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薔薇の特徴

 


 生徒会室を後にして、アルフ様の元へ急いで戻った。


「……ルーシー嬢?どうかしましたか?」


 アルフ様の待つ教室に入ると、すぐに駆け寄ってきてくれた。多分、私は今泣きそうな顔をしていると思う。そんな私を見てアルフ様はびっくり顔だし、一緒にいてくれたらしいダイアン様がそっと教室を後にしたのにも気づいた。だけど、それにお礼を言う気力もない。


 ごめんなさい、せっかく私とアルフ様のために待っていてくださったのに。今度きちんと謝ります……だから今は許してほしい。



 何も言えずに俯いたままぎゅっとアルフ様の手を握る。


 アルフ様は私のいつにない様子に戸惑いながらも、それ以上何も聞かずにそっと私を抱き寄せてくれた。その腕の中が温かくて、少しだけ安心する。気持ちが緩むと思わず涙が滲んでくる。



 アルフ様に聞いてほしい。全部話してしまいたい。

 でも、今はまだそれができない。事態が重すぎて、殿下に口止めされている。当然のことだと思う。









 生徒会室で、床に零れたお茶の葉を見て、ジャック殿下もリロイ殿下も大きく反応した。正直その瞬間はリロイ殿下の反応の意味は分からなかったけど。ジャック殿下の様子に、「ああやっぱりこれなんだ」と分かった。1度目から王都に蔓延していた、危険な植物。

 きっと、このお茶にはその植物が混ぜられている。


 当たってほしくない嫌な予感って、大体当たるものなんだよね……はは……。



 ジャック殿下は顔面蒼白。ひょっとして、殿下もその可能性に辿り着いていたのかもしれない。だってまだ何も言っていないのに、なんとなく私が持ってきたものが何だったか思い当たっていたみたいだ。


 でも、はっきりと言わなければならない。


「殿下……これは4年前、1つは父が王宮で同僚にもらったもの。もう1つは……恐らく殿下もお気づきの通り、ミリアさんに頂いたものです」


 立ち上がっていたジャック殿下が、力が抜けたように会長用のソファに座り込んだ。

 対照的に、リロイ殿下が声を上げる。


「4年前!?4年も前にこれを!?」


 思わずたじろいでしまうほどの勢いと剣幕。リロイ殿下もこのお茶に混ざる植物のことを知っているの……?



「ルーシーにそれを渡したミリアって、あのミリアだよな?4年前……どう考えればいい?一体どこまでが……」


 リロイ殿下は頭の中を整理するかのようにブツブツと呟いている。


「あの、リロイ殿下はこのお茶に使われている植物についてご存知なのですか……?」


「この匂い。特徴的だと思わないか?恐らくこれは元々ミラフーリスの植物だ」

「えっ!?」


「どういうことですか?」


 呆けたような顔のままジャック殿下が尋ねる。


「……ルーシーはミスリの薔薇を育てる注意事項をマリエから聞いただろう?それなら知ってるはずだ。ミスリの薔薇が育て方によってただの薔薇にもなれば、毒も薬も生み出すことがあるって」


 屋敷で育てている薔薇と、マリエ様が添えてくれた注意書きを思い出す。



「ミスリの薔薇がまだ正式に流通できないのは、毒を作り出す可能性があるからだ」



 ……ミスリの薔薇は育てるのが難しい。


 まず、きちんと咲かせるためには土の状態や成育環境の他に、一緒に土に植える雑草の配分が大事になる。ミスリの薔薇だけではなぜか咲かないのだ。


 そして、一緒に育てる雑草の種類で香りが変わる。

 花の、成分自体が変わるらしい。香りだけが変わればいいけれど、組み合わせによっては毒にも薬にもなる。

 そう、文字通り条件が揃えば、ミスリの薔薇も、一緒に育てた雑草も、毒になる……。



 注意書きには、絶対に一緒に植えてはならない雑草についても書いてあった。




「後数年すれば、ミスリの薔薇の毒を殺す薬品が完成する。それまでは、俺ら王族が流通を管理してるんだ。国から一切出さないことも検討されたけど、規制を掻い潜って広まってしまうよりはいいと考えられた。人は禁止されると破りたくなるだろ?だけど、数年前からどうにも数が合わない。恐らく密輸されている。……その取引相手を俺は探してたんだ」




 ……ブルーミス男爵家は、他国とも広く取引のある商家だ。


 ミスリの薔薇を、密輸してた……?


 それとも、そうとは知らずミスリの薔薇で生み出した毒を混入したお茶を仕入れた?



 どこまで関わっているかは分からない。

 ただ、全くの無関係ということはないのではないかと思う。



 ミリアさんはどこまで知っていたの?


 もしも、全て知っていたのなら……。





 ブルーミス男爵がどこまで関わっているか調査しなければならない。殿下はそう言ってこのことを口外しないようにとだけ言った。


 リロイ殿下にとっても、やっと見つけた糸口。ミラフーリスでブルーミス男爵と関係のある者たちを調べるらしい。




 もしも、ミリアさんが全て知っていて関わっているとしたら。

 もっとミスリの薔薇が関わっている事は多いかもしれない。




 生徒会室を後にする直前、殿下の様子をちらっと窺った。


 気持ちを切り替えたのか、しっかり立ち上がり、リロイ殿下と今後について相談している。


 だけど……ミリアさんは殿下が、時戻りをしてでも妃に迎えたいと願った愛する人だ。


 もしもミリアさんが全てを知っていたら……いや、ブルーミス男爵がこのことを知った上で関わっていたらその時点でアウトだ。




 その時は、殿下がミリアさんを妃に迎えることはできなくなる。







 アルフ様の腕の中で、私の頭の中には2度目に起こった、あるいは起こらなかった不自然な事がグルグルと巡っていた。





※ミスリの薔薇については完全に作者の空想上の植物です!


品種改良で成分が変わったり、交配で新しいものを作ったり、毒のあるものを接木にして毒のある実がなったり……なんてことの掛け合わせのイメージです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お茶も薔薇も怪しいって思ってましたが、なるほど掛け合わせ?ですか! ミリアの父親が言ってた「それではもう、あれは良いんだね」って、やっぱり候爵家の事ですよね? ルーシーの所にお茶、王妃の…
[一言] >ミリアさんはどこまで知っていたの? >もしも、全て知っていたのなら……。 ミリア視点の話を読む限りでは、全く知らなそうなのですが、あの視点がどこまで本当なのかは何とも言えないんですよね~…
[良い点] アルフ様もリロイ君もジャック殿下もそれぞれが魅力的で読んでて本当に楽しい [一言] ルーシー嬢、アルフ様に隠し事するのは事情もあれだし仕方ないかもだけど、アルフ様は全部オープンにしてくれて…
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