自らの研究のために軍人を退役し、王都から田舎に引っ越してスローライフします。
時刻は夜を周り、人が行き交う大通りのガス灯が王都の街を照らす。
月明かりの元、人々が日々の生活を送っていた時代からもうどれくらいの時が経っただろう。
人が増え、街は大きくなり、文明が発展し、人々の生活はとても豊かになった。
街の中には蒸気機関車が走り、通りには博物館や劇場、最近では百貨店と呼ばれる多くの商店が一つの建物に集約された物までできたと聞く。
それら王都の喧騒を見下ろす高台に建てられたレストラン、そのテラス席で私たちは少し遅めの夕食をとっていた。
「師匠、今までお世話になりました」
私が師匠とよぶ目の前のご老人は、ご立派な白髭をさするとゆっくりと口を開く。
「エドガー……君が私の元に来て、もう何年だったかな」
「私が先生の所にお世話になったのは8歳の時でしたから、今年で丁度17年目になります」
師匠は私の母方の祖父のご兄弟、つまりは私の親戚筋にあたる。
両親を事故で早くに亡くした私を慮った師匠は、後見人として自らの家に優しく私を迎い入れてくれた。
「……そうか」
師匠は目を細め、過去に思いを馳せているように見えた。
もしかしたら私の両親や、初めて私達が出会った時の事などを思い返しているのかもしれない。
「王都から君がいなくなるのは寂しいものだが、人生、別れもあれば出会いもある」
師匠は席から立ち上がると、私にグラスを持ってついてくるように促す。
私達は席から少し離れた位置にある、王都が一望できるベランダの手すりへと寄りかかる。
程よくアルコールの回った体にそよぐ風が気持ちいい。
「エドガー、君も僕も人生は一度きりだ……だからこそ好きに生きなさい、僕もそうしてきたからね」
師匠の口から笑みが溢れる。
私もそれにつられて表情を崩す。
「ただ長く生きてきた中で、一体、僕が生きた証しはなんだったのだろう。僕は一体何を残せたのだろうかと、時折考えるようになってしまった。これが歳を取ったという事なんだろう」
師匠は私と向き合う。
「ご両親に変わって……などと烏滸がましい事を言うつもりはないよ。ただ、エドガー、君には僕の人生で学んだ事、その全てを授けたつもりだ」
両手を広げた師匠と私は抱擁を交わした。
こうして抱き合うのは小さな子供の時以来か。
自分の身体が大きくなったせいか、あの時と比べ師匠の身体が小さくなったように感じた。
「エドガー、君の旅立ちに祝福があらん事を」
私達はグラスを交わし、残っていたシャンパンを飲み干す。
「さぁ、飲もうか。夜はまだ長いからね」
「えぇ、勿論ですとも。今日は最後までお付き合いしますよ」
席に戻った私達は、日が変わるまで思い出を語り合った。
◇
「おーい先生。大丈夫かい?」
心配した御者が私に声をかける。
「……大丈夫です。少し馬車酔いしてしまいましたが漸く慣れました」
王都を出た私は、まずは目的地の近くにある大きな街まで列車で進んだ。
そこで一泊し、今日は馬車の荷台に乗って目的の村に向かう予定である。
なんとか2日酔いだけはどうにかしたものの、悪路を進む馬車酔いだけは慣れないものだ。
「そうか、ならよかった。丁度、目的地にもついたぞ」
荷台から顔を出すと、村の名前が書かれた看板が目に入った。
「ようこそウォルコッツ村へ。歓迎するよ先生」
私は御者の男性と握手を交わす。
「改めて自己紹介しておく、俺はノーン飼いのショーンだ」
ノーンとは家畜の一種だ。
モコモコの毛は毛織物として、肉や乳は食用として使われ、捨てる部位がないと言われるほどである。
ここウォルコッツの主要産業の一つも言えるだろう。
「よろしくショーンさん、私はエドガーです。ウォルコッツには薬の研究のためにやってきました」
「おうよエドガー。今日から隣人同士、堅苦しいのはなしだ。俺のこともショーンでいいぜ!」
ショーンは私より一回り以上は上、歳は40代くらいだろうか。
人当たりのいい笑顔と、大きな身体が特徴だ。
「わかりました……いや、わかったショーン。今日から世話になる」
「おう! それじゃまずは村長の所だな」
ショーンは私を村長のところへ送り届けると、自らが持つ牧場の方へと向かった。
私は手を振りショーンを見送ると、玄関の前で一呼吸置いてから扉をノックする。
しかし村長は不在なのか、中から反応が返ってこない。
さてどうしたものかと思っていたら、すこし遅れて中から人の声が返ってきた。
「すまない、少し手が離せないんだ。中で待っていてくれないかい」
どうやら不在ではなかったようだ。
私はそろりと扉を開ける。
「失礼します」
村長の家の中に入ると、通路の先から中年の男性がひょっこりと顔を出す。
