パーティーでリロイ殿下との時間
私はなんだか猛烈にイライラしていた。
何にって?アルフレッド様に対してに決まってる!!
「信じられないわ……!」
アルフレッド様は……なんと私達をそっと尾行していたらしい。明らかに様子のおかしい彼を問い詰めまくったら吐いた。いつからか?それはさすがに白状しなかった。
ただただずっと謝り続けるだけ。
「ミリアさんのことが好きだからって、尾行までする……!?」
いや、別に尾行したっていいのだ。私には関係ないし。好きにすればいいと思う。
好きにすればいいと思う!!
あの後……。
カフェで謝り続ける彼に向かって私は言った。
「……ミリアさんや殿下にバレなくてよかったじゃないですか。ちゃんと黙っていてあげますからどうぞご安心ください!」
「えっ……?」
ポカンと私を見る顔もなんだか腹立たしい。
う~!どうしてこんなにモヤモヤするのかしら!?
『リロイ殿下、帰りましょう』
『もういいのか?知り合いなんじゃないのか?』
『いいんです。行きましょう?』
『ふーん……?』
「あっ!ルーシー嬢……」
なんだかすごく悲しそうな声を出していたけれど、振り返らずにリロイ殿下と店を後にした。可哀想な振りして許してもらおうだなんてそうはいかないからね!――というか、別に関係ないから怒ってもいないし!ふん!
******
『おーい、ルーシー。大丈夫か?疲れた?』
『!!申し訳ありません、リロイ殿下。大丈夫ですわ』
私としたことが!不覚!今はリロイ殿下の通訳最終日、共にパーティーに参加している。
会話に訪れる人の波が途切れた合間に、思わず物思いにふけってしまっていた……!
自己嫌悪に陥っていると、リロイ殿下はへらりと笑って言った。
『ごめん、俺がちょっと疲れたみてえ。出来ればちょっと休みたいから、バルコニーの方に一緒に来てくれねえ?』
――多分、嘘だ。もしかしたら少しは本音も混じっているかもしれないけれど、私に休憩させようとしてくれている。
リロイ殿下……あなたはなんて優しい人なの???
あなたの心と大海原、どっちが広いか比べていいですか???
優しさが染み渡る様に嬉しくて浸っていると、なぜかふとアルフレッド様のポカンとした顔が一瞬浮かんだ。イラッとする。
あー!大海原を航海したい……!
『あーあ、ルーシーはあと少しで帰っちゃうんだな』
バルコニーに出て、夜風に当たりながらリロイ殿下と2人で並んで立つ。
私はまだデビュタントを迎えていないので、夜遅くまでパーティーに参加することはできないのだ。あと少しでタイムリミット。パーティーはまだ続くけれど、私は先に帰らなければならない。
『私が退席した後、殿下はどうなさるんですか?』
『俺ももう出るよ。ルーシーがいないと会話に困るし、つまんねえし』
『ふふ、少しでもお役立てたなら光栄ですわ』
『役に立つどころじゃねえよ』
殿下は体を少しかがめ、バルコニーの柵にコテっと頭を乗せてこっちを見る。
『ルーシーのおかげで、ずっと楽しかった』
頭を傾けたままなので、自然と斜め上の私に向かって上目遣いになる。そのままものすごく優しい笑顔でふにゃりと笑った。
『それは……良かったです』
思わず少し目を伏せながら答えると、殿下はすっと体を起こし、今度は後ろに振り向いてそのまま柵に背中を預けてもたれた。
『なー!今ちょっとドキっとしたろ!?』
『は……?』
リロイ殿下はものすごく嬉しそうに、得意げにニヤニヤと笑っている。
『殿下……私を揶揄いましたね……?』
『いーや?まさか!』
『……』
マーカスみたいだと思っていたのに……全然弟みたいじゃないわ!
楽しそうに声を出して笑うリロイ殿下の態度がちょっと悔しくて、わざと少しだけ睨みつける。それでもそんな私の反応に殿下がもっと笑うから、結局私もつられて笑ってしまった。
『昼間にカフェにいたやつって、ルーシーの婚約者なの?』
リロイ殿下にそう言われ、アルフレッド様の顔が浮かぶ。一瞬忘れていたのに、顔が浮かんだ瞬間腹立たしさもまとめて思い出してしまった。
ひょっとしたら我慢できずに少しムッとした顔になっているかもしれない。
『婚約者じゃありませんわ。……婚約者候補ではありますけど』
『何?グライト王国って正式に婚約しないで候補にしておくのが流行ってんの?』
『ははは……』
『あいつ、今日俺たちのこと尾行してたな』
背中が少しひやりとする。まさか。バレていた。さすが王族、気配に鋭い……!あら?でもジャック殿下が気付いた様子はなかったし、王族というよりリロイ殿下が鋭いの??とりあえず、笑ってごまかしてみる。
だけど相変わらずじっと殿下が私の目を真剣に覗き込むから、思わず言わなくていい言葉がポロっと零れてしまった。
『……あの人、ミリアさんをお慕いしているんです。今日なんてミリアさんが気になって尾行していたんですよ?信じられない人でしょう?』
絶対言うべきじゃなかったと思う。でも、ささくれ立った私の心は無意識に慰めてほしがっていたのかもしれない。裏表のないリロイ殿下の言葉と、優しい心に強がれなくなっていたのかも。認めよう。私は少し落ち込んでいた。なぜか?そんなの自分でも分からない……。
『ふーん……そりゃ確かに信じられねえや』
リロイ殿下は何でもないようにそう言って私の頭をポンポンと撫でた。
声のトーンは興味なさそうに聞こえるのに、その手が妙に優しくて、ちょっとだけ泣きそうになった。
あっという間に、帰らなければならない時間が来た。
『ルーシー!明日、見送りに来てくれよな』
私の手をキュッと小さく握ってそんな風に言う殿下。
――ふふふ。そんな風にしていると、やっぱり弟みたいだ。自然と顔が緩むのを感じながら、その手を握り返した。
『もちろんですわ。リロイ殿下、ではまた明日』
その後、外までわざわざ出てきてくれた殿下は、私の乗った馬車が角を曲がって見えなくなるまでずっと私を見送ってくださっていた。
――――――――――――――
『ミリアを尾行、ねえ……』
ルーシーの乗った馬車が見えなくなった後、その場に残されたリロイはぽつりと呟いた。
(違う、そうじゃない。だってあいつ、初日からずっとついてきてたもんな)
グライト王国は平和な国だ。人も優しくて温かい。
けれど、ミラフーリス王国はそうであるとは一概には言えない。
リロイは王位からも遠い第5王子だ。それでも命の危険を感じることは多かった。だから「自分は王位には向かない粗雑な人間だ」と、不適格とされるために口調も王族らしくないように変えていった。「王位に興味はない」というアピールも兼ねて積極的に国外への訪問に同行した。自然と気配にも鋭くなった。だから、最初から気付いていた。尤もそれが悪意を持った行動ではないことも分かっていたから、気付いていても何も言わなかった。
(あれはルーシーを気にしてずっと見てたんだ。つーか、俺?後ジャック殿下もか)
なんて分かりやすい男だろうと思う。なぜかルーシーは完全に勘違いしているみたいだが。勘違いされ具合がすごくて、同じ男として少し可哀想だなとも思うほどだ。
だけど……。
会場に戻りながらリロイは少し笑った。
わざわざ勘違いを正してやるつもりは全くない。
(そんな義理もねーし。ま、さすがにすぐに気づくだろうけど)
とりあえず少し先の未来のことを考えながら、まずはもう少しグライト王国語を勉強しようかな、と呑気に考えていた。




