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謙虚すぎる勇者、真の勇者を導きます!  作者: さとう
第一章・赤の勇者クレス
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前世の記憶

 俺の名前は曽山光一。

 高校卒業後に就職したはいいが、人間関係に疲れて退職……今じゃバイトを掛け持ちしながら安アパートで暮らしている、どこにでもいる二十五歳のお兄さんだ。

 今日もバイトを終え、コンビニ弁当を買って自宅へ戻る。

 家に帰ってゲームでもしながらビールと唐揚げで晩酌、コンビニ弁当を食べてのんびりする。これが俺の生活スタイル……もっと野菜を食べた方がいいかも。

 

「……あ、新作の予約」


 近所のゲームショップで新作ゲームの予約するの忘れてた。

 家から近いし、どうすっかな……コンビニ弁当が温かいなら行かないけど、今日は温めてないし行くか。

 というわけで方向転換。向かうはゲームショップ。

 こうみえて、けっこうゲームはやる。というか寂しい一人暮らし……ゲームくらいしかやることない。

 街灯の少ない、薄暗い横断歩道を渡る。

 

「あ~……新作何本だっけ? 食費切り詰めれば全部買えるかなぁ~」


 と───そこで意識が途切れた。


 ◇◇◇◇◇◇


『…………あれ?』


 なんか、まっくらだ。

 と言うか……オレはどうなった?

 新作ゲームの予約したっけ? あれ?


『……あれ、なにあれ?』


 なにやら妙な映像が頭の中に。

 あれ? 俺が横たわってる? うげ、手足が変な方向に……車から誰か下りてきた。俺をゆさぶってる? おいおい、血塗れ……え? 俺、死んだの?

 まさか、交通事故で死んだ?


 ◇◇◇◇◇◇


『ああ、オレ……死んだのか』


 オレは魔王に喰い殺された。

 咀嚼された瞬間に意識が消失した。

 覚えてるのは、怨嗟の眼でオレを見たシルキー。人間とは思えない形相のマッケンジー。そして……黄金に輝いたロランだ。

 オレは死んだ。あれ、もしかして……シルキーたちもここに?


『はは、もうどうでもいいや……人類は魔王に滅ぼされたんだ』


 なぜこんな思考ができるのか。まさかここ、魔王の腹の中だったりして。

 

 ◇◇◇◇◇◇


『オレ、間違ってたのかな……』

「俺、死んじまったのか……」

『オレ、調子に乗ってたよな……赤の勇者とか言われて、担がれて、好き放題やって……もうちょっと真面目に頑張ればよかったのかな』

『新作ゲームの予約、もったいねぇな……でもま、仕方ないな』

『はぁ……オレ、このままどうなんのかな』

『はぁ……俺、このままどうなんのかな』


『『(オレ)……え? 俺? え?……なんだ、これ?』』


 俺の意識が消えていく……そして、何かが流れ込んできた。

 なんだ、これ……アルストム王国? 赤の勇者? 黄金の勇者? 魔王、魔王軍? うわ、なんだこの記憶……ひっでぇ、クソ野郎の記憶……え? オレ? 俺が、オレがやったのか? 

 俺、俺……俺、なんでこんなひどいことを。


『な、なんだよこれ……俺、俺、こんなひどい、あぁ、ぁぁぁぁぁっ!!』


 俺は絶叫した……声は出なかったが。

 俺は、オレは誰だ?


『俺の名前は曽山光一、そやま……こういち、だよな? 違う。オレは……赤の勇者クレス』


 俺は日本人、曽山光一。

 オレは赤の勇者クレス。

 