「あー……もしかして、エドガー先生かい?」
「はい! 今日からここでお世話になるエドガーです、挨拶に来ました!!」
私は通路の向こうにも届くように、いつもより大きな声で返事を返す。
「悪いけど、玄関のすぐ近くの部屋で待っていてくれないかい? 用事が終わったらすぐそっちに向かうから」
「はい、わかりました」
指示の通りすぐ側の部屋に入ると、中には執務机とその前にはテーブルとソファ、そして壁の本棚に溢れんばかりの本が積み重ねられていた。
私はソファに手荷物を置くと、棚に置かれた本に目を移す。
本棚の中にあった本は、どれも読んだ事のない王都の書店でも見かけなかったものばかりであった。
その中の一つ、ウォルコッツ周辺の植物、という題目の本に興味があるのだが、勝手に見るわけにもいかないしどうしたものかと悩む。
「エドガー先生、その本に興味があるのかい?」
「あっ……すみません、勝手に人様の本棚をジロジロと見て」
中年の男性は手に持った食器と、飲み物が入ったケトルをソファの間のテーブルに置く。
男性はノーンの毛で織られた幾何学模様の茶系のローブを羽織り、チェーンのついたモノクルを目にかけていた。
腰紐にぶら下げた銀のメダルは、この国では村長の証とされている。
「先に自己紹介をしておこうか、ウォルコッツの村長グリーンだ。待たせてすまなかったね」
「今日からお世話になりますエドガーです、お気になさらず」
お互いに握手を交わすと、村長はにっこりと微笑む。
落ち着いた喋り方や、物腰の柔らかさを見ると、優しそうな人で何よりだ。
年はショーンとそう変わらないくらいだろうと思う。
「ここにある本は全部、私と父が書き記した本ばかりなんだ」
驚きに目を見開く。
これだけの本を書くとなると相当の苦労があったのではないだろうか。
「驚きました、通りで見たこともない本ばかりだと……」
村長は先ほど私が見ていた本を取り、こちらに手渡してくれた。
「こんな田舎に本なんかなかったからね。この村に関わる事、祖先から受け継いできた村の歴史、子供に聞かせる歌など、これらの本の中に書かれた事は、そう大したものじゃない」
私は本の中身をパラパラと捲ると、そこには手書きの絵と文章があった。
途中から筆跡が変わっていたり、追記の文字が違ったりするのは、今の村長が記したものだろう。
その丁寧な仕事に私は感嘆とした。
「それでも、ここにはこの村の事が詰まっている、興味をもってくれて嬉しいよ、エドガー先生」
「いえ、こんなに丁寧にかかれた辞典、王都でもなかなか見ませんよ」
私が素直に植物辞典の感想を述べると、村長はとても喜んだ。
「そう言ってくれると嬉しいよ。よければその本は先生が持っておいてくれ。ここにあるよりよっぽど有用だろう」
「いいのですか?」
「勿論だとも、是非とも研究に役立ててくれ」
村長は私をソファへ座るように促すと、自らが持ってきたカップに黄緑色の茶を注ぐ。
清涼感を感じる味に、程よい苦味が丁度いい。
「これは村で自生しているティンダーの葉です。よかったらトネックの実をすり潰したクッキーもあるので一緒にどうぞ」
「ありがとうございます。これは……見た目の素朴さとは打って変わって、しっかりした甘みがありますね」
トネックの実を使ったクッキーは、ごつごつとした薄い焼き目の地味なクッキーだが、口に入れ唾液が混じると、水分によって溶けるように消えていく。
「そうでしょうそうでしょう。トネックの実は甘くてそのままでも食べられるんですよ」
「驚きました、ティンダーの葉も花の方を薬の材料として使った事はあるのですが、トネックの実といい食用としていただくのはこれがはじめてです」
私は持て成しの礼を言い、村長としばしの間、雑談を交わす。
「ところで、先生の住む場所だけど、届いた荷物は一階の部屋の中で梱包したままにしています。今から荷ほどきしていると夜には間に合わないだろうから、部屋は用意しているから今日はここに泊まるといいでしょう」
「ありがとうございます、ただ、届いた荷物を確認しておきたいので、今日のうちに一度は見に行こうと思います」
「うん、それがいいだろう。では日が沈む前に一度そちらに向かおうか、案内するよ」
「はい、助かります」
私は手荷物を持って、村長の後について自分の家がある方に向かう。
すると道すがらに、他の村人たちに声をかけられた。
驚く事にどの村民もこちらが挨拶しなくても、私の名前を知っていたことだろう。
「そりゃ田舎だからね。事前に先生が来ることは伝えていたし、知らない人が私と一緒に居たら先生だって一目でわかるよ」
なるほど、そういう事か……。
ウォルコッツは確かに村長の言うように田舎だが、活気がないわけではない。
