悶々としていたところで答えは出ない。俺は久しぶりに母ちゃんに会うため、彼女が使っているモーテルを目指した。家族だというのに離れ離れで生活し始めてしばらく経つ。たまには顔を見せないとな。


 俺がそのモーテルの一室を訪ねると、母ちゃんはテレビを見ていた。良かった、仕事には出ていないようだ。


「あら! サム、おかえり」


 おかえり……か。そうだな。いつだって母ちゃんがいる場所こそが俺にとっての家なのだ。たとえそれが借家だろうがホテルだろうが。

 今となってはたった二人きりの家族。しかし、俺はギャングのリーダーだ。親が喜ぶような生き方じゃない。


 母ちゃんは近所の噂などで俺が何をしているのかは知っているはずだ。しかし、ギャングの話には一切触れない。

 家が燃えたのも、親父を殺したのも、クレイが死んだことだって俺のせいだ。だが、母ちゃんは何も言わない。責めもしない。それどころか俺への心配や愛情ばかりをくれる。


「ただいま」


「そうだ、家なんだけど。小さいものならもうすぐ建ててあげられそうよ。格安で引き受けてくれる知り合いがいてね」


 まただ。俺が燃やしたも同然の家を建て直すために頑張る力強さ。なんだろう、この気持ちは。逆に寂しくも感じる。いっそのこと「アンタのせいで働きづめだ」と罵ってくれてもいいというのに。


 しばらく母ちゃんと話していると、空が暗くなってきた。シャドウとの約束の時間だ。


「そろそろ行くよ」


「あら、もうそんな時間? 忙しいのね。気を付けて」


 母ちゃんは俺を優しく抱きしめ、頬にキスをくれた。なかなか離してくれない。


「行かなきゃ」


「OK。サム、いってらっしゃい」


 別れ際、母ちゃんは部屋の窓から身を乗り出し、俺が見えなくなるまで手を振っていた。


 アジトに到着した。俺からの答えを聞いていないので当然だろうが、まだウォーリアーたちは出発していないようだ。車が何台かガレージに停まっている。

 俺に気づいたシャドウが寄ってきた。広大なアジトの敷地内で、誰もいない場所へと二人で移動する。


「サム、どうだ? 来てくれるか?」


「実はまだ悩んでる」


 俺の頭の中に心配そうな母ちゃんの顔、そして呆れ顔のウィザードが浮かぶ。そして最後に、マーク達が雄叫びを上げながらクリップスに突っ込んでいく姿が思い浮かんだ。


「相手は残り三十人程度だと踏んでる。俺達の数とほぼ互角。あと一押し、決定打が欲しいんだよ」


 シャドウは俺を説得するためにそんな話を持ち出した。今のままでは勝てるかどうかわからない……


「分かったよ。行こう。ただし、お忍びでな」


 俺は頭の中からこの一瞬だけ、母ちゃんの心配そうな顔を振り払った。


 そして、ウォーリアーたちは車に乗り込んで出発。隣町に向かう道中で俺を拾った。アジトに残る仲間、特にウィザードにバレないように俺は一足先に歩いてその場を離れていたからだ。

 だが……


「そんなことだと思ったぜ、サム」


 俺が乗り込んだ車の中には呆れ顔のウィザードがいたのだ。同じく車内にいるジャック、コリー、スノウマン、そしてシャドウは苦い顔である。奴を出し抜こうとしたのは早々に防がれてしまったらしい。

