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謙虚すぎる勇者、真の勇者を導きます!  作者: さとう
特別編

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書籍発売記念SS・勇者の休日

内容は、クレスがシルキーと出会い何日か経過した後のお話です。

 ある日。いつものように修行を終え、ストレッチをしている時のことだった。

 俺の師であるプラウド先生が、木剣を肩でトントン叩きながら言う。


「クレス。明日は休日だ」

「え……休みですか?」

「ああ。お前、修行漬けでろくに休んでいないだろう? お前はまだ若いんだし、たまには町で羽を伸ばしてこい。小遣いあるんだろう?」

「ええ、まぁ……」


 王国から支給されたお金は、メリッサに夜食代として渡している。

 だが、あまりにも金額が多いと突っ返された。なので、俺の懐は温かい。

 すると、背後から黒い影が。


「あんた、明日休みなの?」

「あ、ドロシー先生」

「なら、あたしに付き合いなさい。本屋に行くから、荷物持ちね」

「え」


 すると、さらに横から声が。

 青い髪をなびかせ、眼鏡をくいッと上げながら、青の勇者シルキーが来た。


「ちょい待ち。休みならあたしに付き合いなさい。ここ、いい服屋がいっぱいあるのよ。荷物持ちしなさい」

「え、あの」


 すると、今度は反対側から。

 ツインテールを揺らし、メイド服のスカートを押さえつつ走るのはメリッサだ。


「わ、わたしも、わたしも勇者様にお願いが! その……お夜食のメニューについて話したいので……その、一緒に街にお買い物を」

「め、メリッサ?」


 そして、とどめとばかりに背後から肩を叩かれる。


「人気者は辛いわね。クレス」

「し、シギュン先生……」

「実は、私も明日は休暇なの。少し付き合って欲しいんだけど……」

「え、えっと……」


 前方にはドロシー先生、右側にシルキー、左側にメリッサ、そして背後にシギュン先生。

 いつの間にか、完全包囲され逃げることができなかった。

 俺は一筋の汗を流し、プラウド先生に視線を送る。


「さ、さーて……オレは風呂でも入るか。じゃあなクレス!!」

「あ!! プラウド先生、プラウド先生ぇぇぇぇーーーっ!!」


 プラウド先生が逃げた。

 そして、残された俺に視線が集中する。


「あんたら、あたしが先に声かけたのよ。すっこんでなさい」

「は、先に声かけたからとか関係ないし。この魔女っ娘め」

「わ、わたし……勇者様に手伝って欲しいです!」

「人気者は辛いわね……で、どうする?」

「…………じゃ、じゃあ」


 俺は包囲網を脱出すべく、解決策を提示した。


 ◇◇◇◇◇◇


「で、全員ね」


 そう、全員。

 昨日の休日騒動で俺が出した結論は、全員でお出かけだった。

 全員が私服で、俺を中心に近くにいる。


「最初は、あたしの本屋に付き合ってよ」

「本屋ですね。わかりました」

「ちょっと、勝手に」

「まぁまぁ勇者様。本屋はここから近いですし」

「ふ……では、行こうか」


 ドロシー先生が言い、シルキーが文句を言い、メリッサが諫め、シギュン先生が歩きだす。

 なんというか、すごい光景だ。

 

「……なに?」

「いえ。ドロシー先生の私服、素敵だなって」

「はぁ!?」


 ドロシー先生。普段は全身真っ黒な魔女っ娘スタイルだけど、私服は可愛らしいワンピースと帽子をかぶっている。

 俺が褒めると、ドロシー先生は赤くなった。そしてシルキーが噛みつく。


「なーにナンパしてんのよ。ばか」

「いや、思ったことを言っただけで……もちろん、シルキーも可愛い」

「…………ッ!!」


 ギリリとシルキーは俺を睨む……なんでだ?

 シルキーはキャリアウーマンっぽい服装だった。どこかオフィスレディみたいなスーツにハンドバッグで、どこぞの会社に出社しそうな感じだ。

 

「ブルーノ王国で流行中のファッションが可愛い?……あのね、この服は『デキる女』をイメージしたファッションなの。可愛いはずないわ!!」

「お、俺は思ったことを言っただけで」

「まぁまぁ、二人とも」

「シギュン先生……」


 シギュン先生……なんかエロい服装だ。

 シンプルな白いシャツとジーンズなんだが……シャツを盛り上げるメロンと、パツパツのジーンズがとにかく似合っている。これが大人の女性なのか。

 曾山光一としての俺は二十五歳だ。だから、シギュン先生くらいの年齢がガチ好みなんだよな。

 ちなみに、メリッサはメイド服のままだった……まぁいいけど。


「とにかく!! 本屋に行くわよ」


 ドロシー先生の案内で本屋へ。

 アストルム王国で最も大きな本屋に入り、ドロシー先生はいろいろ棚を物色する。

 意外にもシルキーは図書館が気に入ったのか、数冊の本を選んで会計へ。シギュン先生も何冊か本を買う……買わないの、俺とメリッサだけだ。

 