私と変わらない年齢の者たちもちらほらといるし、畑の側を走り回る子供達の姿も見える。
教会や学校、雑貨屋などといった基本的な物は一通り揃っているように見えた。
ふと視線を逸らすと、酒場の外で3人の男性が少し早めに晩酌している。
その中の1人と視線が合うと、こちらに気がついたのか席から立ち上がった。
「村長どうした? もしかしてそっちが村に新しくきたエドガー先生か」
「あぁジェイクか、今は先生に家を案内しているところだよ」
ジェイクと呼ばれた茶色のベストを羽織った金髪の中年男性と、一緒に晩酌していた2人の男性もこちらに近づいてきた。
「はじめましてエドガーです、お世話になります」
私が挨拶を交わすと、3人の中でも最も大柄なスキンヘッドの中年男性が話しかけてきた。
同じ大柄な体格でもショーンと比べると、こちらの方がより厳ついように見える。
「俺の名前はハンクだ、ここで酒場をやってる」
ハンクは後ろにある酒場に目配せすると、握手した手を自分の体の方に引っ張る。
どういう事かと思ったが、体を密着させたハンクは、村長には聞こえないように小声で俺に囁く。
「色男の先生には無縁かもしれねえが、夜には若い女も店に出る。よかったらきてくれ」
夜に若い娘さんが店に出ると言う事は、そう言う事である。
私がそちらの方にお世話になる事はないが、社交辞令がてらに軽く頷いた。
「ハンク、エドガー先生に変なことを吹き込むんじゃないぞ」
村長は目を細め、剣呑な視線をハンクに送る。
「先生だって若いんだ、俺は男としてのこの村での作法を先生に教えて差し上げたにすぎねぇよ」
ハンクはニカッと笑うと、私の手を離し解放する。
次に俺が握手を交わしたのは、3人の中でも一番年上だと思われる、お腹の出た恰幅のいい初老の男性だ。
「ワシの名前はローレンだ。この村では雑貨店を営んでいる。よろしくエドガー先生」
「こちらこそよろしくお願いします、ローレンさん」
ローレンの雑貨屋では、生活必需品から嗜好品まで色々な物を取り扱っているようだ。
店で扱っている商品自体は、私が昨日宿泊した大きな街から仕入れているらしい。
ローレンとの挨拶を終えると、ジェイクがこちらに手を伸ばす。
「俺の名前はジェイク、猟師をやってる。エドガー先生は医療の嗜みもあるんだって?」
「ええ」
ジェイクは口角を上げ、ニヤリと笑う。
「今度よかったら肩と肘を見てくれ、最近痛くてな」
「私で良ければ構いませんよ」
酒場の軒先で雑談していると、見覚えのある人物が向こうから荷馬車を飛ばしてやってきた。
「大変だ!」
「どうした、ショーン?」
顔を青くしたショーンが荷馬車から降りると、村長に縋り付く。
確か牧場にいっていたはずだが、どこか様子がおかしい。
「娘が、リリィが森から帰ってこないんだ!!」
ショーンの話を聴くと、村の学校で先生をやっているショーンの娘、リリィさんが何人かの大人達と、迷子になった子供を探すために森に入ったそうだ。
幸いにも迷子になった子供達はみつかったものの、子供の1人が怪我を負っていたらしい。
さらにそこに不幸が襲いかかる、村に帰る道すがら彼女たちは森に住まう魔獣に見つかってしまった。
なんとか魔獣から逃れた子供が村に辿り着いたものの、リリィさんは怪我を負った子供につきそい、まだ森の中に取り残されたらしく戻ってきていない。
事態は一刻を争っていた。
「わかった俺は家に銃を取りに行く。ハンク行くぞ! ショーン、お前はここで待ってろ」
さっきまで呑んだくれていて顔を赤くしていたジェイクは、表情を引き締め周囲に指示を出す。
「いいや、俺も探しに行く!」
「待て、魔獣に遭遇したらお前は戦えないだろう?」
「それでもここでじっと待っているなんて俺には無理だ!!」
ショーンの気持ちはわかる。
自分の家族が危機であれば、駆けつけたいと思うのが親心。
私もショーンの立場であれば同じことをするだろう。
「私も手伝いましょう」
「エドガー先生?」
私は腰のホルダーから銃を取り出しみんなに見せる。
この銀装飾の家紋が入った銃は、今は亡き父親の形見だ。
「これでも少しの間ですが軍に居ました。山での戦闘は実戦も経験しているし、足手まといにはならないはずです」
私が軍にはいるきっかけとなったのは16歳の時。
あの頃の私は師匠に迷惑をかけまいと、学費が無料となるという理由から、士官学校への入学を誰にも相談せず勝手に決めた。
今思い返せば、子供だったと思う。
私から士官学校に入ると事後報告を聞いた時の師匠の悲しそうな顔をみて、私はやってしまったと大きく反省したものだ。
その後、師匠の家を出て寮生活を送り、2年経った18の時には軍への入隊が決まる。