 俺もまさか、こんなにも早くウィザードの呆れ顔を実際に見ることになろう頭は思わなかった。俺がアジトにいないことがばれていたか……


 だが、たとえこの場にウィザードがいようと俺がウォーリアーたちと一緒に敵地へ向かうことは止められない。彼らの士気に影響はないだろう。


「ま、ウィザードがついてきちまったのは想定外だったが、ようはさっさとクリップスを殺せばいいって事だろ」


 助手席でダッシュボードに足を乗せているジャックが言った。


「俺がいるからには無茶なんかさせねぇからな。サム、頼むから突っ込んだりするんじゃねぇぞ」


「もちろんだ」


 俺達の車の列が隣町へと侵入した。五台でぐるぐると町の中を探索する。


「さーて、可愛いクリップスはどこかな? 早く銃弾のプレゼントをしてあげないとな」


 スノウマンがバンダナを口元に結びながら言った。それに倣って、全員がバンダナで口元を隠す。

 さらに三十分、一時間と隣町を流したが、一向に敵の姿は見つからない。シャドウの情報をもとに、奴らの目撃情報が多い場所も探したが、もぬけの殻だった。


「おい、何でいねぇんだよ!」


 みんなが苛立ち始める中、最初に爆発するのはもちろんジャックだ。

 その時、俺のポケベルが鳴った。同時にウィザードの物も鳴り始める。ガイからだ。


『戻れ。クリップス』


 どちらのポケベルにも簡単な単語だけでそう表示されている。


「何だこれは?」


「戻れってのは一体」


 攻撃に来ているのはこちらだ。俺とウィザードが渋い顔をしていると、さらにメッセージが届いた。またもやガイだ。


『攻撃。受けてる』


「「何!?」」


 今、アジトを攻撃されるのはまずい。現在のB.K.Bはほとんどがウォーリアーであり、その全員がこっちに来ている。アジトにいるのはガイやライダーなど、僅かな人数のハスラーだけだ。

 またもやクリップスの偵察要員にでも出し抜かれたのかもしれない。いつの間にかアジトの場所も割れている。


「何だよ、二人とも。盛り上がってる理由を俺達にも教えてくれ」


 俺とウィザードの反応にスノウマンが質問した。


「引き返すぞ! アジトが襲撃されてる! 入れ違いになったみたいだ!」


 ハンドルを握るコリーは即座に車を反転させ、地元へと引き返し始めた。だが、ここでまた一つ大きなミスが生じる。俺達の車両は最後尾を走っていたので、残りのウォーリアーたちを乗せた車を取り残す形になってしまったのだ。

 だが、一秒でも早くアジトに戻らねばならない。ウォーリアーたちが気づいてくれることを願いながら、この車内にいる六人だけで先行した。


 ……


 アジトの近辺に到着した時、既に野次馬や警察が大勢集まっていた。


 車窓から見える群衆の中、逮捕されて連行されるクリップスのメンバーが何人か確認できた。警戒を強めていた警察の尽力でもあるが、クリップスたちがかなり派手にやったんだろう。


 だが、あれで全員と言うには数人しかいない。それに、残っていたB.K.Bのハスラーがいないのも気になる。上手く逃げたのならばいいが……くたばっていないだろうかと不安になる。

 広大なアジト自体はほとんど無傷だと思われるが、捜査が入った今、ここを拠点とすることは不可能だ。


「一旦離れよう」


 俺がそう言うと、コリーが車を出した。

 ガイの家を目指そうとしていたところでライダーから連絡が入った。


『俺の家だ』


 すぐに目的地をガイの家ではなくライダーの家へと変更した。


「サム、すまない。アジトを守り切れなかった」


 申し訳なさそうに言うライダー。ハスラーはアジトを早々に脱出して彼の自室に集まっていた。


「仕方ないさ。全員生きていてくれてよかったよ」


 戦力差が大きすぎた。最後まで踏ん張って戦うなんて判断をしなかっただけでも、俺としては彼らを褒めてやりたいぐらいだ。


「マーク達は?」


 ガイが言った。当然の質問だ。


「俺とウィザードのポケベルに連絡を受けたから、戻ってきたのは慌てて引き返した一台に同乗していた俺達だけだ」


「マズい! まだあっちにいるんなら、隣町に戻って行ったクリップスの残党と鉢合わせになるぞ!」


 俺は戦慄した。どうしてそんな単純なことにも気づけなかったんだ俺は!


「コリー! 悪いがもう一度向かうぞ!」


「当然だ。みんな、車に乗ってくれ」


「ハスラーも加勢する。俺はバイクで先行するぞ」


「じゃあ俺はライダーのケツに!」


 俺の号令、コリーの返答、それに加えてライダーとジミーが車より何倍も俊足のカワサキで先行すると申し出た。

 俺達が車に飛び乗る頃には、さっさとライダーたちの姿は見えなくなっていた。かすかに遠方から甲高いバイクの排気音が聞こえるだけだ。かなり飛ばしているに違いない。


「俺達も急ごう」


 加わったガイが言い、コリーはアクセルを踏み込んだ。


 隣町の入り口辺りでは、既に騒ぎが起こっていた。地元に引き返したクリップスと。残っていたB.K.Bのウォーリアー達がぶつかっているという証拠だ。


「クソが! クリップスは皆殺しだ! 絶対にな!」


 ジャックがイライラと言葉を吐き捨てる。騒ぎは道路のど真ん中で起こっていた。ただ、撃ち合ったりしている様子はなく、ほとんどの連中が入り乱れて殴り合う接近戦となっている。

 クリップスは派手にこっちの拠点に撃ち込んだ後で弾が無く、B.K.BのウォーリアーもE.T.意外は銃を所持していない。急激なメンバーの増加で武器が不足しているからだ。そのせいでこういった形のケンカになったのだと思われる。


「おらぁ! ぶっ飛ばす!」


 マークの怒号が聞こえた。奴はバタバタと敵を殴り倒しているが、それを囲む敵も立ち上がっては再びマークに向かっていく。奴がウォーリアーの大将首だと知れているようだ。


 パァン! パァン!


