婚約披露パーティー
「ルーシー様……幸せそうで何よりですわっ!」
「ありがとう、アリシア様!」
私の手を握り涙目で喜んでくださるアリシア様。今日ばかりは『つんでれ』も発揮されることなく、言葉でも態度でも心の底から祝ってくださっている。いつもの素直になれないアリシア様も可愛いけれど、やっぱりストレートにお祝いされるのも嬉しい!
「本当に、お似合いのお2人ですね」
「マリエ様も、ありがとう」
ニコニコと、その隣で私達を見つめるマリエ様。
そう、私とアルフ様を。
「ルーシー嬢のお友達に認めてもらえたようで私もとても嬉しいです。今日は私たちの婚約披露パーティーに来てくださりありがとうございます」
にっこり柔和な微笑みを浮かべアリシア様とマリエ様にお礼を述べるアルフ様。今日のアルフ様は「かっこつけバージョン」のようだ。
招待客の他のご令嬢もチラチラとアルフ様を見ては頬を染めている。
ついにお互いの誤解も解け(私が大体悪かった!)正式な婚約者になった私達。あれからしばらく経ち、今日やっと婚約お披露目パーティーを開いているのだ。
すぐにお披露目が出来なかった理由。それは――。
「それにしても、時間をかけてこだわっただけあって本当に素晴らしいドレスですわね」
アリシア様がうっとりとため息をつく。
そう。お披露目に時間がかかった理由は、まさにこのドレス。
お父様とアルフ様が、私が身に着けるドレスに尋常じゃない程のこだわりを見せたのだ!デザインのみならず、生地や縫製技術にまでこだわり、わざわざ遠方へ生地を買い付けに行ったり特別な職人を招いたりしてすごかった。おかげで随分時間がかかってしまった。
……それって普通お母様が張り切るところじゃない???
――――――――――――――
「僕の可愛いルーシーが身に着けるドレスだよ!?お父様頑張るから!期待していてね!」
「そうですね、俺の天使ルーシー嬢のドレスは飛び切りこだわって特別なものでなければ!頑張りましょうお義父様!」
「婚約者になったからってお義父様って呼んでいい理由にはならないからなアルフレッドそれからちなみに僕のルーシーはお前の天使じゃないぞ調子に乗るな」
「にゃーんにゃんにゃあん」
「っミミリン!?どうしてアルフレッドの方にすり寄って……!」
「ミミリン様は俺を認めてくれてるようですねお義父様!!!」
アルフ様に頭と体をぐりぐり擦りつけるミミリンと、ものすごく得意げなアルフ様、崩れ落ちるお父様……いや、なにやってるの??
「ルーシーちゃん、ドレスは男2人に好きにさせてあげましょう。大丈夫よ、お父様はドレスのセンスも抜群だから!結婚する前、いつも贈ってくれるドレスが素敵でね~お母様は周りの令嬢に羨ましがられていたわ?それからね――」
「姉さん、母さん話し出すと長いから。向こうで招待客リストの確認をしよう?」
呆れ顔のマーカスと延々と話し続けるお母様。
我が家の家族の勢いに少し呆然としていたアルフ様のご両親にはちょっと申し訳なかったな~とは思う。
でも、どうか慣れてください!いずれ家族になるのですから!きゃっ!!
正直婚約披露パーティーはなくてもいいかな?と思っていた。私は立場的には殿下に振られた元婚約者だし(実態が違うとはいえそう見る人は多い)、当の殿下とミリアさんがいまだに正式な婚約を結べないでいる今、あまり盛大なパーティーを催すのもどうかな?なんて思ったのだ。
しかし、アルフ様の意見は真逆だった。
「だからこそですよ!殿下とルーシー嬢の婚約解消はなんの遺恨も残していないのだと周囲にアピールするいい機会でもあると思います。それにもうあちらに気を遣う義務は全くないのですから」
「アルフ様……」
そっか、そうよね。私はもう2人とは立場上無関係。そういうことは関係者が頭を悩ませればいいことなのだ。
「それに、俺の隣で俺の婚約者として着飾って笑うルーシー嬢が是非見たい!!あと俺たちの仲がものすごく!ものすごく良好なところを見せつけておかねば何か勘違いした男どもがルーシー嬢に近寄りでもしたら大変だからここらへんで牽制しておかないともう少しで学園も始まるし……」
「……そうですね」
アルフ様は相変わらずだ。せっかくかっこいいのにその後に続く本音で台無しよ??
