招かれざる訪問者
「だからあなたのご援助はいらないって私は何度も言いましたよ。」
「だがお前はまだ若い。しっかりした後見人が必要だ。」
「成人済の私は法的に後見人はいりません。兄も一緒にいますしね。」
「冒険者なんて明日もわからないじゃないか。その点私なら安心だ。」
(お前が、一番、信用ならんわ。)
エマです。ただいま真昼の害虫駆除に格闘中です。・・・嘘です。カッパ退治です。
兄が狩人ギルドからの依頼で出かけて一時ほどたった頃、自称親戚のカッパがまた暁星堂を訪れた。
測ったように現れたのでどうやらまだ近辺に潜んでいるらしい。
だいたいの親戚は私が暁星堂を継承することを決めたら祝福と激励をしてくれたのだけど、このカッパだけはいつまでもしつこく関わろうとしてくる。
先日判明した転移陣の存在がこのカッパにばれたら、違法魔法陣設置とか言われて突き出されるか、ヤバげな組織にでも売られるか、とにかく身の破滅の予感しかしない。
そんなことを考えながら足元でシャンタルがガチガチと歯がみをしているのをそっと手で制する。
(シャンタル、物理的に消しちゃダメだから!)
シャンタルの幻術で何度か追い払ってもらったけれど『敵』は思った以上にしつこい。
「小娘はおとなしく大人の言うことを聞いていればいいんだ。さぁ商業ギルドへの委任状を書け。悪いようにはしないから。」
うん。穏便に引き取ってもらうつもりだったけどもうそろそろ限界だ。
私は一息呼吸をすると真正面からカッパと向き合った。
「じゃあ言わせてもらいますけど、一般錬金術師のあなたと違って私は魔法魔術学院卒業の国家認定錬金術師です。腕前だけで比較したら月とスッポン、赤ん坊と大人。余計なお世話だ。黙っとけ。」
にこやかに笑いつつ吐いた言葉にカッパが目を見張る。
「それに一般人に後見依頼とか出したら赤っ恥だし、店の信用がガタ落ちします。
だいたい共同経営ってあなた工房一つももってないじゃないですか。
調べましたけどお店何軒も潰してるあんたに私に何の援助ができますか?毎月の仕入れで・・・首が飛びますよ。援助したいじゃなくて私からむしり取るしか考えてないんでしょ。
あと!!22歳の私の婿になってもいいとかどんだけですか。こちらにも選ぶ権利はあるし。好みでもないし。それとも鏡観たことない?錬成してあげましょうか?ここいらの鏡よりよほど高性能なヤツ。」
今までオブラートに包んでたけどハッキリと言わないと通じないからまるっと言わせてもらった。
あぁ、スッキリした。
最初は呆然としていたカッパがみるみる頭のてっぺんまで赤くなる。
(おぉ、やかん頭とはこのこと。お湯湧くかな?)
(馬鹿なことを考えてる場合ではなかろ。湯など湧くものか。とことん役に立たん奴よな。やはり消そう。そうしよう。)
シャンタルとの念話でそんなことを呑気に考えながら防御用の札を指先で探った。
「貴様!!!!下手に出ておれば調子に乗りおって!!小僧もいない今小娘ごとき俺が!!」
図星を刺されまくって痛くご立腹したカッパが思い切り振りかぶって私の腕をつかみに来る。
「お待ちなさい。まだ正式開業前とは言え他人の店で暴れるような振る舞いは感心しませんよ。トンマーゾ。」
凛とした声とともにカッパの振り上げた腕がビッチリと氷漬けになって固まる。
「会長、いきなりの実力行使はいかがなものかと。」
「まぁジョルジュ、私は加盟組合員を不当な暴力から救うべく緊急避難的に行使しただけよ。その言い方は心外だわ。」
「そうだよ。この馬鹿弟子が。何かあってからじゃ遅いんだよ。しっかりおし。」
「師匠まで俺をなんだと・・・。」
氷漬けになったのとは反対の腕をつかみ上げたジョルジュが二人の老婦人を背後に立っていた。
「うぎぎぎ・・・離せ。離し・・・痛痛痛!!!離してくれぇぇ。」
「はい、って離したらエマ殴る気だろ?やめとけ。俺がこの手離すとあんた死ぬ。」
ジョルジュはそう言うとさらに高々とカッパを吊り上げる。上背があるジョルジュに吊り上げられてカッパの動きは完全に封じられ足がバタバタと宙をかく。
