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10話 1vs3

 敵の攻撃は、素早く、強烈だった。流石ss、というべきか。

「おらッ! 避けるので! 精一杯かッ!?」

 上段の突きをしゃがんで避ける。中段の突きを太刀の腹で受ける。下段突きをサイドステップで回避。凪ぎ払いは剣を縦にして後ろに飛ぶ。


 この四つの動作をするだけでも物凄く疲れる。オークと戦った時の傷も残ったままで、それが痛みだす。思わず膝をついて呼吸を調える。

「はぁ……はぁ……」

「おいおい、もう終わりかよ」

 槍を地面に突き刺して俺を見下ろした。弱者をいたぶるケダモノの目を睨み返す。

 いくぶんか呼吸が落ち着き、活動可能になる。

 最後の深呼吸を終え、素早く左手を伸ばす。相手の槍を握って引っ張る。

 体重をかけていた物がなくなり、大きく体勢を崩す。


 そこをついて腹部へ蹴りを叩き込む。初めて本気で他人の腹を蹴り飛ばした。

 ぷにぷにと柔らかい肉を凹ませるのはいささか気味が悪かった。


「はッ!」

 胸に浅い切り傷をつけようと、斜めから太刀を振り下ろす。

 しかし、触れる寸前、別の剣が飛び込んできた。

「邪魔すんなっ!」


 横田のロングソードが弾き、数歩下がる。

「ユウスケ!」

 背後からコーディアが叫ぶ。振り返るともう一人の剣士が襲いかかってきていた。剣で受け止め、鍔迫り合いが始まる。


 押しつ押されつで争っていると、横田が背後から切りかかってきた。

 刃を横に滑らせ、鍔迫り合いから抜ける。勢い余った剣士は前のめりに突っ込み、横田の肩口に剣を刺した。

「いってええええッ!!」

「ご、こめん!」


 深くは刺さらなかったようで血は少量しか出てこないが、それでも二人は大パニックに陥っている。

 そういえば魔法組が攻撃してこないな、と周りを確認する。


 なんと、離れた所でミチル達が相手にしているではないか。心の中で礼を述べつつ、横田達に視線を戻す。

「横田、もう諦めて帰れよ。王様に言わなけりゃいいから」


「うるせぇ……タクト、やっちまえ!」

「わ、わかった!」

 包帯で止血していた剣士──もといタクトは細身の剣を握り直した。

「いくぞ!」

 律儀に宣言をしてから走り出した。彼我の距離は六メートル程。

 長さを活かした突きを反らし、左手で顔面を殴り付けた。一瞬怯んだ隙に、剣を奪い取って持ち手の右腕に突き刺す。

「─────ッ!!」


 声にならない悲鳴を上げてその場にうずくまる。必死に剣を抜こうとして出血が酷くなる。

「よせ、抜くな! 後で回復魔法でもかけてもらえば治るはずだから!」

「お前が刺しておいて! よくも! 言えたな!」


「俺はお前らを殺したい訳じゃないんだ。ただじゃ帰ってくれないだろ?」

「くそっ、くそっ……!」

「坂下アアアアアアアッ!!」

「うわッ!?」


 ダイスケが槍を突きだした。腕を浅く削がれる。

「ちくしょう、何でお前らは馬鹿ばっかなんだよ! 殆ど勝負はついてるじゃねえかよ!」

 猛攻をしかけてくるダイスケに問うように言ってみるが、目が爛々と輝いていて聞く耳を持たない。


 上段突き、中段突き、下段突き、凪ぎ払い。右に回転しつつ凪ぎ払い、戻ってきたところで切り上げ。左から順に三回の中段突き、切り下ろし。

 ──以下繰り返し。

「お前、アビリティに振り回されてるだろ」


 繰り返される攻撃を捌きつつ尋ねると、ピクリと眉が上がった。

「当たりだな。最初から最高位のアビリティを貰っても、体を動かされるだけ。俺は【剣術c】だからいい感じにマッチしてる。お前はアビリティのパターンに動かされているだけなんだよ!」


