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新・暁星堂騒動記 相続したのは魔法物件でした  作者: 星乃まひる
とある錬金術工房の営業日記
8/41

青の洞窟 3

無事に終わると思ってたのに。


「これで必要な数は揃ったな。生体で持ち帰る方は大丈夫か?」

時を止める魔法陣を施された特殊収納袋に生きたスライムを10体ほど収納するとジョルジュが確認した。

スライムの特殊袋はさらに魔法鞄に入れるので重量はさほど気にしなくていいのが嬉しい。

魔法鞄がない初心者狩人たちになるとせっかく収穫しても重さに運搬を断念したりすることもあるのだ。


「歩きながら探ってみたけれど最初にでてきたところがやっぱり場的にも安定してるからそこまで戻ってから帰還の転移陣起動させよう。大丈夫か?」

「私は後ろでスライム処理してただけだから大丈夫だよ。」

そんなことを言いながらすとフランの光に反射した水の方を見た。

取りこぼしたスライムの魔石があるので拾おうと身をかがめると水底のユイット貝(牡蠣)が目に止まる。


ユイット貝はすごくお得な貝だ。

もちろん実を食べても美味だし、栄養も豊富、素材にもなってエキスを入れると上級回復薬になる。

煮詰めるには量が必要だけど錬成すればわずかな量でも十分な素材になる。

普通は岩礁にいてなかなか採取できないのに珍しい。


「ね!ジョルジュ、ユイット貝がある。取っていいかな?」

「ん?ユイット?そりゃいいな!スライムは採取したが気をつけろよ。」

荷物を渡せ、というように手を出してくるのでありがたくお願いすると水へ入った。


「エマ、防水しているからと深みに入らないように気をつけよ。」

シャンタルの注意に、はぁいと返事をしながら大ぶりのユイット貝を集めたのだった。



思いがけないユイットの大収穫にホクホクしている私と帰り支度を始めるジョルジュの様子を見ていたシャンタルがふと動きを止めた。

「エマ、耳を塞げ!来る!」

「え?」

驚きながらも耳を塞ぐと同時にシャンタルから発した緑の光が私を包み込む。精霊の加護だ。

視界の片隅でジョルジュも白い光に包まれたのが見えた。


と、同時に耳を塞ぎ加護に包まれてもなお大音量の甲高い神経に触る音が響き渡る。

「な?」

「ウォーターリーパーだ!来る!!」

カエルの頭によく似た子犬ほどの大きさの魔物が数体こちらをじっと見て、そのうちの1匹が翼をはためかせて飛びかかってきた。


「あ?」

瞬間、目の前にジョルジュが立ちはだかり剣を横なぎに薙ぎ払い、飛び掛かってきたヤツはそのまま真っ二つになる。


「キエーッ!!」

断末魔よりも凄まじい仲間をやられた怒りの叫び声が耳をつんざく。

「ウォーターリーパーって地上の沼地とかにいるんじゃなかった?」

「外は寒いし越冬しておったのではないか?」

シャンタルとは念話でどうにか会話ができるけれどジョルジュが何を言っているかはさっぱりわからない。

いつの間にか数えきれないくらいにウォーターリーパーが水面にプカプカと浮かびながら赤い目でこちらをじっと見つめている。


そのまま私を背後にかばう様に立つジョルジュに隠れて水際から離れた壁沿いまで後ずさる。


「ウォーターリーパーって素材的には価値ないし、めんどくさいな!」

私がそう呟くと

「そんな贅沢はこいつら倒してから言ってくれ!シャンタル、エマを頼む。」

そう言いながらジョルジュは剣で飛びかかるウォーターリーパーをザクザクと切り払う。


「いっくよぉ!僕のジョルジュに手を出すな!」

声の方に目をやればフランがバックリと口を開けたウォーターリーパーに飛びかかっていく。

「あ、危ない!」

私の注意も空しくフランを魔物がゴクリと飲み込んだ。

と、同時に口から煙が上がり飲み込んだ魔物が燃え上がりフランが飛び出してくる。


「中から燃えちゃえ!きゃははっ」

そう言いながら次々にウォーターリーパー目掛け飛びかかり、次々と火祭りにあげていく。

(えげつなっ!!)

思わずウォーターリーパーが気の毒になってしまっていると


「我がエマに近づくな!汚らわしい下等な魔物が!」

いつの間にか変化したシャンタルが腕?を振るたびに千切れたウォーターリーパーの破片が飛び散り、シャンタルが高笑いする。

「あははは。下等な魔物が我らの身に触れるなどおこがましい。千切れて水草の肥やしにでもなるがよい。」

(こっちも負けずにえぐっ!!いや、ありがたいけどスプラッタぁ!)