しかし私はそこで勉学における入隊延長制度を利用し、士官学校時代に得た給料の貯蓄を崩し、2年間の猶予で師匠が教授を勤める大学へと進学した。
そこから再び2年間は、寮生活ではなく師匠の家で暮らす事になるのだが、今になって思えばそれは良い思い出である。
そして20歳になった私は短期卒業制度を利用し大学を卒業し、士官学校卒業の義務として5年に及ぶ期間を従軍し、その期間の終わりと共に退役し、伝手を辿りここにきた。
「それに、怪我をしている者がいるなら治療できる者が同行した方がいいし、リリィさんも怪我を負っていたら帰りが2人では危険だ」
怪我人が2人に増えていた場合、帰りの道で魔物に襲われればひとたまりもない。
ショーンは戦えないかもしれないが、怪我人を背負って運ぶくらいはできる。
「たしかにそうだな……いいだろう、あてにさせてもらうぜエドガー先生」
ジェイクは俺の背中を叩くと、村長の方に振り向く。
「村長、男衆を集めてくれ、比較的近場なら危険もないはずだ。日没までが勝負だから、俺たちは深い所を探す」
「ああ、そうだな」
村長はジェイクの提案に頷くと、ちょうど近くを通りかかった若い男に声をかける。
「すまないが緊急事態だ、急いで広場に人を集めてくれ」
「わかった、広場でいいんだな?」
「あぁ」
声をかけられた男は、大きな声を上げそれぞれの建物をノックしていく。
男から話を聞いた者も加わり、波状的に村の者達に伝達していった。
「俺も自分の家に銃を取りに行くから、準備ができたら東側の入り口の前で集合だ、いいな?」
「ああ、了解だ」
ジェイクが準備を整えるために自分の家に帰っていくと、ショーンが私の元に来て頭を下げる。
「すまないエドガー、村に来たばかりだと言うのに感謝する」
「気にするな、ショーンは馬車酔いで面倒をかけたからな、それに困った時はお互い様だ」
私はうなだれるショーンの肩を叩く。
さて、私も準備をしないといけないな。
そう思っていると、今度は村長が頭を下げた。
「私からもお礼を言う、エドガー先生」
「気にしないでください村長」
私は村長と話しながらも、自分の手荷物の中から必要な物を取り出し準備を進めた。
人差し指サイズの小さな試験管に入った液体や粉末状などの医薬品を手に取ると、仕切りのついたポシェットの中で固定させて配置していく。
これらは既に薬になっているものもあれば、原材料の段階のものもある。
なぜ原材料を持って行くかというと、持っていった薬や現場で調達できるもので対応できればいいが、そうでない場合もあるからだ。
「村長すみませんが、手荷物を預かってもらえますか?」
「あぁ、構わない」
私は腰のベルトにポシェットをつけると、魔法印が刻まれた黒革の手袋を装着し、取り出したショットガンを肩にかける。
「エドガー先生、よければこれを使ってくれ」
息を切らせたローレンが、私の手に一つの銃弾を手渡す。
どうやら私たちが話している間、ローレンはこれを取りに行くために自らの店に戻っていたようだ。
「これは……! いいんですか、ローレンさん?」
「あぁ、構わんよ。店の倉庫で埃を被るくらいなら使われた方がいい。軍に居た先生なら使い方を知っているだろうし、その銃じゃないとこれは撃てないだろう?」
この銃弾は魔弾と呼ばれる物である。
魔弾はその名のごとく中に魔法が込められており、その威力は普通の銃弾とは桁違いだ。
ただしこの魔弾は全ての銃で使えるわけではなく、魔銃と呼ばれる武器でなければ使用できない。
魔銃には精霊と呼ばれる存在の魂が宿っており、それらが魔弾の発射を介助してくれる
「ありがとうございますローレンさん。それでは私達は集合場所に向かいます。ショーン、行こう!」
「あぁ!」
私はローレンさんに礼を言うと、ショーンとともにジェイク達との集合場所へと向かった。
何とか日が沈む前に2人とも無事に見つかればいいのだが……。
◇
「クソっ、日が傾いてきやがった」
ジェイクは苛立ちから悪態を吐く。
私たちが森の中にはいって1時間が経っていた。
子供達が最後にリリィさん達と逸れた場所にはたどり着いたが、そこにはリリィさんや怪我した子供はおろか、魔獣の影もなく私たちは更に森の深くへと進む。
「ジェイク、道が二手に分かれているどうする?」
先頭を歩くハンクが立ち止まる。
「ここから右に降れば川のほとりに休憩用の小屋、逆に左に登れば、上には伐採時の休憩小屋がある」
「1人は怪我しているんだ、おぶって登る事を考えたら川の方に行った可能性は高いと思うが……」
「だが、距離は登る方が近いし、反対側を迂回すれば村に戻るのには早い」