 真ん中への中段付きを上方向に弾き、そのままの流れで肩口から切り裂く。槍をついて倒れるのを拒否する。

 痛々しい彼の槍を蹴って倒す。手から槍をついてもぎ取って遠方へ投げ捨てる。


「ユウスケ、こっちは終わったわ」

「ああ、こっちもちょうど終わったよ」

「こいつらどうする? 殺す?」

 指先に魔力を溜めたコーディアが俺を見る。


「いや、クラスメートのよしみで見逃してやるよ」

「坂下くん、大丈夫?」

 ユカリが傷のついた箇所を治療してくれる。


「むむ、何か飛んでくるわ」

 コーディアが耳をピコピコ動かして言う。彼女の向いた方に目を向けると、小さな点が動いていた。

 それはだんだんと大きくなり、俺達の方へと向かってきていた。


「あれは……銀竜?」

 キヌエが目を凝らして呟く。つまり、ルナが探しに来たということだ。

 華麗な着地をきめると、溜息をついた。


「何をしているのですか、こんな所で」

「……あれ、そう言えば坂下はなんで生きてるの?」

 俺が事情を説明していると、ミチルが首を傾げた。

「そうだよ、銀竜の生け贄にされたじゃん」

 ユカリが頷いて俺に目を向ける。

「私達は大王を倒すために手を組んだのです」


「大王って……魔王の事? 貴女、モンスターなのに面白い事を言うのね」

 キヌエが鼻で笑うが、俺とルナがわらわないのを見ると驚いた顔をした。

「嘘でしょ?」

「本当だよ。あの時、連れてかれて話をして魔王倒そうぜ、ってなったんだ」

「……危ないですね」

 目にも止まらぬ速度でルナの尻尾が閃いた。狙った先にはナイフで俺の事を刺そうと忍び寄っていたダイスケだった。

 鞭の如くしなった尻尾に吹き飛ばされて横田達が身を寄せあっている所に戻される。


「あら、ユウスケを私に巡り合わせた者じゃないですか。この際ですからお礼に殺してあげましょう」

 横田軍団に気がついたルナが笑った。だが、目だけは笑っていなかった。

「よせルナ。何も殺すことはないだろ?」

「甘いですね。生きていたらまた狙いに来るのですよ?」

「それでも……」


 口ごもっていると、ルナが横田に向き直る。

 ルナが火を吹くよりも早く、横田軍団はどこかの町へワープしたようだ。

「ユウスケが止めるから逃げられてしまいましたよ」


 俺も集中の糸が切れたのかその場に膝から崩れ落ちる。

「ユウスケ!?」

「はは……力が抜けて立てないや……」

「全く。帰りますよ」

 ルナが優しく俺の体を掴む。

「あの、私達は殺さないの?」

 ユカリが不安そうにミチルの後ろから尋ねる。

「ユウスケを助けてくれたのだから殺しません。むしろ感謝しています」

 二人が嬉しそうに頬を染めて笑う。


「坂下、助けてくれてありがとう。もし良かったら……私達と組まないか?」

 キヌエが改まって頭を下げた。

「いや、遠慮しとくよ。俺といると色々めんどくさいだろうから」

「それでも、仲間は多い方が安心だろう?」

「安心だけど……俺といるとディアスに追いかけ回されるぞ。だから、また会った時に助けてくれよ」


「……わかった。それじゃあ、また会おう」

「それでは、お気をつけてお帰りを」

 ルナが微笑んで飛び立った。優雅に飛び、雲の上に出る。やはり雲の上は高いな、と当たり前の事を考えながらルナに問いかける。


「ルナ、よく俺達の事を見つけられたな」

「帰ってくるのが遅いから飛び回っているとユウスケの声が聞こえたのです」

「マジ?」


「ええ、コーディアと同じぐらい耳が良いですから。それに目もいいです」

「羨ましいね。最近視力が落ちてきてさ」

「人と魔物の差もありますからね」


「あ、コーディア。お前、怪我とかしてないか?」

 コーディアが翼の付け根辺りから顔を覗かる。

「ええ大丈夫よ。ユウスケこそ、大丈夫なの?」

「ああ、大体の傷は治してもらったから。ところで、約束は忘れてないよな?」


「あら、何の事かしら?」

「尻尾と耳を触らせるって言ったろ?」

「言質取られてないから無効よ」

 ほっほっほっ、と手を口元に当てて高笑い。


「あのまま平原に放置するべきだったかな」

「今からでも遅くはありませんよ」

「ちょ、ちょっと! ルナまで酷いじゃない!」

 互いに笑い合って日の沈みかけた空を行くのだった。

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