 そして、次は服屋。

 シルキーはアストルム王国の流行ファッションを下調べしたのか、ワンピースを中心に選んでいた。そして、なぜかメリッサをモデルにして着せ替えごっこを始める。


「うんうん。メリッサ、かわいいわねー」

「あ、あの……これ、スカートが短い……」

「いいのいいの。ふむふむ、あたしが着ても似合うかなぁ……?」

「なんで俺を見るんだよ」

「べっつに~……あ、ドロシーも着る?」

「着ないし」


 気のせいか、女性陣が少しづつ仲良くなっていた。

 そして次。道具屋でメリッサが調理器具を買う。


「新しい包丁とまな板、肉叩きとヘラ……あ、勇者様、香辛料も買いますね」

「お、おお。なんでもいいぞ」

「勇者さまから預かったお金ですから!」


 メリッサは大張り切り。八百屋や肉屋にも寄り、夜食の食材を買い込む。

 ……そろそろ、荷物の重みがきつい。

 そして次。シギュン先生の用事だ。


「武器屋まで付き合ってくれ」

「何を買うんですか?」

「買うというか、取りに行く。個人的な依頼で剣を作ってもらってな」


 そう言うと、シルキーが言う。


「剣……王国支給の剣じゃないの?」

「ああ。実は、剣のデザインをするのが趣味でな。馴染みのドワーフに図面通り打ってもらっている。性能度外視の趣味だ」

 

 意外な趣味に、ちょっと驚く俺たち。

 そして、アストルム王国の裏通りに入り、煉瓦造りの工房内へ。

 中には、新聞を読む眼鏡をかけたドワーフがいた。


「ドレム。来たぞ」

「おお、道楽者の女騎士が来やがった……できてるぞ」

「うむ」


 ドレムと呼ばれたドワーフは、布に包んである剣を渡す。

 布をほどくと、一振りの剣?が出てきた。


「……うむ、いいできだ」

「けっ、性能度外視の道楽剣よ」

「だが、美しい」

「ふん……ま、認めてやるよ。形状だけは美しい」


 俺たちが入り込めない世界だった。

 だが、俺は思わず言った。


「それ、手裏剣……ですか?」

「む? なんだそれは」

「あ、いや……」


 そう、シギュン先生が持っているのは、どう見ても手裏剣だった。

 剣のくせに柄や鍔がない。忍者が持つような手裏剣を巨大化させたような物体だ。

 なんとなく言う。


「それ、もっと小さくすれば投擲武器になりそうですね」

「……ほう」

「……確かにな」

「ドレム、どうだ?」

「ああ。面白そうだ。いくつか試作を作ってみるか。小僧、なかなか見る目があるじゃねぇか」

「え、あ、いや……はい」

「クレス。試作ができたらお前にもやろう」

「ど、どうも」


 こうして、俺の装備に手裏剣が加わった。

 ちなみに、巨大手裏剣はシギュン先生の私室に飾られているとか。

 メリッサたちは、話についていけず店内を物色して遊んでいた。


 ◇◇◇◇◇◇


 買い物が全て終わり、俺は荷物を抱えてみんなと城に戻っていた。

 というか……休日なのに全然休んでない。まぁいいけど。


「ねぇクレス。あんたは行きたいところないの?」

「俺?……んー、特には。というか、みんなといろんなところを回って、かなり楽しかったし」


 シルキーが顔を覗き込みながら言う。


「ま、今日はいい息抜きになったわ。ありがとね」


 城に到着し、シルキーは自分の荷物を持ってさっさと去った。


「本、ありがと……今度は二人で行くわよ」

「あ、はい」


 ドロシー先生も本を抱えて去った。

 帰り際、なぜか耳が赤かったような気がした。


「勇者様、今日はありがとうございました!」


 メリッサは、何度もお辞儀をして走り出す。

 きっと明日の夜食は豪勢な物になるだろう。


「いい一日だった。ふふ、女に付き合うことの難しさを知っただろう?」

「あ、あはは……でも、楽しかったです」

「そうか。では、明日から訓練再開だ。今日はしっかり休めよ」

「はい!!」


 シギュン先生と別れ、俺は一人になる。

 このまま部屋で休もうかと思ったが、なんとなく城の中庭へ。

 中庭から、オレンジに輝く夕日が見えた。


「はぁ~……」


 オレンジの夕日を眺めながら、俺は大きく欠伸をした。

 訓練とはまた違う疲労だが、どこか心地よい。


「勇者の休日、か」


 俺は大きく伸びをして、夕日が沈むまで空を眺めていた。

書籍1巻は本日発売!


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鉄塊の錬金術師ルシヲの学園生活
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