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さっそく2回目のスタート


 それは私が10歳の頃のこと。


「ジャック・リオ・グライト第一王子だ。よろしく」


 キラキラと日の光を反射する銀髪に、夜明けの空を閉じ込めたような濃紺の瞳。

 まるで天使みたい!と思った気持ちのまま、この人に恋をする未来もあったかもしれない。

 ……婚約者になったばかりのジャック殿下が、私と目も合わさずにこれ以降ため息しかつかないなんてことがなければね!


 ジャック殿下はどうしても私が気に入らないらしく、その態度は徹底していた。

 妃教育の合間にと、週に1度と最初に決められていたはずの婚約者同士親睦を深めるお茶会は気が付けば2週間に1度、1か月に1度とあっという間に頻度が減っていき、会っても顰め面でお茶を1杯飲んで帰っていく。


 ちなみに王妃様はずっと週に1度のままだと思っている。本来殿下とお茶をしているはずの3回に1回は、私は王宮の厨房に入り浸りおやつをもらって食べていた。


 それから少し成長しても、隣に立つのは婚約者同伴必須のパーティーのエスコートの時のみ。それも、義務だから仕方ないとばかりに無言でファーストダンスまで踊り終えたらハイ解散である。


 王宮でも、16歳から3年通った王立学園でも、すれ違う時に目も合わず当然会話もない。あれ?この人私の名前覚えてるのかな……?と思うくらいには名前を呼ばれたこともなかった。



 もちろんミリア男爵令嬢の存在は知っていた。当然でしょう?あれだけ噂になっていればね。周りの意地悪なご令嬢方はわざわざ直接忠告してくださっていたし。「肩書だけの婚約者様」って随分馬鹿にされていた。


 気にかけてくれる人ももちろんいたけれど、あからさまな殿下の態度に私に関わると不興を買うのでは、という空気が出来上がっていた。それでも声を掛けてくれる人は、私が自分で遠ざけた。そんな優しい人を巻き込みたくはなかったから。おかげで友達はいなかった。これに関しては正直結構恨んでいる。


 それでもこれは政略結婚。私に求められているのは愛し愛される王太子妃ではなく、将来の王を支え公務に邁進するお仕事人間なのだと自分に言い聞かせ、割り切り、勉強だけは必死に頑張った。


 それなのに……結果はご存じのとおりである。


 私を毛嫌いし、遠ざけ、それでも婚約者としたまま愛する機会も愛される機会も奪っておいて、自分は「愛を貫きたい」と来た。


 やっぱり、こうして思い返すだけでもはらわたが煮えくり返りそう……!


 ――私は決めた!せっかく時を戻り人生をやり直すのだから、きっと愛し愛される結婚をすると!そのためにも、私の記憶に暗い影を落とすジャック殿下とは、絶対に最低限しか付き合わない!


 絶対に――!









******



 はっと意識が覚醒する。

 バチバチと視界が眩しく光り、何度か瞬きを繰り返してようやく白い世界に色が戻る。


 呆然とした思いで何気なく自分の両手の平を見つめた。


 手が……ほんの少し小さい気がする。


 本当に、本当に時戻りはあったんだ!時が戻った!人生2回目の幕開けだ!(途中からだけど)


 体の感覚も戻ってきて、思わず立ち上がり小躍りしそうになった瞬間、はたと気付く。


 ……ちょっと待って?



 広いガーデンテラス。美しく整えられた庭園。

 目の前に広がる真っ白なクロスのかけられたテーブル。その上の高級そうなティーセットと、香り立つ紅茶。大好きだった、甘いチョコレートソースでウサギやクマの顔の書かれた可愛らしいカップケーキ……。


 ちょっと待て。



 嫌な予感がして、恐る恐る自分の対面に視線を向ける。



 おいー!ちょっと待て!!


 目の前の、呆然とした表情の天使のような男の子と目が合った。

「嘘でしょう!!」


 天使……もとい最後に見た時よりも少しあどけない顔をしたジャック殿下は私の言葉に反応して目を見開き、次いでその顔をくしゃりと嫌そうに歪めた。



 おい!殿下!馬鹿殿下!


