ルーシーの気持ち
「――奇跡だ!!!!!」
次の瞬間、私はアルフレッド様の腕の中にいた。
ひえ!急に近い!近い!無理!!
おまけにギュウギュウと抱きしめる力が強くてちょっと苦しい!
「あ!申し訳ありません、ルーシー嬢!つい嬉しくて……!ああ、やっぱり奇跡だ……!」
「ふふ……」
あまりにもはしゃぐから、なんだか嬉しくなってしまう。いいのかな?すごく幸せな気持ちだ。誰かを好きになるって温かい。
そっか、私アルフレッド様のことが好きなんだ。気づいてしまえば簡単なことだった。むしろなんで今まで気づかなかったんだろう??
ミリアさんが気になって尾行してたんだと思っていた時。すごくイライラモヤモヤした。初めてだったから分からなかった。多分分かりたくなかったんだ。あれは嫉妬だ。面白くなかった。
「尾行してたこと、許してくれますか?」
アルフレッド様は私の顔を覗き込むように見つめる。
「はい。というか、怒っていないというか……ミリアさんのことが気になって尾行していたんだと思っていたから……」
「それって……!!!」
感激したように目を輝かせるアルフレッド様。
う……なんだか嫉妬していたことがバレバレでちょっと気まずい。あと、別に怒ってはいないけど尾行はやっぱりまずいと思うけどね!
「では、私がひどい勘違いをしていたことも許してくださいますか?」
「あ、それはダメです」
「えっ」
慌てて顔を上げると、アルフレッド様は嬉しそうに顔を緩めている。
「私のこと、どうかアルフと呼んでください。そしたら許します」
急に距離の詰め方の勢いがすごい……!
思わず言葉に詰まっていると。彼はものすごく期待した目で私を見つめた。
もう!だから私!慣れていないんだってば……!!!
「あ、アルフ様……」
「はい!ルーシー嬢!これで仲直りですね!!!」
満面の笑みで大喜びだ。こんなに喜んでもらえるなら私も嬉しいけれど、慣れるまでしばらくはゴリゴリと体力がそがれそうな気がする……。
「そういえば」
ひとしきりにこにことはしゃいだあと、ふと思いついたようにアルフレッド様……アルフ様は座りなおす。ばっちり私の手を握りなおすのも忘れない。
「カフェで、災難でしたね……?ブルーミス男爵令嬢はどうしてルーシー嬢を目の敵にするようなことを言うんでしょうね?」
私が彼女を除け者にしたと言われた時のことだ。うーん、どうしてと言われると……私が殿下の元婚約者だから???
「でも、次の日謝ってくださいました。彼女にも焦りがあるのかもしれませんね」
「だけど、そんなのはあなたを傷つけていい理由にはならない」
アルフ様は打って変わって真剣な目をしている。
「ルーシー嬢、ずっと思っていたんですけど……無理していませんか?」
「え……?」
無理している?私が?
「私も、ルーシー嬢が殿下のことを慕っていたのではないかと思っていました。でも、私の思い違いでなければ多分そうではないですよね?」
「もちろんです!殿下のことを慕っていたことなんてありません!」
それだけは勘違いされたくない……!そう考えてまた胸が詰まる。こんなに嫌だと思うことを私はアルフ様にしていたんだわ。
アルフ様は少しだけ嬉しそうに笑った。
「はっきりそう聞くとちょっと嬉しい……いや、すいません、不謹慎ですね。忘れてください。……でもそうなると少し不思議なんです」
「不思議?」
「はい。ひょっとして、あなたはブルーミス男爵令嬢のことを嫌ってはいけないと思っていませんか?」
咄嗟に言葉が出てこなかった。
「殿下のことを慕っているから、殿下の選んだ令嬢を嫌いたくないのかと思っていました。殿下のことを否定したくないから。でも、そうじゃない。あの2人のために身を引いたことを間違いにしたくないから?どこかで彼女より自分は魅力がないなんて思っていますか?何があなたをそうさせるのか……俺は、あなたが少しでも悲しむことがあると悔しい」
私の手を握る力が少し強くなる。
「ルーシー嬢、あなたはもう将来の妃ではないんです。誰かを嫌ったって問題ないんです」
ずっと、心のどこかでモヤモヤしていた。殿下に愛があったわけじゃないけど、それでも婚約者にはっきり他の女性を選ばれるということは悲しい。彼女より私の方が魅力がなく劣っているのだと言われた気がしていた。
私にもプライドがある。自分の気持ちを守りたい。
「ミリアさんがこんなに魅力的だから!だから仕方ないよね、私に魅力がないわけじゃない」
心のどこかでそう思いたかったのかもしれない。可愛くて、魅力的で、負けても仕方ないと思えるような素敵な女性でいてほしかった。
願望が、きっと必要以上にミリアさんを輝かせてみせた。
――でも、正直そんなこと。言われるまで自分でも気づかなかった。
アルフ様が私の頬をそっと撫でた。その指が濡れている。気づかないうちに涙が零れていたみたいだ。
「アルフ様は、すごいですね。私より私のことを分かっているかも」
「え!それは最高の誉め言葉……!ちょっと幸せすぎるな?1回つねってもらってもいいですか?」
「はい」
お望み通り頬を思い切りつねる。
「いたっ!ほ、本当に思い切りつねるなんて……でもルーシー嬢に遠慮がなくてちょっと嬉しい」
「もう!夢じゃないですから!なんだかアルフ様少し性格変わってませんか?」
「う!嫌ですか……?」
「いいえ?気付いてます?さっきから何度か『俺』って言ってます」
「あっ……すみません、嬉しすぎて今迄みたいにかっこつけてる余裕がなくて」
そうなの?今までもときどきかっこ悪かった時あったけど?とはさすがに言えない。
「どうかそのままで」
私が笑ってそう言うと、彼はとても嬉しそうに頷いた。
「アルフ様、私ミリアさんのことあまり好きになれないんです」
そっと本音を零す。自分でも見ないふりしていた気持ち。だけど言葉にするとなんだかすっきりした。
「ルーシー嬢の立場を考えると当然だと思います。それに俺もブルーミス男爵令嬢は苦手です」
そうなの?
「それなのに俺が彼女を好きだなんて思われていたなんて本当に想像もしなかった」
「ごめんなさい……」
「あんなに自分は殿下とは違うから彼女を好きになるようなことはありませんよって言っておいたのに」
え?そんなこと言われた!?覚えがないんだけど?
思わず記憶を探るもやっぱりよく分からない。これは多分、私が今までたくさん勘違いしていたって言うことなのね……?
「でも、いいんです!これからはそんな勘違いされないようにルーシー嬢に愛を伝えますから。ああ、これからは我慢しないでいいんだなと思うと感慨深い……!ルーシー嬢、俺のこと好きだってやっぱり勘違いだったって言わないですよね?」
「もう!アルフ様こそ私のこと信じてください!……まあ、私の場合は自分が悪いんですけど。でも、私達婚約者になるんでしょう?仲良くしましょうね?」
アルフ様は飛びあがる様に立ち上がると叫んだ。
「え!?!?いいんですか!?!?!?」
え!?むしろそういう話じゃなかったの!?




