クリスマス番外編(前編)
クリスマスということで、アルフとルーシーのドタバタクリスマスをお届け…。
クリスマスが普通にある世界観です!
前編はちょっぴり不穏ですが大丈夫です!^^
アルフ様が、怪しい。
私はイライラと、イライライライラとしていた。
始まりは数週間ほど前。アルフ様の騎士団でのお仕事がお休みの日。
「最近隣町から王都に来た、新入り騎士団員のエリクってやつと用事があって出かけてくる」
そういって彼は家を出た。
――嘘でしょう?
お休みの日に、アルフ様が私を家において出かける?何?明日は竜巻が起こるの?天変地異の前触れなの?おまけに昨日まで何も言ってなかったじゃない……!!!
結婚して数か月、こんなことは初めてだ。いつもちょっと面倒くさいと思っちゃうくらい私にべったりなのに。
うろたえる私にユリアが言った。
「お嬢さ……こほん、失礼しました。奥様、そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。あの旦那様ですよ?……そういえば世間はそろそろクリスマスムードですね」
はっ!クリスマス……!?
そうか、そういうことね……ふふふふふっ!!
一転して思わずニヤニヤしてしまった私を、ユリアが生温かい目で見ていた。
そうよね、アルフ様だもんね。もしかしたら私を喜ばせようだなんて考えて、サプライズプレゼントの準備なんてしてるのかも!!きゃー!どうしよう!?!?私は何を準備したらいいかな!?!?何をプレゼントしたらアルフ様は喜んでくれるかな……。
「奥様からの贈り物なら、なんでも飛びあがらんばかりに喜びそうですけどね」
「……私、声に出してた?」
「それはもうばっちりと」
……最近、浮かれすぎなのか甘やかされすぎなのか、どんどんポンコツになっていっている気がするわ。す、少し気を付けよう……思い出せ、辛く厳しい妃教育。
いつも1日の出来事を寝る前に手を繋いでお話ししてくれるアルフ様。
だけど、その日は屋敷に帰ってきてからもどこかよそよそしく、話もそこそこに眠ってしまった。
そわそわしてる、だけだよね?アルフ様は嘘のつけない人だから……。
*******
次は、それから数日後。
馬車で王都の街を移動中に、ある光景が目に飛び込んできた。
「え……?何あれ……?」
思わず零れた呟きに、同乗していたユリアも、侯爵家お抱え護衛であるヘルマンも顔を真っ青にしている。
「きっと、何か事情がおありなんですよ!」
ユリアの声が上ずっている。
「そうそう、ほら、2人きりではないようですし……!」
ヘルマン、額に汗かいてるけど?それって冷や汗?
じっと見つめる視線の先には最近流行りの宝石店。
その中に……いた。アルフ様。……と、その腕に絡みつくようにひっついている若い女の子。
私より少し年下だろうか?すっごく嬉しそうなキラキラした笑顔で、何かアルフ様に話しかけているようだ。
小首をかしげて上目遣いで……明らかに熱のこもった視線。アルフ様はちょうどこちらに背を向けていてその表情は見えなかった。すぐそばにもう1人アルフ様と同じくらい体格のいい藍色の髪をした男性が立っていて、3人で出かけているのだろうか?あれが最近よく一緒に出かけているというエリク様??
……ということは、まさか。ちょっと待って?エリク様と出かけると言っている時間はいつもあの女の子も一緒なの……???
ちらっと見えたアルフ様の手元には、オレンジ色の石のついたイヤリングらしきもの。
その子の瞳も、遠くからでも分かるくらい、鮮やかなオレンジだった。
「2人とも、そんなに慌ててどうしたの?アルフ様のことだもの。きっと何か理由があるんだろうなって私だって分かってるわよ?ほら、座って。危ないわ」
ほっと安堵したような表情の2人に笑いかけているうちに、馬車はガラガラ通り過ぎ、信じられない光景は幻の様に視界から消えた。
指先がほんのり冷たくなった気がしたけど、気がつかないふりをした。
*******
そして、今日。
「奥様……」
気づかわし気なユリアの声。他の使用人や、今日の当番で屋敷にとどまっている護衛達も不安そうに私の様子を窺っている。
ごめん、今、私もちょっと余裕ない……。
イライラと、……もやもやと心の底から湧き上がる焦燥感と戦うのに忙しい。
油断すると暴れたくなってしまう。じっとしているのってなんだか不安を冗長させるわね?えへへっ。――なんて、現実逃避をはじめてみるも続かない。
「今日はなるべく早く帰ってくるから!」
朝、にこにこ笑って屋敷を出ていったアルフ様。昨日までは「仕事に行きたくない!どうして明日仕事なんだ!もういい休む!」と言い張る彼を必死に宥めたもんだ。
今日はクリスマス。街中が浮かれてはしゃぐ聖なる夜。
――アルフ様が、帰ってこない。
頭の中では、ずーっと名前も知らないあの女の子が笑っていた。可愛くて、素直そうな子。聞いたこともない笑い声が勝手に脳内で再生されてひたすら耳の奥で響いている。
*******
結局アルフ様が帰ってきたのは予定よりずいぶん遅くなった時間。クリスマスだからと料理人たちがせっかく頑張ってくれた料理も冷めてしまっている。
皆はすでに下がらせた。私を心配したユリアだけが付き添ってくれている。
「ごめん!ルーシー!本当にごめん……!」
乱れた髪で屋敷に飛び込んできたアルフ様。
出迎えた私に慌てて近寄ってきて、いつものように抱きしめる。その時、ふわりと知らない匂いがした。
「……アルフ様。それって何に対してのごめんなの?遅くなったことだけじゃないんじゃない?」
途端にアルフ様の焦った顔が苦悶に歪む。
「やっぱり、ルーシーには全部お見通しだよね……全部、ちゃんと説明する……とりあえず、先に謝らせてくれ。本当にごめん。裏切って、ごめん」
「裏切って」。その言葉にじくじくと胸が痛む。心臓がバクバクしていて、指先が冷え切って、思わず涙がこみ上げかける。――だめ、泣いちゃダメ。何を言われてもいいように強くなるのよ、私……。今から何を言われたって、アルフ様がこれまで私を心から大事にしてくれていたことは嘘じゃない……だから、大丈夫。もしも今日で終わったって――。
アルフ様は涙目になった私を見て一瞬たじろぎ、そして深く頭を下げた。
「本当にごめん……!!!今日はもう無理だけど、明日……はもうないかな……?ちゃんと埋め合わせする!絶対パティスリー・シェリーのケーキ、買ってくるから……!!」
「……は?」
なんでそこで、パティスリー・シェリー?(最近有名なケーキ屋さんだよ!)
今それどころじゃなくない?確かにあそこのケーキを買ってくれるって約束はしてたけど……え?裏切りってまさかそのことなの?
「実は……」
そこから、怒涛の言い訳が始まった。
結論から言おう。アルフ様は、やっぱりアルフ様だった。