ジェイクは一瞬悩むと、後ろにいた私とショーンの方に振り向く。
「仕方ねぇ、ここからは時間の勝負だ、二手にわかれるぞ。俺とハンクは右に降るから、先生とショーンは左に登ってくれ」
「魔獣の事を考えれば、二手に分かれるのは危険ですが……この場合は仕方ないですね。もし、2人を見つけたら合図してください。すぐにそちらに駆けつけます」
「わかった、先生も気をつけてな」
二手に分かれ十数分、ジェイク達の言うように、少し開けた場所の中に小さな建物が見えた。
ショーンは小屋の方に走っていくと、扉を開け中を確認する。
「リリィ! 俺だ、無事か!!」
「お父さん!?」
良かった、どうやら見つかったようだ。
ショーンの後に続いて私も小屋の中に入る。
「あっ……貴方は?」
ショーンの娘リリィは、ベッドで寝そべる小さな女の子の手を取り寄り添っていた。
年は私より少し下、20歳前後くらいか。
ところどころに逃げる時にできたと思わしき小さな傷と、足が腫れているように見えるが、今は彼女よりこの少女の方が優先だろう。
「はじめましてリリィさん、私の名前はエドガー、今日からこの村でお世話になります」
私はリリィと挨拶を交わしつつ、ベッドでねそべる少女を診察する。
「熱がでているね。やぁ、私の名前はエドガーだ、君の名前を聞いてもいいかな?」
「わたしはナルル……だよ、エドガーさんはお医者さん?」
「あぁ、そうだよ。よろしくねナルル、寒気はある?」
「う、うん」
「手足のしびれを感じたり、痛い所はないかな?」
「ひ……左腕が焼けるように痛いの」
ナルルの体を横に向け患部を確認すると、傷跡が赤黒く変色していた。
この状態から考えられる可能性は五つ。
今度はリリィに質問をなげかける。
「嘔吐は?」
「えっと、少し前にそこで」
嘔吐が伴うのは、このうちの三つ。
私は吐瀉物に近づくと、ハンカチで口を抑え、木の枝を使ってナルルの吐き出した物を確認する。
「これだ」
原因を突き止めると、2人も手に布を当て覗き込む。
「これは、トネックの実ですか?」
「いいえ、これはラドンの実です」
ラドンの実とトネックの実は外見がとても似ていて、その違いは実を割った時に中の空洞に小さな粒が入っているかどうかである。
この村の人がそれを知っていたかどうかは定かではないが、子供達が普段からトネックの実を食べているこの村では知らずに食べてしまうというのはありえる話だろう。
「ラドンの実は免疫力の強い大人であれば何の影響もありませんし、加熱すれば毒性は消えます」
「それで、ナルルちゃんは大丈夫なんですか、エドガー先生!?」
リリィは不安そうな表情で、私のコートにしがみつく。
「問題ありません、薬を飲めば熱は引きますし、放置しても三日あれば治るようなものです。ただ左腕の傷が毒に反応して化膿しているのは問題です。今から処置するので、ショーンはジェイクさん達に狼煙で合図してください」
「わかった、こっちは任せろ!」
私は用意してきたポシェットから、いくつかの薬品を取り出す。
残念ながらこの毒に対する薬はないが、無ければこの場で調合すれば良いだけの話である。
私は戦闘用の黒革の手袋から、医療用の白布の手袋に履き直す。
この白手袋には魔法印が刻まれており、装着し魔力を込めれば浄化の魔法が発動し触れる場所を除菌する事ができる。
「私は今から薬を調合します。リリィさん、この薬を飲んでください」
私はルドバインという名の粉末状の薬が入った袋を2つ取り出すと、そのうちの1つを水に溶かしてリリィさんに手渡す。
この薬は本来、痛み止めとして使うものである。
「わかりました」
私は次にここに来る途中で摘んできたプリムの花から蜜を絞る。
この蜜には解熱作用があるので、それを利用する事にした。
一応解熱用の薬も持ってきているのだが、この蜜の成分の方が体にやさしく加熱すれば甘くなる。
よって子供に使うならこちらの方が良いだろう。
私はプリムの蜜を加熱し、ルドバインの粉を蜜に溶かす。
「リリィさん、これをナルルちゃんに飲ませてください」
「はい!」
次は化膿した場所の治療だ。
ここで使うのはティンダーの葉である。
これもここに来る途中で自生しているのを拝借した。
私は持ってきた薬の一つ、ほんのり赤く透き通った液体、アケニアと呼ばれる薬品をティンダーの葉に染み込ませる。
アケニアには化膿した箇所の炎症を抑えるために局部を冷やす効果があるが、普通は布地に染み込ませて使うものだ。
しかし、ティンダーの葉に染み込ます事で、よりその効果を持続させる事ができる。
私はナルルの左腕の化膿した場所にティンダーの葉を貼り付け、上から布地を巻きつけ固定した。
「ここでできる事はここまでです」
