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孤高のピクニック

作者: ひつこ

空っぽのお弁当箱。

目をつむって鳥の声を聞きながら、10分前を思い出す。

蓋を開けたときの圧倒的満足感。蓋についてた竹の子と薄くスライスされたカブを元に戻して、どこから手をつけようかと悩む幸せな3秒間。その3秒の間に、まずはとミニトマトを選んだ。程よい酸味と素朴な甘みを含んだジュレがプチっと弾けて口いっぱいに広がる。幸せだ。

ドレッシングもマヨネーズも出汁で煮てあるわけでもないミニトマトで感動した。これが俗に言うピクニック効果である(それは今私が名付けた)。

菜の花の辛子和え、春菊の胡麻和え、ブロッコリーにカリフラワー、ひじき、卯の花、だし巻き卵。煮物はこんにゃく、竹の子、厚揚げ。どれも味が染みている。たんぱく質も十分である。身がキュッとしまったスモークチキン、冷めていてもサクっとしたトンカツ、ふんわりと焼かれた肉厚な鰆。ここは天国なのだろうか。どれを食べていても食べてなくなってしまうのが惜しくなるのは困った至福である。

この上品な自信を滲ませたおかずたちを優しく支えるのは白米である。贅沢にも白米の上にはお供が載せられている。山椒の香りが広がるちりめんじゃこ。沢庵といぶりがっこ。きゅうりの漬物。なんたる心遣いであろうか。食べる者を飽きさせない品数とひとつひとつの繊細な味付け。最後の最後まで味わい尽くそうと私の心を動かす。


例年通りの春を迎えられず、初夏へと季節は移り変わろうとしている。誰もいない公園のベンチにすわり、熱を増した日差しが心地の良い風に包まれてちょうどよく肌に届く。気持ちがいい。


わたしは最後のひと口を飲み込んでそっと目を閉じた。

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