ま、嫌じゃないどころかそんなアルフ様にときめいてる私も大概だけどね!!だって、こんなにかっこ悪くなっちゃうくらい私のことを好きでいてくれてるんだって思うと……ねえ?
そうして、お父様とアルフ様のやり取りに呆れたり、お母様の惚気話を聞かされたりしながらもせっせと準備を整え今日のこの日を迎えたのだった。
――――――――――――――
「アルフレッド!」
「僕たちも来たよ~!」
「ダイアン!ルッツも!来てくれてありがとう」
アリシア様、マリエ様の後にも数人の招待客と話した後、2人の令息が声を掛けてきた。
彼らはアルフ様の友達。話だけは聞いていた。アルフ様と同じくらい背が高いけれど少し細身、黒髪黒目で聡明そうな顔立ちのダイアン・ドーガー侯爵令息と、2人より幾分か小柄でハニーブロンドに碧眼の、少年のような雰囲気のルッツ・ジョリオリッチ伯爵令息。
――実は、1度目。この2人も随分ミリアさんと仲良くしていたように思う。だけど、自分の友人の婚約者に横恋慕して信奉者の様に侍る?アルフ様の話を聞いていると、この2人がそんなことをするようには思えないのだ。気持ちがどうだったかはこの際置いておいたとしても。
「レイスター公爵令嬢!王妃様主催のお茶会ではあまりお話もできず……ドーガー侯爵家のダイアンです」
「僕はジョリオリッチ伯爵家のルッツです!改めてこうして2人並んでいるところを見ると感慨深いね!ルーシー嬢、アルフレッドはいつもあなたの話ばかりなんですよ~」
「おい!ルッツ!」
「まあ!ふふふ、ダイアン様、ルッツ様、どうぞこれからは私とも仲良くしてくださいませ」
うーん、やっぱりどう考えてもおかしい。アルフ様の件だってこうして誤解が解けてみれば何度考えてもおかしいのだ。
……ミリアさんはなんだか謎が多いわ?
「アルフレッド、よかったな。『天使様』と婚約出来て」
「そうだよ!それにしてもルーシー嬢ってこんなに笑う人だっけ。本当に天使みたいだね」
「そうだろ……俺の天使は今日も本当に可愛い……」
ちなみに、殿下からは祝いの言葉と大きな花が届けられた。
これで婚約解消後も王家とレイスター公爵家の間にはわだかまりもなく仲は良好だとアピールできただろう。私が殿下を実は慕っているなんてこともないのだと、今日の私とアルフ様を見た人は分かってくれたと思うし、ここから人から人へ広まっていくはずだ。
なんたって終始アルフ様は私の側を離れず、他の令嬢に向けるものとは全然違う目で私を見つめるのだから!すごく甘い、蕩けるような目である。さすがの私もびっくりしたわよ?何をって?
他の令嬢たちに向ける彼の視線が見たこともないくらい冷めていることによ……!!!
多分特別冷めているわけではなく、これが彼の令嬢に対する「普通」なのだ。
私には最初からこうだったから、それが彼の普通なのかと思っていた。だけどそれはとんだ勘違い!目の当たりにして改めて感じる。私は、本当にアルフ様の特別なんだ……。
さすがに周りの生温かい視線が恥ずかしくて多分また何度か顔が赤くなってしまっていたような気もするけどね!でも、すごく幸せだわ。
そうして私の友人や、アルフ様の友人、レイスター公爵家とバルフォア侯爵家の家族とその関係者を呼んだささやかな婚約披露パーティーは終始楽しく、平和に過ぎていった。