 発砲しているのはクリックだ。見事に命中させ、数人のクリップスを倒している。

 しかしそれは味方も同じだ。ケンカが始まった時点では弾が残っていた敵も当然いるわけで、撃たれた仲間が赤い服をさらに真っ赤に染めて倒れていた。


 先行したライダーたちの姿も見える。


「コリー! 車を寄せろ! ドライブバイをぶちかましてやる!」


 ジャックがコリーに言った。ドライブバイとは車に箱乗りをし、横付けした車内から一斉砲火をする危険行為だ。コンプトンブラッズがやっていたのがこれに当たる。


「オーライ! 全員窓を開けて構えな!」


 そう言いつつ、コリーは敵に向けて車を突っ込ませた。かなりの数を跳ね飛ばすが、左右に漏らした連中に俺達の銃撃が襲い掛かる。

 クリップスは次々と車体や銃弾に当たって倒されていった。響き渡る味方の歓声と敵の悲鳴。銃を撃つ方はともかく、味方も入り乱れている状況で敵だけを轢くコリーの運転技術はかなりのものだ。


「引き上げるぞ! マーク、お前たちも車を出せ! 俺達のアジトで手いっぱいのサツもそろそろこっちに来るぞ」


 俺は大声で叫んだ。みんなはその指示に従い、撤退の準備を始める。まだ立っていた十人程度のクリップスの奴らは、一気に劣勢になったことで味方を見捨てて逃げ出していった。

 まだ警察は来ていないが、これだけの大騒ぎであれば時間の問題だ。俺達のアジトと、この町での抗争。一晩で二つもの大きな喧嘩が起こり、ようやく町は静寂に包まれた。


 次の日。俺達B.K.Bはアジトではなく、仲間内でセントラルパークと呼んでいる小さな公園に集まった。あの場所にはもう戻れないからだ。


 全員が泣いていた。


 銃によるもの、打撃によるもの、どちらも合わせて死んだ仲間は九人。

 引き上げの際に仲間は全員車に乗せた。動かない奴は病院に送り届けたが、間に合わない奴も多かったのだ。


 隣町のクリップスの連中との抗争は事実上終結した。残るは小競り合いだけだろう。ほとんど壊滅に近い状態まで追い込んでやったが、こちらも失ったものは少なくなかった。

 九人の仲間の命、アジト、それが一夜にして消え去った。


「みんなを……守ってやれなくてすまない。でも、B.K.Bはここからまた蘇る。必ずだ」


「サム、お前だって辛いはずだ。あんまり無理するな」


 精一杯、みんなを元気づける言葉を吐いたつもりだったが、俺の内心を察したライダーがそう言ってハグをしてくれた。俺も激しく嗚咽しながらボロボロと涙をこぼす。

 B.K.Bは第二の家族だ。その仲間をこんなにも一瞬で失ってしまったことが本当に悲しかった。こんなにも大泣きしたのは久しぶりだ。


「見ろよ、みんな。サムはあんなに悲しんでくれてるぜ! こんな男がリーダーで本当に良かった! 偉そうなだけのトップだなんて、まっぴらごめんだからな! 最高のホーミーじゃねぇか! 俺はこれからもサムについていくぜ!」


 マークがふいにそんなことを言った。ガハハと笑う奴の顔は、涙と鼻水でめちゃくちゃだ。

 次第に、「俺も俺も」とE.T.の面々から同調の声が上がってくる。


「どんなに悲しくても、俺らイレブントップはサムについていくぜ~! お前らはどうなんだ~!?」


 クリックが残りの仲間たちに問いかける。すると、期待以上の返事が返ってきた。


「B.K.B 4 life! まだ終わらねぇよ!」


「サム、あんたこそリーダーだ!」


「この境地を乗り越えようぜ!」


 俺はさらにこみ上げてくる涙を必死でこらえた。そして、震えながら声を絞り出す。


「この……マザーファッカーどもがよぉ!」


 全員、見れたものではない汚い笑顔だった。


 ……


 そしてどういう流れか、俺にもついにニックネームがつけられることになった。


『OG-B』


 Bはbloodの頭文字らしい。オリジナルギャングスタと言う意味を考えると、果たして俺にふさわしいのかは分からない。だが、俺の仲間を想う気持ちがこいつらにとってはOGに匹敵する強さだと思われたのかもしれない。