精霊たちは人間とは価値基準が違うし、魔物を嫌うので対魔物戦では実に容赦ない。



そんな一人と二精霊に囲まれてポツンと手持ち無沙汰になった私は千切れ飛んでくるウォーターリーパーの肉片を避けながら周りを見回す。

精霊はまだまだ元気そうだけどさすがにジョルジュに少し疲労が伺える。

水面を見るとウォーターリーパーの白い影はまだまだたくさんいてちょっと背筋が冷える。


「あ、そうだ!」

思い出して自分の魔法鞄に手を突っ込んでガサガサと探ると投擲ナイフが指先に触れた。


時限発動する魔法陣を仕込んでスライム対策にと持って来たのだけどジョルジュと精霊たちの活躍で使わずじまいだった。


「ジョルジュ!水から離れて!フラン、ジョルジュに精霊の加護を!シャンタル、私がナイフ投げたらウォーターリーパーが水から出ないように結界!!」

シャンタルが私との念話をフランに飛ばし、それからジョルジュへという手間がかかったためウォーターリーパーを斬り伏せていたジョルジュが水から遠ざかるには一呼吸ほどの間があった。

その間に私は狙いを定めると水際ギリギリにナイフを突き立て、シャンタルが飛ばした蔓がそれに絡みつくとウォーターリーパーが飛び出ないようにあっという間に蓋のように覆いかぶさり数秒・・・


すさまじい音と振動がさく裂すると水が全て弾け飛ぶ。

続いてウォーターリーパーが、文字通りバラバラになってバラバラと降り注いだ。


「お前のやりかたが一番えげつないじゃないか。」


まだ荒い呼吸をしながらジョルジュがポツンとそう言った。




「あれ、なんだ?」

ウォーターリーパーの噛み傷に直接ポーションをふりかけながらジョルジュの問いに答える。

「スライム対策に作ってみたんだ。魔法陣の縮小と発動タイミングの調整にコツがあるの。いやぁ残しててよかった。」



直接スライムの相手がしたくないな、と考えていたら学院時代にみかけた魔法陣を思い出しちょっと改良してみたのだ。

「効果は想像よりもちょっと大きかったんだけどね。」

「いやちょっとどころじゃなかったろうが!あれスライムに使ったたら素材取る前に木っ端みじんだ。だいたい触りたくないってあれだけ捌いてたじゃないか。」

顔をしかめながらジョルジュがそう言った。

「戦闘には不向きな生まれなのよ。女子だもの。」


私が答えるとジョルジュががっくりと肩を落としたけど、ほんとだもん。


ふと見ると水面に波紋が出来たので警戒しつつ見てみたら、ウォーターリーパーの残骸に小さ目のスライムが集まっている。どうやら遺骸を食べているようだ。


「食物連鎖ってやつか。遺骸がなくなれば水も綺麗に保てる。ん?」

ウォーターリーパーの遺骸を食べたらしいスライムが心持ち煌めきだしてジョルジュと顔を見合わせる。

「魔力かな?」

「だろうな。」

ふとスライムが食べたらしいウォーターリーパーの腹の裂け目にトロンとしたゼリー状に包まれた子供の拳くらいの卵が見える。

シャンタルに頼むとちょっと嫌そうな顔は浮かべたけれど尻尾を変形させて掬いあげてくれた。


「ウォーターリーパーの卵なんて初めて見たよ。」

見た目はサイズ以外はその辺にいるカエルの卵と大差ない。

「ウォーターリーパーって素材的には役に立たないけど卵はどうかな?」

「卵ってのはこれから育つ魔力に満ちているからな。鶏だって卵が一番栄養バランス整ってるとか言うし。」

ジョルジュはそう言うけれどあまりやる気がありそうには見えない。

「持って帰ってみよう。うっかり孵化しないように時を止めて。」

「頼むから街中にあの音響かせないでくれよ。あ、でも分析結果は教えてな。」


そう言っている間に帰還の魔法陣に魔力が蓄積されたので私たちは無事にブルグへと帰還することが出来たのだった。


ユイット貝:牡蠣のような貝で冬の味覚。高級素材。栄養価が高いので薬としても用いられる。


ウォーターリーパー:多く湖沼地帯に生息するカエルのような顔をした魔物。

手足はなく翼がある。とにかく大食いで耳障りな大音響で鳴く。

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