『記憶がおかしい……俺は日本人だ。ああ、そうか。俺は……赤の勇者クレス』


 俺は曽山光一、赤の勇者クレスだ。


 ◇◇◇◇◇◇




「───により、汝を赤の勇者に任命する。さぁ、神の祝福を」

「…………」

「……どうした?」

「え? あれ? ゲームの予約……あれ?」




 気が付くと、広い場所にいた。

 どこだここ? 石畳に高い天井、シャンデリアに赤い絨毯。壁際には騎士っぽい連中。目の前には髭面のおっさん……なんか赤い宝石を持ってる。

 ゲームの予約しにゲームショップに行こうとして……。


「あれ? 弁当は? ビールもないし……」

「…………何を言っている?」

「あの、ここは?───」


 と、記憶の波が襲ってきた。


「ッづぅぅぅっ!? あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ……」

「勇者!? おい、どうした勇者!!」


 髭のおっさん……じゃない。こいつは、この国の王。

 そうだ、今は『赤の継承』だ。俺が赤の勇者に選ばれて、聖なる宝珠を受け取って……ああ、思い出した。そうだ……俺は赤の勇者クレスだ。


「も、申し訳ございません。喜びのあまり頭痛が」

「だ、大丈夫なのか?」

「はい。問題ありません」


 喜びのあまり頭痛っておかしな言い訳だ。

 考えることは山ほどある。だが……今はこの儀式を終わらせよう。


「では、改めて……神の祝福を」

「ありがたく頂戴します」


 王から赤の宝珠を受け取り、俺は宝珠を口の中へ。

 宝珠を体内に取り込むことで、俺は赤の勇者クレスとしての一歩を踏み出した。

 

「っぐ……」


 身体が燃えるように熱い。

 赤の勇者の力が俺の中で燃えている。

 

「赤の勇者クレス。来るべき日に備え、己を磨くのだ」

「はい!!」

 

 こうして、赤の勇者クレスは誕生した。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 今夜は、勇者任命後のパーティーが開かれる。

 その前に、俺は自室に戻り鍵をかけた。


「…………」


 上着を脱ぎ捨て、大きく息を吸い───。


「俺の名前は曽山光一、フリーター、ゲームショップに行く途中で車に轢かれた。コンビニ弁当食いそこなった、ビールも唐揚げも食えなかった!!」


 叫ぶ。そうだ、俺の名は曽山光一。


「俺の名はクレス。アルストム王国出身の平民で、赤の勇者に選ばれた男だ!!」


 そうだ、俺の名は勇者クレス。

 現在十五歳(・・・)二年後に死んだはず(・・・・・・・・・)の勇者クレスだ(・・・・・・・)

 俺が赤の勇者になって二年後。魔王軍は、二年後にこのアルストム王国に襲撃してくる。

 俺は冷静に状況を整理した。


「異世界転生……しかも、この勇者クレスの過去に転生したのか。勇者クレスの記憶を完璧に引き継いで……ははっ、こいつってとんでもないクズだったんだなぁ」


 善良な日本人の俺にとって、耐えられないほどの悪行だ。

 飲食店で女中を蹴り飛ばし、奴隷たちを買ってサンドバッグにしたり、女を買って飽きたら捨て、買い物では金を支払わずと、とにかくやりたい放題だ。

 クレスは、このアルストム王国のガキ大将みたいな存在だったらしい。勇者に選ばれたことを不満に思ってる連中も少なからずいるようだ。


「勇者クレス……はは、レベル1か」


 この世界にはレベルが存在する。

 普通の人間が生きて死ぬまでにレベル10くらいにはなる。職業によって伸びる能力値も様々で、スキルと言う特殊能力も得ることがある。

 俺は、自分の能力をチェック……ステータスと念じると頭に浮かぶ。


〇赤の勇者クレス レベル1

《スキル》

赤魔法 レベル1

剣技 レベル1


 これだけか。

 ま、レベル1だしこんなもんか。


「…………」


 俺は、過去のことを思い返す。

 青の勇者シルキーは、俺を恨み抜いて死んだ。

 緑の勇者マッケンジーは、俺のことをゴミと同類と見ていた。

 そして、ロラン。


「黄金の勇者……」


 ロランの存在は、魔王を驚かせた。

 つまり……ロランがいれば魔王は倒せるかもしれない。

 

「よし、決めた……俺はやり直す。曽山光一の知識と勇者クレスの力で、二度目の人生……うん、謙虚にいこう」


 調子に乗ったせいで痛い目にあったからな。

 二度目の人生は控えめにいこう。自分を鍛えてロランを育てて、魔王討伐だ。

 その後は、嫁さんもらってのんびり畑でも耕して暮らすのも悪くない。ゲームとバイトばかりで恋人なんて作らなかったしな。それに……。


「けっこうイケメンだしな、勇者クレス」


 こうして、曽山光一は赤の勇者クレスに転生……新しい人生が始まった。

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鉄塊の錬金術師ルシヲの学園生活
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