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アルフレッドはいつも必死2

 


 問い詰められ、尾行していた事実を白状する羽目になった瞬間。

 実は、アルフレッドはそれでもまだ絶望というほどの感覚に襲われることはなかった。


 妙な自信がある男、アルフレッドは過信していた。


 どこかで思っていたのだ。「もしもバレても、ルーシー嬢なら笑って許してくれるのではないか?」と。呆れ、口では文句を言いながらも、本気で怒ったりはしないのではないか。


 しかし、それはただの思い上がりだったのである。



 自分を睨みつける、心底怒りのこもった冷たい視線が頭から離れない。


「……ミリアさんや殿下にバレなくてよかったじゃないですか。ちゃんと黙っていてあげますからどうぞご安心ください!」


「えっ……?」


(えっ……?)



 なんとなく言われた言葉に違和感があったものの、そんなことを考えている暇はなかった。



「あっ!ルーシー嬢……」



 振り返ることもなく、隣国の王子と立ち去っていくその後ろ姿。


 まるで世界が凍り付くように全身が一気に冷え、足元が崩れ落ちていくような感覚。その後を追いかけることもできなかった。

 むしろ、立ち上がることすらできなかった……。







「アルフレッド様、そろそろお休みになってはどうですか……?」


 グレイが気づかわし気に声を掛ける。


 今日はルーシーがリロイの通訳としてともにパーティーに出席している。

 パーティーにはさすがに入り込むことはできなかった。もしも入り込めたとして、その気力もさすがに湧かなかったかもしれない。……湧いたかもしれないけど。


(ルーシー嬢…………)


 あれほどパーティーでの通訳で、2人の距離が(物理的に)縮まることに恐れ慄き発狂していたアルフレッドは見る影もない。今やそれどころではなかった。


 頭の中はいつも以上にルーシーでいっぱいだ。いつもの2割増し。いつもいっぱいなのにどこにそんな容量があったのかという程である。パンパンだ。


「アルフレッド様、軽食だけでも口にしませんか?せめて、水だけでも」


 グレイがなおも心配して声を掛けてくれるが、ゆるゆると首を横に振り応えるのみ。もはや返事をする元気さえ出ない。


 絶望のアルフレッドは、息をしているのがやっとだった。



(ルーシー嬢……もう許してはくれないだろうか。もう俺に向かって笑ってはくれないだろうか)


 うっかり泣きそうだ。さすがに情けなさすぎるので我慢する。


(もう1度やり直せるなら………………今度は絶対にバレないようにする)



 想像してみたけれど、この期に及んでもやっぱり心配なので「尾行しない」という最適解はなんとなく選べなかった。想像でも無理だった。知らないところでルーシーが泣いているかもと考えるだけでゾッとする。無理だ。



「アルフレッド様。考えたって仕方ないではありませんか。怒らせちゃったんでしょう?怒らせちゃったらもう謝るしかないじゃないですか」


 とうとう呆れたようにため息をつくグレイ。ちなみに父親はとっくに匙を投げてアルフレッドが絶望の海に沈んでいるのを視界に入れないようにしている。




 ――まるで、天啓のようだった!



「そうか、そうだよな!」


 おもむろに顔を上げた主人に、不思議そうに首を傾げるグレイ。


(謝る!全力で謝る!許してもらえるまで……許してくれるかな?いや、許してもらえるまで!謝る!!!)


 絶望に浸りきったアルフレッドは、そんな単純なことすら分からなくなっていた。


 悪いことをして怒らせてしまったら、誠心誠意謝る!


(こうなったら、全部話してでも……)



 脳内はすっかり恋にやられて馬鹿になってしまっているアルフレッドだが、ルーシーの前ではすましている。かっこよく見られたいのだ。要するに見栄を張っている。


 けれど、もはやそんなことを言っている場合ではない。


(恥もプライドもかなぐり捨てて、本音を全部伝えよう)


 どれだけルーシーを思い慕っているか。なぜ、尾行などという手段に至ってしまったのか。困らせたかったわけではなく、好きすぎるが故に心配だったのだと。思えばルーシーの気持ちを尊重しようと、面と向かって「好きだ」と伝えたこともない。


 言わずとも恐らくバレバレであるとは思うが、はっきりと言葉にするのとしないのとでは全然違う。そういうものだ。遠慮している余裕はもうない。



(それでもダメなら……もっと謝ろう!!!)






 少し目に生気が戻ってきた主人にほっと安心しながらも、グレイが言う。


「隣国の王子は明日の朝発つそうですよ。きっとルーシー様もお見送りに行かれるのでは?明日は見守らなくていいんですか?」


 ハッと我に返るアルフレッド。


 こうしてはいられない……!



 アルフレッドはすぐに就寝した。


 夢の中で、ルーシーが許しを与え笑いかけてくれたものだから、目が覚めた時ちょっとだけ泣いたのは秘密である。







 次の日、少し緊張しながらもルーシーを陰から見守っていたアルフレッドは、もう1度絶望する羽目になる。


(だから!なんで手を握るんだ……!)


 相変わらず嫉妬に身を焦がす心の狭いアルフレッド。


 そうして隣国の王子と何事か会話していたルーシーを見つめていた時だった。



(――!!!!!)


 突然!ばっと後ろを振り向いて周囲を見渡すルーシーにヒヤリとしたと思った次の瞬間……。



 気がつけば、隣国王子がルーシーを腕の中に閉じ込め!!!あろうことか!!!!!その神聖な妖精の宝物のようなルーシーの頬に!!頬にキスをしたのだ!!!!?


(はっ?はあっ!?!?)


 おまけに当のルーシーは特段本気で怒るでもなく、顔を真っ赤にして動揺するのみ。

 自分は心の底から怒られたのに……!




 アルフレッドの心は焦燥感でいっぱいになった。

 もう、絶対、言う……!!




次回!ついに……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 恋すると人間はバカになるんですね。 よっく分かりました。
[良い点] 面白いです。 誰とくっつくか全く読めないところがいいですね。 いっそのこと全員振ってくれてもいいw ぶれないルーシー嬢が大好きですw
[一言] こんな感じのすれ違いがずっと続くんですかね?
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