ナルルは熱と痛みが少し和らいだのか、徐々に顔色がよくなっていく。
「ありがとうございます、何とお礼を言えばいいか……」
リリィは今まで不安だったのだろう。
緊張の糸が解け、涙をポロポロと零す。
「ご、ごめんなさい」
リリィはこぼれ落ちる涙を止めようと、手で目を擦るがこれは良くない。
小さな傷口から菌が入ってはいけないと、私は咄嗟にリリィの腕を掴んでしまった。
そのせいで思わず彼女と視線が合う。
ここまで治療に専念していて全くが気がつかなったが、目鼻立ちのはっきりとしたリリィは中々の美人だ。
もし彼女がドレスを着て煌びやかな場所にいれば、誰しもがどこかのお姫様だと信じて疑わないだろう。
私はほんの少し、彼女のその美しさに見惚れてしまった。
「す、すみません……傷口に菌が入ってはいけないと、許可なく君の手を掴んでしまった」
「は……はい、私はその、大丈夫ですから、あ、ありがとうございます……」
思わず気恥ずかしくなった私達はお互いに視線を逸らす。
お互いに押し黙ってしまい、部屋にほんの少しの沈黙が訪れる。
しかし、このままではいけないと口を開いたその瞬間、再び私たちの視線は交わった。
「「あの……」」
「エドガー! ジェイクとハンクが来たぞ!!」
しゃがみこんでいた私はショーンの声に反応してすぐさま飛び上がる。
「ん? どうしたエドガー?」
ショーンは何かあったのかと訝しむように顎に手を置く。
「あ、あぁ、2人の治療もちょうど終わった所だ」
「おお、そうか! ありがとうエドガー」
ショーンは俺の手を両手で握ると力任せにブンブンと振る。
こんなリリィと似ても似つかぬがさつな男から、どうして彼女のような人物が生まれるのだろう。
これも人体の謎の一つかもしれない……。
「ショーン! 先生! 2人ともぼーっとしてる暇はないぜ、とっとと村に戻ろう。今ならまだ間に合う」
「えぇ、わかりました」
私は広げた道具を片付け、ショーンは火を消すとナルルを背負う。
「ナルルは俺が運ぶ、リリィは歩けそうか?」
「えぇ、大丈夫……あっ」
立ち上がった瞬間、転びそうになったリリィを私は咄嗟に支える。
「……ありがとうございます、エドガー先生」
「あ、いや、偶々ですから……」
ショーンの視線が痛い……。
言っておくがこれは不可抗力だからな。
「リリィ、エドガーに肩を貸してもらえ」
「えっ?」
「エドガー、リリィを頼むが大丈夫か?」
「あ、あぁ問題ない」
私とリリィはお互いに顔を見合わす。
「ではお手をどうぞリリィさん」
「はい、エドガー先生」
意識しないようにしたいのは山々だが、この至近距離。
触れる彼女の生々しい柔らかさと匂いに、意識するなと言う方が不可能だ。
別に女性慣れしていないことはないのだが、これはおかしい。
もしかしたら私は何かの毒にやられて……。
「何をしてるんだお前ら、さっさと行くぞ!!」
外で見張りをしているジェイクの怒鳴り声が聞こえた。
「すまない、今いく」
彼の言う通りだ、まずは集中しないといけない。
なんとか、日没までに村に帰る事が出来ればいいのだが……。
◇
「思ったより時間がかかるな……リリィ、もうすこしペースを上げられないか?」
小屋を出て数十分、先頭を歩くジェイクが声をかける。
「す、すみません」
焦るジェイクの気持ちはわかる。
リリィも頑張っているが、想定よりペースが遅い。
仕方ないが、背に腹は変えられぬ。
俺は覚悟を決め、リリィに声をかける。
「すみませんリリィさん、無礼を承知で先に謝罪にしておきます」
「えっ? ええっ!?」
私はリリィを支えていた手を腰に回し、彼女を両手に抱きかかえる。
未婚の女性にこんなはしたない真似をさせるのはどうかと思うが、今ここで迷っている暇はない。
「振り落とされないように、両手を私の首に回してくれると助かります」
「ひゃ、ひゃい」
やはりリリィも恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしていた。
釣られてこちらまですこし頬が赤くなる。
「これで問題は解決しました、先を急ぎましょう」
ジェイクの顔がニヤつく。
「ひゅーっ、先生、ただの優男かと思っていたが、あんたなかなかやるねぇ」
「黙っててくださいジェイクさん、私も恥ずかしいんですから」
強面のハンクも表情を崩し笑顔を見せる。
「はは、そうかリリィもそんな歳か、ショーン、今からリリィが嫁に行く心構えをしておけよ」
なっ、一体何を言って……。
「エドガー、娘の色事に口を挟みたくはないが……せめて結婚する前には手を出さないでくれよ」
「ショーン!」
「お父さん!!」
ショーンの言葉に思わず、リリィと2人で反応してしまった。
