青の洞窟 4
~薬品錬成作業~
区切りの関係で短め
「じゃあ俺は明日からしばらく姉貴のとこに行ってくるわ。薬品のほうよろしく頼む。」
ジョルジュは杖本体を合わせるために姪本人に会いに行くという。
ブルグの街に駐屯する騎士団長夫人でもあるエレノア様は貴族や上流階級、商人が住む旧市街に住んでいる。錬金術師や職人が多く住む新市街とは川を挟んだ対岸だ。
「やれやれ。今日はもう無理だから明日風呂屋に行ってからだな。久々の貴族街は面倒だ。」
そんなことを言いながらジョルジュはちょっと疲れた足取りで帰って行った。
「今日は予想外のも出てきて疲れたね。私は寝るけどシャンタルはどうする?」
「我は今日は庭で休もうと思う。やはり大気と月の光はいいの。」
シャンタルは魔力を使って疲れたとかでお気に入りの庭に休みに行った。
久々の探索に疲れていたので私もルクーに注意されながらなんとか入浴と身支度を済ませてベッドに入った途端に意識が飛んで行った。
翌日、休みにしていた工房を開けて昼まで営業する。
お客が引けてきた昼下がりからはルクーに店番を任せてスライムの麻痺毒抽出から作業を始める。
この作業を丁寧にやっておかないと他の行程で麻痺毒が空気中に拡散したり、他の部位に混ざてっていたりして大変なことになるので手を抜けない大事な過程だ。
成分抽出用の調合鍋を魔法陣の上に置き中心に錬成空間を作り出す。
普通に調合鍋でもできるのだがあえて錬成空間で遮断することで麻痺毒が空気中に拡散するのを防ぐのだ。魔力は余計に食うが安全第一。
そこにスライムを放り込むと麻痺毒成分のみを抽出する。網に載せたスライムから滴り鍋底に溜まった麻痺毒を底に取り付けた蛇口から瓶に取り出した。
液体化されて抽出した麻痺毒を瓶に取り出して、箱に、さらに鍵付き特殊戸棚へしまうと第一段階は終了だ。
それから使用した鍋を洗浄魔術をかけて洗い、さらに調合鍋を取り替える。
次にこうやって毒素を抜いたスライムの皮に切れ目を入れると体液だけを鍋に取る。
「セーヴェとロウェンを使うのが分かっているから相性で考えると・・・・。」
錬金術紋から参考になるレシピを探し出すと素材を倉庫から出す。
ジョルジュに頼まれたのは杖に仕込んでおく魔法陣を記入するための紙の強化剤だ。
この紙を錬成して杖に融合するので耐久性がないと記入した魔法陣が効果が無くなってしまう。スライムの成分はそれらを固定しつなぎ合わせる役割を担うのだ。
錬成炉に魔力を注ぐための魔石をいくつか用意すると杖で丹念に入れた素材を混ぜ合わせていく。スライム溶液に溶けだしてきたそれらを偏らないようにじっくりと鍋を見ながら混ぜ合わせるのだ。
手の感覚がなくなるくらいの時間が経過した頃、すっかり素材本来の形は消え去り濃い藍色の液体が瞬間金色に光を放つと完成だ。
「できたぁ。」
一瞬の光を放った後はまた元の濃い藍色ただ濁りが消えた薬品を見て私は満足と疲労のため息を一つついた。
ジョルジュに頼まれた薬を完成させると次は私の趣味の時間だ。
工房内の水槽からウォーターリーパーの卵を取り出した。蒸留水を特殊加工したこの溶液に入れている間は卵は成長することはない。
ウォーターリーパーの卵の生育要件はよくわかっていないけれど注意しておかないといきなり孵化してあの声で泣かれたら街中なら死人が出るかもしれない。
「魔力分析機、魔力分析機っと。」
魔力分析機は祖父が作った貴重な魔術具だ。
これに素材を乗せると魔力量、適性、魔力の純度を計測することが出来る。とても便利な魔道具だけれど素材が貴重でこれを作るために集めるのがまず大変という代物だ。
さらに作動させる魔法陣が細かくて複雑怪奇だった。けれど私が改善修理し若干の簡素化に成功した。
祖父の許可を得て改良版で特許を取ったので私には使用料収入がある。
ただ材料に結構制限があるからそうそう作れる人がいないんだけど使用された時はびっくりする相手名が書かれた書類と振込が来る。
卵を切って皿に載せたら光の柱が立ち上がる。
高さが魔力量、色合いが属性で魔力の強弱が色味の強さ、透明度が高い方が純度がいい、ということになる。
成体の欠片(入手方法は聞かないでほしい)を乗せた時の倍ほどの魔力量と純度が計測された。
「やっぱり水、土が強いのね。」
立ち上がった柱の色を見て呟く。
ウォーターリーパーの成体は魔石を取るくらいしか利用がないけど意外にも卵が成体より魔力が多い。
同じ卵でも比較してみると産みたてと孵化目前は純度が低かった。
「親の影響とか成長過程で魔力を使うのかな?魔力の多い水場で産卵して魔力貯めてるのかな?で、成長すると餌が雑多で余剰魔力がなくなる?ま、それはどうでもいっか。」
(今度魔物生物学の本でも読めばいいかな。たぶん読まないけど。)
大好きな錬成作業をウキウキでやってるエマさん。
次回で青の洞窟は終了です