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19/70

恋する男の大奮闘1

 

 初めてその人を見た時、アルフレッドの世界は一変した。


 個人的に面倒くさく思う理由もあり、全然乗り気ではなかった王宮での王妃様主催の同年代ばかり集めたお茶会。バルフォア侯爵家の嫡男として欠席する道はなく、仕方なく挨拶の列に並ぶ。


 そこに、ルーシー・レイスター公爵令嬢はいた。



(えっ!!!!)


 目が合った瞬間のアルフレッドの心の中はこうだ。


(なんだあれは天使か!?めちゃくちゃ可愛い!!!!!)


 心の中には一気に色とりどりの花が咲き乱れ、春のそよ風がさわさわと少年アルフレッドを弄ぶように通り抜けた。


 そう、まごうことなき一目惚れだったのである。



 しかし、アルフレッドは知っている。


(ルーシー嬢って殿下の婚約者なんだよな……)


 並んで参加者から挨拶を受ける2人は、ときおり小声で会話しているようで、その仲は極めて良好に見える。


 心の中の花は一瞬で萎びて、温かかった陽だまりに一瞬で影が落ちた。


 というか、ルーシー・レイスター公爵令嬢と言えば、見た目は可愛いもののいつも無表情で、冷たい目をしていて、近寄りがたい人物であるのだと誰だかが言っているのを聞いたことがある。


(どこが無表情?冷たい目?まるで花の妖精じゃないか)


 そう思うアルフレッドの頭の中では、妖精の羽の生えたルーシーが花畑の中ではにかみながら花冠を被っていた。彼の頭の中こそもはやお花畑だった。




 あの天使のような妖精のような美少女がすでに人の物であることに内心で不貞腐れながら、お茶会をなんとかやりすごす。しかしどうにも令嬢たちに囲まれることに耐えきれなくなって、そっとその場から逃げ出した。ほんの休憩のつもりで。


 そこに、幸運にも天使がいた。




 マドレーヌに齧りつき、ハンカチに包んだお菓子を自分に差し出す天使。

(天使。とても可愛い)


 自分の話をにこにこと、時に声をたてて笑いながら楽し気に聞く天使。

(やっぱり天使。どうみても可愛い)


「名残惜しいけどそろそろ戻りましょう」


 ああ、天使との時間が終わってしまう……そして彼女は殿下の隣に戻るのだ。


(もう少し、あなたと一緒にいたいです)


 喉元まで出かかった言葉はギリギリで飲み込んだ。彼女が困ると分かっていたから。

 アルフレッドはこの時この庭園での、天使・ルーシーとのひと時を一生の思い出にしようと心に決めた。






 ところが事態は急展開を迎える。



「王妃様!聞いてください!私……私とジャック様は、愛し合っているのです!私たち2人の仲を認めてはくださいませんか!?」



 驚き、思わずルーシーに目を向けるアルフレッド。偶然にも彼女もこちらを向いて、たまたま目が合った。

 不謹慎にも、喜びと期待でいっぱいになった。



 この時のアルフレッドの心の中はこうだ。


(ルーシー嬢、ごめんなさい!俺はあなたという天使が地上に落ちてくるのを期待してしまっています!)


 とんだポエマーである。


 こう見えてアルフレッドはこれまでご令嬢に対して冷めた感情しか抱いてこなかったし、恋だの愛だのと夢中になっている人を見るとバカげているとすら思っていた。神の存在だってあまり信じたことはなかった。とことん現実主義だったのである。


 しかし、ルーシーとジャックがミリアの言葉を肯定した瞬間、全力で神に感謝した。


 恋をして馬鹿になったアルフレッドはまさにロマンチスト野郎だったのだ。


 ――そう、アルフレッドがルーシーに、ミリアと殿下の仲を引き裂くように期待した、などということは実は一切ない。ルーシーのとんだ勘違いだったのである。





 その後。

 街中での偶然の再会と夢のような奇跡でルーシーとのお茶という幸運に恵まれたあと、アルフレッドの恋に浮かされた熱はすっかり上がった。


「聞いてくれよグレイ……ルーシー嬢って実は本物の天使だと思うんだ」

「何馬鹿なこと言ってるんですか」


「ケーキセットを前にしたルーシー嬢の可愛さと言ったら。俺は彼女の父親の精神力に脱帽だね。あんなに可愛い娘がいたら誘拐が怖くてきっと夜も眠れてないだろうと思うんだけど体は大丈夫だろうか」

「俺はあなたの変わりようがあまりにすごくてびっくりしてますよ」



「ところで……殿下との婚約解消からレイスター公爵令嬢に求婚が殺到してるってもっぱらの噂ですけど、アルフレッド様は求婚しないんですか?」

「は!?!?!?」


 ルーシーに夢中になりすぎて彼女に群がる男どもの存在すら目に入らなかったアルフレッド。


 グレイから知らされた衝撃の事実(よく考えれば当然のことだな!と彼は思った)に慌てふためき、急いで自分も求婚するよう、父親に頼みこんだ。



 この時、アルフレッドは正直期待していた。

 断れない理由があるもの以外は即刻断られているらしいことはもう知っている。

 しかし、自分に向けるあの笑顔。すぐに選んでもらえなくとも、なかなかいい線いっているのでは?と。争奪戦に加わることさえできれば彼女を望む気持ちは他の男に負けない自信がある。


 アルフレッドはガッツのある男だ。

(絶対に争奪戦の舞台に上がり、彼女の愛を勝ち取って見せる……!)


 闘志あふれるアルフレッド。




「アルフレッド。残念だが、求婚はすげなく断られてしまったよ」

「嘘だろう!?!?」


 気まずそうな顔でそう言った父親の言葉に、アルフレッドはショックのあまりその夜高熱を出した。



 しかし、一晩で身も心も復活したアルフレッドは決心する。


「グレイ……どうにかレイスター公爵に会いたい。ルーシー嬢に内緒で。どうすればいいと思う?」

「えっ」



 アルフレッドは、ガッツのある男である。




ルーシー視点では見えないアルフレッドの心の中。

全てはルーシーの盛大な勘違いとすれ違い…!

もう1話アルフレッド視点続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルフレッドぉぉぉ!!! 頑張れーー超がんばれぇい! 愛の言葉は声に出してどんどん伝えなきゃ届かないんだぁぁ 両思いでよかった~ けど勘違いされてるって気付いて~お花畑で浮かれてる場合じ…
[一言] アルフレッド、まさかの恋する花畑だった!! ルーシーが穿ちすぎただけだったんですね。 ミミリンは正しかった!
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