それを見たみんなは微笑ましそうにこちらを見る。
……って、こんな所で立ち止まってる場合じゃないですよ、みなさん。
「みなさん、これは緊急事態だからです。私とリリィさんは出会ったばかりなのですから、へんな勘繰りはしないように、それより早く先を急ぎましょう」
「ああ、すまねぇすまねぇ、そのかわり、今晩の晩酌には付き合えよエドガー先生!」
「仕方ありませんね、わかりました」
俺たちは再び、森を進む。
なんとか魔獣に遭遇する事もなく、日が沈む前に村の入り口に辿り着いた。
「ジェイク! ハンク! ショーン! エドガー先生、それにリリィやナルルも、無事だったか!!」
村の入り口では、村長と村人たちが待っている。
その時だった、魔獣の雄叫びがかなり近い距離から聞こえた。
「近いぞ!」
音のした方向に全員が視線を向ける。
するとゆっくりと、森の奥から大きな四足歩行の魔獣が姿を現した。
その身は深々とした白い毛で覆われ、開かられた口からは凶悪な牙が見える。
ギロリとした縦長に開いた瞳孔を揺らし、獲物を選定しているようだった。
頬に一筋の汗がたらりと滴る。
明らかに魔獣の中でも上位であり、このレベルの魔獣が現れたら辺境の村などひとたまりもない。
なぜこんな所に……いや、そんな疑問を考えている暇もないか。
「リリィさん、ここからは1人で歩いてください」
「はっ、はい!」
私は抱えていたリリィを地面に下ろす。
「みんなは村の中に、あいつは私がどうにかします」
「エドガー先生、俺も手伝……「ダメです」」
「ジェイクとハンクは、もしもの時、村民を逃がすために必要です」
これは1人で戦うための口実でもある。
連携が取れている者であれば良いが、ジェイクもハンクも今日会ったばかりだ。
それならば1人で戦った方が、よっぽど勝機がある。
「ぐっ、すまねぇ」
「助かる」
ジェイクとハンクは武器を構えたまま後退する。
「今日の飲みは俺が奢るからな、絶対生きて帰れよエドガー!!」
「それは楽しみだな、財布の中が空にならないように補充しておいてくれよショーン」
ショーンは俺の肩を叩く。
「どうかご無事でエドガー先生……絶対に生きて帰ってきてくださいよ」
「はい、わかりました」
リリィは私にお辞儀をすると、ナルルを背負ったショーンと共に村の中へと戻る。
ジェイクとハンクは2人が村の中に入ったのを確認して、それに続く。
全員が村の中に入ると、私を外に残し木で作られた門が閉められた。
魔獣はゆらりゆらりと、余裕を見せつけているのか、ゆっくりとこちらに近づく。
こちらの準備が調うまで待ってくれていたのか、門が閉まると同時に魔獣は加速した。
「せっかく軍を辞めたというのに、まさか1人で魔獣討伐する羽目になるとは……」
敵の突撃を軽く回避し、銃弾を装填したショットガンを敵に向けトリガーを引く。
爆発音と共に、2発の銃弾が魔獣の横っ腹に直撃する。
しかし魔獣は少しよろけた程度で、銃弾をものともせず受け止めた。
ちっ、ショットガンでも無傷となると面倒だな。
私は再度魔獣に接近しギリギリで攻撃を交わすと、すれ違いざまに眼球めがけて1発お見舞いする。
しかし、これでも魔獣を傷つける事は出来なかった。
私に攻撃を当てられない事に苛立ちを覚えた魔獣は咆哮をあげる。
そのタイミングで更に1発、敵の口腔内をめがけてショットガンを放つ。
硬いな……これも効かないか。
私は敵の攻撃を回避しつつ、白いコートのポケットから新しい銃弾を取り出しショットガンに装填する。
これで効果があればいいのだが……。
私は再び距離を近づけ、魔獣の外皮に向けて新しく装填した銃弾を放つ。
銃弾の中に入った金属粉が火薬によって点火し、魔獣の深い毛に燃え移る。
自分の体を覆う毛が燃えた事で魔獣は驚く。
私は5秒間隔で立て続けに銃弾を放つと魔獣は火だるまになった。
ここで終わればよかったのだが、魔獣の目の色が変わると自らの周囲に風を起こし炎を吹き飛ばす。
私は魔獣の目が変わった段階で危機を察知し、それよりも早くに魔獣から距離を取っていた。
魔法の行使、これこそが魔獣が魔獣と呼ばれる所以だろう。
私はショットガンを手放し、魔法印が刻まれた黒革の手袋に魔力を込める。
白い手袋もそうだが、魔法印は魔力を込めるだけで刻まれた魔法が展開されるのでとても扱いやすい。
風魔法による斬撃をかいくぐり魔獣の懐に飛び込んだ私は、その横っ面を思いっきりぶん殴る。
よろけた魔獣の反対側の側面を更に踵で蹴飛ばし、その後も連続で打撃を叩き込んでいく。
身体能力の向上、これこそがこの手袋に刻まれた唯一の魔法である。
一方的に嬲られる魔獣の姿だけを見れば明らかにこちらが優勢だが、私の方に決定打があるわけではない。
