秘密を打ち明ける時
私はアルフ様にゆっくりと秘密を打ち明けた。
時戻りのこと。私と殿下の関係、ミリアさんのこと。お父様が1度目にはハイサ病で亡くなってしまっていたこと、アルフ様の家が没落寸前にまで陥り、ミリアさんとの婚約に至ったらしいこと。1度目にも起こったミスリの薔薇が原因の事件。1度目と今回で少しずつ違っていること……。
ときどき言葉に詰まりながら全てを話していく。アルフ様は驚いた顔をしたり納得したような表情を見せたりしながら、それでも何も言わずに最後まで、この普通ではとても信じられないような話を聞いてくれていた。
全てを打ち明け、胸のつかえがとれたような気持ちになる。同時に、とてつもない申し訳なさが湧きあがってきた。
「アルフ様、ごめんなさい。アルフ様はなんでも私に話してくれていたのに、私は甘えるばかりでこんなに大きな秘密を抱えていました……本当に、ごめんなさい」
アルフ様は怖がることはないと言ってくれた。だけど、恐怖心はやっぱりある。結局こんな話を聞いてどう感じるかは分からないのだ。
それに実を言うと、アルフ様がミリアさんと婚約者同士だった話や、私と殿下がもう明日には結婚するという状況だったことを話すのは内心とても嫌だった。
今とは全然違う、1度目の話。
そんな未来の可能性があったというだけですごくモヤモヤしてしまう。私は本当に自分勝手な人間。秘密を持っていたくないと思ってこんな話を打ち明けているのに、出来ればそんな可能性を知らないで欲しかったと思っている。アルフ様が、たとえ望んでなんていなくたって、そんな未来を少しでも想像するのだと思うだけで嫌な気持ちになってしまう。
ふと自分で自分にびっくりしていた。
そっか……こういう気持ちが独占欲って言うのかも。こんなにアルフ様は私に愛を示してくれているのに、それでも心の狭いことを考えてしまう。「もしも」でも、他の女の子のことを考えないでほしいと思う。
時戻りをする際、ミリアさんの独占欲に驚き「面倒くさい!」と思っていた私はもういないんだ……。
――とはいえ、そんな私の感情は今は関係ない。私の話を聞いた結果、アルフ様がガッカリしても、悲しんでも、怒っても文句は言えない。
こんなに重大な話をずっと秘密にしていたのだということも、謝っても謝りきれない事実だ。
そう思って俯いていると、アルフ様は殊更優しい声で言った。
「ルーシー嬢……俺は嬉しいんです」
「え……?」
「俺とブルーミス嬢の話を聞かれていたとは思わなかったですが……聞いていたなら話は早いです。あの時言った通りです。ルーシー嬢が時戻りをしてくれたおかげで、俺はあなたという最愛の人と婚約することができた。それが1番嬉しいんです。本当に――こんなに嬉しいことはありません」
思わずポカンとしてしまう。そんな私の反応にアルフ様も少し不思議そうに首を傾げた。
――あれって、そういう意味だったの??
なんだかもう……アルフ様が本当にアルフ様で涙が出そうだ……。なんでこの人はいつだって私が1番嬉しい言葉をくれるんだろう?いつだってアルフ様は私を大事に、1番に考えてくれる……こんなにブレない人って、他にいる??
私は本当に幸せ者だ……。
胸がいっぱいで何も言えないでいると、なぜかアルフ様は急に慌てだした。
「あ!もちろんお義父様が死なずにすんだことももちろん嬉しいです!別にそれが大したことじゃないと思っているわけじゃなくて……なんていうか、俺は1度目を知らないので実感が湧いていないだけというか……ああ、どうしよう、お義父様に知られたら殺される……いや?絶対にバレることはないのか?とにかく!決して俺は薄情な気持ちでいるわけじゃないと分かってもらえたら……!」
……もう、本当にアルフ様はアルフ様だ。
「ふふ、アルフ様、私もあなたとこうして一緒にいられることが1番嬉しいです!……それでもやっぱり、本当にごめんなさい」
「!!ルーシー嬢……それなら、あなたを許す代わりに1つお願いを聞いていただけませんか?」
「お願い、ですか?」
アルフ様は一転して真剣な目で私をじっと見つめる。
な、なに?お願いってなに!?――まさか……!?考えついてしまったことに、急激に心臓がどきどきとうるさくなっていく。
私とアルフ様はとっても健全なお付き合いをしている。でも、間違いなく相思相愛の婚約者なのだ。まさか、お願いって、やっぱり……そういうこと……??
思わずごくりと喉がなった。そしてアルフ様は――
「この機会に……お互い敬語を止めませんか?」
「――は?」
そのテンションで、出てくるお願いがそれなの……???
びっくりして見つめ返すと、アルフ様は緊張の面持ちだ。確かに、ずーっと私達は敬語で話しているわね……。それにしたって!
「ふっ、ふふふ……もちろんです!敬語を止めたら、もっと仲良くなれそうですね?――ううん、仲良くなれそうね!」
「!!はい……!」
アルフ様は嬉しそうに笑って、おもむろに私の方に手を伸ばした。予想外の行動になんの反応もできない。
そして、すっかり油断していた私の頬をそっと伸ばした右手で優しくなぞった。
あっ……。
「ルーシー……」
とてつもなく、優しい声。
あまりにも熱のこもった視線に、反射的に目をつむると。その瞬間にはもう、私の唇はふさがれていた。
……それはアルフ様らしい、優しい優しいキスだった。
(空気ぶち壊しの覚悟で彼の名誉のために補足:一応、アルフレッドがそもそも期待してた(下心)のは敬語ナシのお願いの方でしたよ…!)




