俺の右手が異世界転移・・・!?
23:00
東京 住宅街 コンビニ
炭酸を片手にレジに向かう。
「からあげさん一つ。...やっぱり二つ。」
会計に移るまでのほんの十数秒に満たない間を潰すように店内を見回す。
店内には俺を含めOL風の女性が1人。彼女もこの後家に帰って晩酌でもするのだろうか。度数強めの缶酎ハイが片手に持たれていた。
「523円です。」
会計を済ませ帰宅途中にアツアツを一つパクり。
帰宅。
冷凍庫から冷やしておいたグラスを取り出し、常備されている焼酎と買ってきた炭酸を入れ濃いめの酎ハイを作る。一口飲んでネット掲示板を開いた。
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...
1億円貰えるVS右手から唐揚げ出す能力 (3)
....
普段なら気にも止めない右手から唐揚げ出す能力スレを今日はからあげさんを二つも買ったせいか気づくと開いていた。
スレの1レス目には「貰えるならどっち?」とだけ書かれていた。
2レス目には2get。
3レス目には1億円。
7レス目を狙ってナゲットの書き込みも考えたが4レス目に唐揚げとだけ書き込んだ。5レス目にからあげと別の人が書き込んだ後、スレは伸びなくなった。
「右手から唐揚げ出せても働かないと行けないもんなぁ。」
ろくに手に職もつけてない30代のフリーターでは手から唐揚げでも出た方が幾らかマシだとは思うが。
「もう12時か、風呂に入るのも面倒だなぁ」
3杯目を飲み終わる。いつもより酒の回りが早い気がするのはからあげさんしか食べて無いせいだろうか。
2パック目の最後の一つとなったからあげさんに手を伸ばした所で記憶は途切れた・・・・。
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カーテンの隙間からこぼれた朝の日差しで目が覚めた。...と思いたい。
寝ぼけているのだろうか。
右手から感じるこの感触で起こされたとなるとフレッシュな目覚めは一転、油ギッシュな目覚めとなる。
右手を確認。油ギッシュな目覚めだった。
どうやら昨日は最後の一つを食べようとした所で寝落ちしたようだ。
「おはようからあげさん。」
からあげさんに朝の挨拶を済ませた所である異変に気づく。
「からあげさん、...まだ温かい?」
「からあげさん、.....最後の一つじゃなかった?」
パックの中には昨日の段階では確かに最後の一つだった筈のからあげさんが二つ入っていた。
そして、そのうちの一つが油ギッシュな目覚めを届けてくれたのであろう。まだ温かい。
残りの数に関して言えば酔っていた事もありただの数え間違いの可能性もあるが、温度は流石に説明がつかない。
「そんな事より仕事の準備するか。」
30歳を過ぎて定職にもつかない男はこの位では動じない。地元の同級生はもう結婚して子供もいるのだ。もちろん結婚式には呼ばれない。それでも俺は動じなかった。唐揚げの温度程度では動じていられない。
シャワーを浴び、歯を磨き支度を整える。今の職場には特に持っていく物も無いからほぼ手ぶらだ。
携帯はポケットに入れた。財布もポケットに入れた。玄関の鍵を閉め、鍵もポケットに入れた。アパートの階段を降りた時に手に持っていた物は唐揚げだけだ。
徒歩で駅に向かう途中、俺は動じていた。
その場に立ち止まり唐揚の乗った右手を見つめ、俺は動じていた。
どれくらいの時間そうしていたのだろうか。見つめていた右手から2つ目の唐揚げが現れた。
いや正確には、3つ目か。
俺は右手から唐揚げ出す能力を手に入れた。