「もう婚約しちゃってる時に戻ってどうするのよーー!!」


 それは間違いなく、殿下と私の婚約者としての親睦を深めるためのお茶会だった。



******



「状況を整理しましょう」


 私の突然の大声に驚き集まった侍女や護衛達をなんとか誤魔化しなだめすかし、何かあればすぐに駆け付けられる程度の距離まで離れてもらって実質ジャック殿下と2人きりになる。


 ちなみに、渋る護衛に「ちょっとだけ、内緒のお話がしたいの、お願い」と顔の前で手を組んで上目遣いをしてみたらあっというまに聞いてもらえた。まだあどけなさの残る今ならば「可愛げがない」と評判だった私でも可愛くおねだりできるのだ!ちなみにあざと仕草はミリア男爵令嬢の真似である。私は学べる子。


「周りの様子を見る限り、今は婚約して3年後、13歳の春過ぎだと思ってよさそうですね?」


「どうしてそう思う?」


 私は庭園の一角を指し示す。


「あそこだけ、バラの種類が違います。あのバラは視察先の隣国で新しく品種改良された新種のもので、バラのお好きな王妃様のために国王陛下が植え替えを命じられたものだと記憶しています。確か13歳の春過ぎ頃がちょうどその時期ですので、間違いはないかと」


「君は、5年も経っているのに細かく覚えているのだな……」


「記憶力には定評がありますので」


 おかげで妃教育の教師陣にも、飲み込みが早いと絶賛され大変気に入られていた。

 ジャック殿下は仏頂面で「そうか」と相槌を打つ。


「あの、今更こんなこと言っても仕方ないとは分かっていますが、婚約する前まで戻れなかったんですか?」


「……戻る時間は、戻りたいと願うその望みが叶えられる時間までだと書いてあった」


「戻りたいと願うその望み……?」


「君は何を思って時戻りを決めた?」


 時戻りを決めた理由?まあ、愛のある結婚もその1つではあるけれど……1番の理由はもちろん。


「父の命を助けることですかね」


「君の父上のレイスター公爵は来年、私達が14歳になる年に亡くなったと記憶している。13歳に戻れば1年ある。それだけあれば十分準備してその死を防げるだろうな。……つまりそういうことだ」


 どういうこと!?

 いや、言っている意味は分かる。分かるけど。


「殿下は!?殿下は私との婚約を取りやめたいと願ったのではないのですか?」


 そうであれば戻る時間は私達の婚約が結ばれる前になるんじゃないの!?

 しかし目の前の外見天使は悔しそうに顔を歪めて宣った。


「私は……そのつもりだったが、戻る直前あまりの喜びに思ってしまったかもしれない」

「何を」

「これでミリアと結婚できるのだな……と」


 え?どいうこと?それでなんで13歳で妥協されるの?


「つまり、私の願いは君との婚約が解消されさえすれば叶う。正式に婚約発表のパーティーを開いたのは学園入学前、15歳のデビュタントでのことだ。……それまでは大丈夫という判断なのだろう」


 はあ??ていうかそれって誰の判断?……多分あなたのですよね!?


 思わず殿下をじとりと睨む。


 つまり何?要するにそれって、やっぱり意識のどこかで婚約解消してミリア男爵令嬢――もうミリアさんでいいわね。ミリアさんと結婚出来れば私が恥をかくだとか、レイスター公爵家の名に傷をつけるとか、そんなのどうでもいいと思ってたってことじゃないの?



 なんて嫌な奴なのか!やっぱり一緒に時戻りしてよかった。

 そうでなければどんな理不尽な行動をされたことか……。


「殿下……私、あなたにみじんも興味はなかったけれど、今日から嫌いになりました」


 心の叫びのまま、出来る限り睨みつけてそう告げる。

 不敬?知ったことか!この湧き上がる怒りをどーしても!伝えたい衝動に抗えなかった。

 殿下は目を丸くして私を見つめた。


 そして次の瞬間、「ぶふっ」と音まで立てて思い切り吹き出した。



 ……いやなんで?






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