 せっかく考えてくれたニックネームを断るのも野暮だと思い、俺は喜んでその名を名乗ることにした。


 死んだ仲間たちの葬儀は同日にそれぞれの家や教会で執り行われている。そのすべてに出席するのは不可能なので、この日は逝った仲間たちへの弔いの為にセントラルパークで祈りを捧げた。

 死んだ仲間の写真を全員分準備し、それを停めてあるワゴン車に張り付ける。皆が花束やバンダナ、銃弾をそこに捧げ、あとはビールを地面に少しだけこぼして故人のために供えたら乾杯だ。


 俺とウィザード、シャドウはまた別の車で買い出しに行く事になった。葬式代わりの集まりとはいえ、仲間たちが浴びるように飲む酒の量は必要だからだ。


「昨日は本当に大変だったが、こうしてE.T.は全員が生きてる。B.K.Bは死にはしねぇぞ」


 シャドウが言った。確かにあれだけの抗争の中、主力であるE.T.が一人も欠けていないのは奇跡だった。


「E.T.の十一人はB.K.Bの土台だ。誰か一人でもいなくなれば大きく揺らぐ。そうならないようにしないとな」


 運転しているウィザードが言った。ここで、俺はウィザードに聞こうと思っていた話題を振る。


「ウィズ、クロニック以外のドラッグや武器の仕入れ先なんだが」


「いきなりだな、おい」


「教えてくれよ」


「葉っぱはレイクだが、武器はファンキーが流してくれてる。どっちもコンプトンブラッズ頼りだってことさ。ドラッグに関しては……知らなくていい」


 ウィザードの回答はあまり歯切れのよいものではなかった。ウォーリアーであるシャドウは仕入れに関与していないので黙って聞いている。


「知らなくていい? どうして?」


「ドラッグはそうそう扱わないようにしているからだ。個人的に好きじゃないからな」


「そうか。それで肝心の相手は?」


「……マフィアだよ」


 はぐらかそうとしていたのだろうが、ようやくウィザードは観念したかのように答えた。


 俺達が買い出しから戻ってくると、しんみりとしていた空気は嘘のように晴れやかになった。陰鬱な気持ちだったので、もっと酒が飲みたくて仕方なかったのだろう。


「B.K.Bに! そして死んでいった誇り高いホーミーたちに!」


 全員が俺の言葉を復唱し、酒が酌み交わされた。

 盛り上がりはするものの、いつものようなバカ騒ぎとは少し違う。美味そうに酒を飲んではいるが、皆が弔いの為にあまり羽目を外さないようにしているからだ。


 古いラジカセをスノウマンが持ってきた。そしてカセットテープを入れて曲が流れてくる。死んだ連中が好きだった曲も多く含まれていた。

 ジミーがB-walkを踏んでいる。よく見るとR.I.P.の文字を足先で地面に描いていた。器用な奴だ。


 B-walkはblood-walkというブラッズ独特のステップだ。殺した敵の血を使って文字を描くこともあり、そのトリッキーなステップはダンスのようにも見える。

 同じくクリップスはC-walk、crip-walkと呼ばれるステップを踏む。


 このステップはストリートギャングの象徴であり、もしギャングメンバーの目の前でその組織が敵対するギャングのステップでも踏もうものなら、問答無用で射殺される。たとえそれが興味本位でふざけてみた一般人だろうと子供だろうと関係ない。

 そのせいで、地域によっては張り紙や立て看板でそのステップを禁止する場所もある。

 もちろん俺達の地元はC-walk絶対禁止区域に指定されていた。


 ジミーの軽やかな足さばきを見ながら、俺はウィザードの取引相手の事を考えていた。


 マフィア。未知の世界だ。

 奴らとの取引は毎回場所の指定があり、ウィザードは一人で来いと念を押されているらしい。


 単純で力押しがほとんどのギャングとは違い、頭もかなりキレる連中だ。抗争やケンカを嫌い、誰かを殺すときはシンプルに個人を抹殺する。

 緻密、周到、迅速で的確。裏の世界のプロといったイメージ。金の取り回しが得意で、警察やお偉方ともつながっている。組織図はピラミッド型に構成され、上から下へきちんと統率が行われている、といったところだろうか。


 とにかく、次のドラッグの仕入れの際にはウィザードは奴らとの取り決めに逆らって俺と二人で行けるように説得するらしい。

 どうやってウィザードはそんな奴らと知り合ったのだろうか。今日は奴の家に泊めてもらって詳しく訊くことにしよう。

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