電車で出すのは痴漢です・・・!?
8:15
駅に到着。
乗るはずの電車は既に出てしまっていた。次の電車に乗れれば仕事の時間にはギリギリ間に合う。
自分が右手から唐揚げ出す能力者になった事を受け入れるまで15分程かかったようだ。
見慣れた超満員の電車が到着する。降りた人の倍近い新たな人を乗せ電車は発車した。
サラリーマンで埋め尽くす車内で俺の前には数少ない女子高生が立っていた。
むさ苦しい電車の中その制服の後姿を見ていると、思わずスカートに唐揚げをポロリしてしまった。
「アツッ...ッ!!」
聞こえたのは人生終了を思わせる女子高生の悲鳴。ではなくおじさんの低い叫びだった。
「アンタァ?なぁに電車でアッツアツ出してんのぉ!ヤケドしたでしょー!?」
おじさんの怒号が車内に響いた。
「この人痴漢です!」
その怒号に続いて女子高生が叫んだ。
どうやらスカートに発射された俺の唐揚げは女子高生にその温度を感じさせる事なく、悪事を働く痴漢の手を撃退したのだ。
おじさんの怒号をきっかけに女子高生も声を出すことが出来たのだろう。
車内がざわつく中、電車は次の駅に到着した。
近くにいた正義感の強そうな男性の手によっておじさんは電車から降ろされている。
駅員が駆けつけホームは騒がしくなっていたが、1分も過ぎると何事も無かったかのように無事発車メロディが流れた。
「助かった。仕事にも間に合いそうだな。」
ほっと胸を撫で下ろし、車内から騒動を見届けていると、閉まるドアにご注意せずにホームから腕が伸びて来た。
その腕の主は無理矢理安全地帯から俺を引きずり降ろし、ニッコリと笑っている。
「痴漢から助けて下さりありがとうございます。」
何の事でしょうととぼけて車内に戻ろうとする俺に女子高生は言葉を続ける。
「私のスカートに右手から唐揚げを出しましたよね。」
しっかり見られていた。
「触れた人が叫ぶくらいアツアツの唐揚げを。」
「あなたの位置からだと痴漢の手は見えなかった筈ですが...。何故スカートに唐揚げを...。」
たしかに、女子高生の正面の位置にいてスカートの中にあったであろうおじさんの手は俺からは見えていなかった。
雲行きが怪しくなって来た。
間違いない。俺も痴漢と疑われている。
しかも、女子高生のスカートにアツアツの唐揚げを出す事で興奮を得るというアブノーマルタイプ。
いま目の前で消えてしまえば現代妖怪だと思われるかも知れない。
「一緒に来てください。」
もう仕事は間に合わないな。