「ギルドに来た時に暁星堂は正式に後継申請があり何の問題もなく継承される、と説明したでしょう。なのにまだいたのですか?」
つるされたカッパの前にすっと立った銀髪の老婦人はブルグ錬金術師組合の組合長でウェスタ薬房の工房主でもあるヨランダさんだ。カッパの腕を氷漬けにしたのは彼女の精霊氷狼らしい。
「あ・・・ヨランダさん。すいません。お見苦しいところをお見せして。」
私がどうにも間抜けな挨拶をすると
「えぇ。エマ。本当に見苦しいところに来合せてしまったわ。でもギルドと組合が説明したのに理解できないこの男が原因だからエマが気に病むことはありませんよ。」
「組合長!私は・・・。」
「黙りな。このカッパハゲが!!」
ビタンと勢いよくカッパをびんたしたのはジョルジュの師匠でもある魔術具工房の主ドーラさんだ。
がっちりとした体のドーラさんは魔術具作成する錬金術師で、別名ブルグ錬金術師界のおっかさん、である。
「さんざん手間取らせて説明されてまだこのあたりをうろうろしてるなんざどういう料簡してるんだい?言ったよね。諦めろって。」
(組合理事が止めていたというのに粘っていたのか、このカッパ・・・)
「ま、お前には色々話を聞きたいことがあるんだよ。方々からここを担保に金を借りようとしてるとかな。どこも貸してくれないだろ?」
ジョルジュがそう聞くとカッパの顔色が明らかに変わった。
「貴様。どうしてそれを?」
なるほど必死だったはずである。
「そんなんなぁ・・・調べればわかる。ってかその伝手を持ってるのよ。俺。」
ジョルジュがそう言ってカッパを下ろすとフランが入っているだろうゴーレムが現れて器用にカッパを縛り上げた。
『我の力をこのゴミに見せつける機会がついに来るかと思っておったに揃いもそろってジャマしおって。』
『ダメだよぉ。シャンタル。そんなのに力使ったらもったいないでしょ。』
子犬から精霊体に変化したシャンタルが不服そうにそう言い、フランに慰められている。
「これは余計なお世話をいたしまして失礼しました。精霊様。でもこの程度のに御力を使っていただくのは申し訳ありませんわ。」
組合長がすっと半身を落とす最上級の礼をシャンタルにする。
『ま、我はやりすぎる、とエマもいつも言うておるからの。こたびは譲る。じゃがそこなゴミよ。次にここに姿を現せば我が本体となりて草の肥やしとしてくれようぞ。』
「ひぃぃぃ。これは!!まさか!?精霊だったのか?子犬だとばかり!!騙し・・ひぃっ」
見るも恐ろしい緑の蜥蜴のような姿に変化したシャンタルがチロチロと赤い舌でカッパを舐め回さんばかりにしている。
近づくのさえ嫌がっていたカッパを、心ゆくまで脅すためとはいえ、可愛いものが大好きなシャンタルにしてはきっと苦行に違いない。
(後でたっぷり好物のクッキーをルクーに用意してもらおう。シャンタルめっちゃ頑張ってる)
「ほら、邪魔邪魔。はい笑って、て無理か。」
ぐいっと入ってきたドーラさんがいきなり念写の魔術具でカッパの顔を写し取る。
「まだまだ改良の余地はあるけど、きっちりと小ズルそうなところも残せてるじゃないか。
これを冒険者ギルドから闇金貸しに回して改めて貸さないように手を回すかね。ジョルジュ、オフクロさんにも回せるかい?」
「ここでそれ言えませんよ。」
ジョルジュがちょっと悪い顔で答える。
「そうかい、そうかい。じゃ回しとくわな。」
ドーラさんはそう言うと魔術紙を取り出してサラサラと書き記した。
「まぁそれならドーラだけでなく私からも一筆添えておきましょうね。」
ヨランダさんがさらにそれに何かを書き加えた。
「あれは元々ブルグの住民じゃないから門からたたき出して出禁にするようにお願いしておいたわ。少なくとも来年までは姿を見せないわよ。」
さらっとエラいことを言う組合長はさすがに実力者である。言われたことには逆らうまい、と私は堅く心に決めるのだった。
ちょいちょい存在だけ(カッパだけど)出てきたトンマーゾ、名前もつけたけど即退場です。
この場は丸く収まった、のか?




