マリエ様、隣国へ
「アリシア様、泣かないでください……」
「だって……!」
「ルーシー様も、嬉しいですけど、さすがにちょっと……」
「マリエ様~!」
涙が止まらない私とアリシア様、そしてちょっと困惑気味なマリエ様。
ここ数か月で覚悟を決めていたつもりだったけれど、やっぱり寂しい…!
「あの~移住するとはいえ、全く帰ってこないわけではありませんし……というかこちらでしか育てられない薬草もあるので割と帰ってくる予定なんですけど」
今日ついにマリエ様は隣国に向けて発つのだ。移住先はミラフーリス王国。そう、あのリロイ殿下がいらっしゃる国である。
私達はもうすぐデビュタントを迎える。マリエ様は向こうの学園に通うことになるため、デビュタントも向こうで迎えることにしたらしい。そのためこの時期での移住が決まった。
「まあ確かに、デビュタントをお2人と迎えられないことや、一緒に学園に通えないことは残念ですけど。それでも、これからも私と友人でいてくださるでしょう?……いてくださいますよね??」
「もちろんですわ~!!」
「当たり前じゃないですかー!」
飛びつくようにマリエ様に抱き着く私達2人。
「もう、本当に泣かないで……そろそろ私もつられちゃう……」
結局3人でひとしきり泣くことになったのだった。
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「ぐす……マリエ様、最後は颯爽と行ってしまいましたね……」
「そうですわね……私たちの方が泣いてしまいましたわ。でもきっと、馬車の中でまた泣いてますわよ」
マリエ様とアリシア様は幼馴染だから、きっと彼女のことがよく分かっているのだろう。鼻をすすりながら、アリシア様は少し笑っていた。
「ルーシー嬢!」
アルフ様が少し遠くから大きな声で私を呼ぶ。もう、もっと近づいて呼んでくれればいいのに!彼はいつも姿が見えるとすぐにこうなのだ。
「ルーシー様の忠犬が迎えにきましたわね」
「犬だなんて」
「別に悪口で言っているわけじゃないんですよ?ほら、よく見てください?ルーシー様の姿が見えた途端嬉しそうに走ってくるあの姿。無邪気な大型犬のようですわ。耳としっぽが見えてくる気がしませんか?」
そんなわけ――。
じっとこちらに駆け寄ってくるアルフ様を見つめてみる。栗色のさらさらの髪の毛。キラキラ輝かせた空色の瞳。嬉しそうに緩んだ表情を隠しもせずに、まるで慌てるように走り寄るその姿……。
「ないとは言えないかもしれないですわ……」
「ほら!アルフレッド様は動物に例えると絶対犬ですわ」
茶色い耳とふさふさの尻尾が簡単に想像できてしまったわ……!
「???どうされましたか?」
すぐ側まで来たアルフ様は不思議そうに首を傾げる。いつものように私の手を握るのも忘れない。なんだか向かい合った時に両手を握るのが普通になってきている……。
「はあ……、私もそろそろ真剣に婚約者を探そうと思いますわ……それではルーシー様、アルフレッド様、私は行きますわ。きっと次に会うのはデビュタントの時ですわね!」
「アリシア様!またデビュタントのときに。楽しみにしてますね」
デビュタント。真っ白のドレスに身を包むアリシア様はきっと綺麗だろうな~!でもやっぱり、マリエ様のデビュタントのドレス姿もやっぱり見たかったわ……。あ、やばい、なんかちょっとまた泣きそう。
そんなことを考えながらこっそり涙をこらえていると、ポツリとアルフ様が呟いた。
「デビュタント……やっぱり俺がエスコートしたかった……」
すごく……悔しそうな声で言うわね……。笑い飛ばすのも悪い気がするような声色、だけど慰めるのもおかしな気がするし。うーん。
そもそもグライト王国ではデビュタントのエスコートは父親が務めることが1番多い。中には婚約者が相手のこともあるが、最近ではデビュタント以降に婚約者を探すことも多く、その数は少ないのだ。
アルフ様はお父様と、私のエスコート役を巡ってしばらく戦っていた。そして結局負けた。
「僕はルーシーが生まれた時からデビュタントのエスコートを楽しみにしてたんだ!アルフレッド君!これだけは絶対に譲らないぞ……!」
さすがに可哀想なので私がお父様に軍配を上げた。
それに……ちょっと感慨深かったのだ。1度目は14歳の誕生日の前に亡くなったお父様。当然デビュタントのエスコートの夢は叶わなかったわけで。おまけにジャック殿下は王家として王族席での参加になるため、結局エスコートは親戚のおじさまにしていただいた。
今回はお父様とデビュタントを迎えられる!そのことがたまらなく嬉しい。
アルフ様は……これからいくらでもエスコートしてもらえる機会はあるから!実際それもすごく楽しみなことの1つ。全然いい思い出のないありとあらゆるパーティーだけど、きっと2度目の今回は幸せな思い出になるに決まっている。なんたって一緒に参加する相手がアルフ様なんだもの!
なんだか私、時戻りをしてからいいことばっかりね?お父様は元気で、素敵な友達もできて、いつだって私に甘く微笑んでくれる大好きな人が婚約者!1度目にどんなに辛くても泣き言ひとつ言わずに頑張ったご褒美をまとめて貰っている気分だ。
「アルフ様、デビュタントで一緒にダンスできるのを楽しみにしてますね」
手をぎゅっと握り返してそう言うと、アルフ様は途端に嬉しそうな表情になって何度もうなずいた。
……やっぱり耳としっぽが見える気がするわね?
そして、デビュタントの日がやってくる――。
次回!ついにデビュタント!各々が各々を見て何を思うのか…