私は魔獣を蹴飛ばし、大きな木にぶつける。
背中から激突した魔獣はなかなか起き上がれなかった。
私はその隙に腰のホルダーから銃を引き抜き、既にシリンダーに装填されていた銃弾を地面にばらまき代わりにローレンから貰った魔弾を装填する。
これで効かなきゃ、打つ手なしだな。
起き上がった魔獣に、私は魔弾を装填し終わった銃を向けた。
銃に埋められているリャナンシーが封印された精霊石が光ると。それに呼応して、瞬時に魔銃と私の体内の魔法回路が接続されていく。
怒りに任せた魔獣が咆哮を上げ、銃口の先には起動した魔弾の魔法陣が次々と空に浮かぶ。
勝負は一瞬だった、魔獣が放つ魔法などまったく意に介さず、魔弾に込められたより上位の無慈悲な風の暴力によって、敵の放つ風魔法ごと魔獣の上半身が吹き飛んだ。
魔獣の後ろの雑木林は魔法によって抉れ、道が開かれたように地面が吹き飛ぶ。
やはり戦時中の軍用の道具だけあって、ろくなもんじゃないな。
魔弾を撃つのは初めてではないが、この威力は馬鹿げてる。
そのおかげで思ったより魔力を持っていかれてしまった。
私は完全に上半身が消し飛んだ魔獣に憐れみの視線を向ける。
それなのに戦時中は、これを人に向けて放つのだから人の業は深い。
私は自虐の笑みを浮かべ、戦闘によって少し高ぶった感情を落ち着けた。
「「「う、うおおおぉぉぉぉぉ」」」
男たちの唸るような声に私は振り返る。
みんな、逃げろって言ったのに、村民達は柵の隙間からこちらの戦闘を見ていた様だ。
その後閉めていた扉が開き、村民達が私の周囲を囲む。
「エドガー先生、あんたすげぇな、マジで軍にいたんだな」
ジェイクは子供の様に目を輝かせる。
「いえいえ、ローレンさんのくれた魔弾のおかげですよ、ありがとうございます、ローレンさん」
「その魔弾を使えるのはこの村ではエドガー先生だけです。先生が居なきゃそれだけじゃ意味がないですから……それに、あとで使った魔弾の代用品は村長に請求するから問題ありませんよ」
このご老人なかなか食えぬ。
ローレンは先ほどまでと違って、悪徳商人のような悪い笑顔を見せる。
そういえばローレンは使ってくださいとはいっていたが、タダであげるとは言ってなかったな。
村長すまん……。
俺は後ろで白目を剥く村長に心の中で謝罪した。
「よしっ、先生、今日はサービスだ、好きな女の子をお持ち帰りしていいぜ」
ハンクは親指をクイッと後ろに向けると、酒場で働いていると思わしき女性達がウィンクを飛ばしてきた。
「ほぅ、リリィ止めなくていいのか? このままじゃエドガーが取られるぞ」
「もう、お父さん! 私とエドガー先生は今日あったばかりだし、エドガー先生はその私なんかよりもっと素敵な女性が……」
リリィより素敵な女性など王都でも中々いないと思うが、彼女は自分の自己評価が少し……いや、だいぶ低いんじゃないのかと思う。
「それに、先生だって男の人だから、そういうのも……独身だし……仕方ないんだと思います」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 私はそういうのにはお世話になりませんから!!」
何故だかはわからないが、私は彼女にはそういう勘違いをして欲しくなかった。
「へぇ、じゃあ代わりにリリィが……ぐえっ」
余計な事をいいそうになったジェイクの頭に、ショーンが近くにあった野菜をもぎ取り投げつけた。
「てめぇ、人の娘に余計な事を言うんじゃねぇ!」
「うるせぇ、嫁に行き遅れるより、よっぽどいいだろうよ!」
取っ組み合いの喧嘩を始めた2人だが、ショーンの奥さんらしき女の人が、2人の頭を叩き説教を始める。
こうなった根元のハンクはいつのまにか、酒場へと帰っていったようだ。
あの男、中々の危機察知能力だと思う。
周囲の顔を見ると村人達から笑顔が見えた。
先ほどの戦闘で村人達から怖がれるかと思ったが、最初のジェイクの反応が良かったのか、ハンクやローレン、ショーン達に助けてもらった気がする。
いい所に越してきたな。
私は山の谷間に落ちる日の光に目を細める。
これがこの村での俺の最初の1日だった。
お読みいただきありがとうございました。
連載用に作ってた過去作です。
別作品を連載したためにお蔵入りしていました。
この後の展開としては、村で起こった問題をおっさん連中と解決しつつ、たまに王都に帰ったり、軍人時代の仲間が村にやってきたり、リリィのいる学校で自分も教鞭をとったり、逆に自分の薬屋をリリィが手伝ってくれたり、エドガーがリリィを甘やかしたり、おっさん連中におもちゃにされたり……まぁ、そんな感じを想定して作りました。