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開店準備はややこしい

転移陣については一応の結論から2日ほど。

生きるためには食わねばならぬ、そして食うためには働け。と、言うことで私は今暁星堂再開店のための手続きに追われまくっている。


早く私が暁星堂を『単独で』継承することを内外にはっきりしないと先日もカッパがやって来て

「エマはまだまだ修行したいだろう?どうだろう、女神の乳薬舗へ勤めに出て私にこの店を任せないか?」

と口元を緩ませながら言ってきた。

シャンタルがつるで逆さ釣りにしたけど、この人も懲りないな。


再開店のためのお店の準備は順調だ。

工房は優秀なハウスメイド兼助手と化したルクーがだいたいの希望を聞いて工房と倉庫を行ったり来たりしては父や祖母の魔術具を引っ張り出したり洗い直したりしている。

再起動したルクーについては錬金術師組合に問い合わせておいたゴーレム起動免許は仮免許ということで許可が出た。

起動に立ち会ったのはジョルジュだし、店の引き継ぎに支障がないように特例だ。私が国家認定錬金術師であるのも大きいらしい。

暁星堂結界内から出ないことが条件だが、店内作業は祖父の時代と同様でいいらしい。ひと安心だ。


品出しや掃除を手伝おうと思ったけれどルクーに邪魔だとつまみ出された。



ポーションや薬剤の素材を栽培する温室はシャンタルに仕切られ・・・いや乗っ取られた。

「今エマが立ち入ると人気で乱れるから安定するまで入るな。我に任せておけば植物たちは素直に育つ。」

と言われた。へこむ。


「我々にはギルドでの登録なんてできないのだから仕方なかろ。人の理は人が成さねばならぬ。トットと営業権なるを獲得してこい。」

なんてシャンタルは言うがイマイチ納得できない。

そんなことを考えながら私は商業ギルド近くに事務所を構える公証人組合事務所へ向かうもだった。


私は兄の伝手で紹介された公証人のおじさんの所で書類の整理だ。

公証人についてはジョルジュが紹介してくれた。


「なんかうっとおしいオッサンが来てるって言うから。しっかりしたのをお袋に紹介してもらっといた。」

国の上級貴族の第三夫人でもあり、アウストラシア全体規模の商業ギルドで理事の紹介だ。間違いないだろう。


ちなみに兄のエリックは狩人ギルドからの依頼でブルグの森に開いた洞窟が迷宮化してないかの探索に駆り出されている。

これはこれで白金の羅針盤のエリックが今後は私の後見人としてブルグに定住する実績作りの一環でもある。


暁星堂の再開店にジョルジュ(というかブルグ貴族界)と大クラン白金の羅針盤が背後についた、という情報のおかげでカッパのオッサンももう暁星堂に手出ししてこないだろう、と周りの人が言っている。




「ブルグ住民登録証に錬金術師学院卒業証明書、正規の錬金術師免許。これでいいですか?」

私が渡した書類が偽造でないかを確かめる正贋の魔眼レンズで書類を眺めるおじさんに尋ねる。


「はい。あなたは学院卒業の国家錬金術師ですからね。こちらも確認書類が少なくて助かります。」

おじいちゃん公証人は確認を終えると書類箱にそれらを入れて魔力鍵をかける。


「エマさん。これが市井の錬金術師だと錬金術師試験合格通知書、親方の推薦書、危険物取扱者登録証、魔法危険物取扱許可証、魔力鑑定書、ブルグ住民登録証が必要ですよ。

国家認定錬金術師はこれがこの1枚で済んじゃいます。で、新規に工房を開くには住所証明書、営業許可証、借家なら大家さんの承諾書がいります。

さらにほかの街の出身者なら出生証明、身元保証人が必要となりますからね。それに登録金もですね。」

「本当にたくさんいるんですね。」

私が頭を抱えると公証人さんは笑った。


「特に危険物取扱者許可証、魔法危険物取扱者許可証がやっかいでね。これの取得に手間がかかるから若手の新規開業が少ないんですよ。」

「錬金術師と魔法使いは危険物も扱うから仕方ないといえば仕方ないですもんね。」

街中で毒薬垂れ流したり、妙な魔獣召喚したら困る。厳重な資格確認になるのはしかたないだろう。



「聞いていたように単独名義ですね。お兄さんは共同経営にしないんですか?」

単独名義の営業は店主や工房主が亡くなった時などに継承の手続きで手間がかかることので共同名義にしていることはよくある。

「はい。兄貴、兄は狩人で錬金術師ではないので。もしするとしたら?」

「お兄さんは錬金術師ではないのでまた住民登録証に狩人ギルドのカードと登録証、保証金も必要ですね。納税もややこしいかな?名義だけになると。」

「・・・私の単独でお願いします。おいおい継承については考えます。」

「エマさんはまだお若いですしね。はい。わかりました。では提出はこれで次は私との書類ですね。」


確認するとおじさんは魔紙に特殊インクを準備する。ちなみにこれも錬金術師の仕事だ。

特別な契約の召喚状や信書なんかは封蝋をすれば特殊な解呪具か本人確認ができなければ開くことができない。

通常は暁星堂から購入する備品らしいが今回は私が契約当事者だからブルグ以外から取り寄せたという。


フミンという魔羊の皮から削り出され錬成された契約書は祖父や私が取り扱う紙よりも少し厚めでちょっと取り扱いにくそうだ。

(これなら私の錬成手腕のが上・・・かね。ふふふん。ブルグではまだライバル工房が出てないらしい、安心安心)

考えが顔に出ていたらしく公証人のおじさんはちょっと笑う。

「最近、紙工房の娘さんが魔力紙を始めたそうでね。まだまだですが先が楽しみですよ。」


(油断してると業者変更になりるってね。いかんいかん営業始める前から気を抜いたらいかん。)


まだまだこの取引手放したくない、頑張らないと!!


公証人事務所で確認してもらった書式一式を商業ギルド生産部に提出する。

商業ギルドと公証人さんの事務所は同じ中央広場を取り巻く街区に立っているのですぐに提出できるのが便利だ。

これを錬金術師組合が確認したらそこからブルグ政庁に書類が回り、許可がおりたら正式に私の暁星堂が再開店することになる。


祖父が登録準備の問い合わせはしていたけど、実際の書類を提出して共同名義にするまでにはなってなかったので時間がかかった。

それを知っていたからカッパ(もうカッパ呼びでいいと思う。)が言い寄ってきたんだろうけど。


「審査後10日したら連絡しますからまたお店に掲示する営業許可証を取りに来てくださいね。」

魔力鍵を魔術具で読み取って書類内容を確認した職員さんが書類を受け取りさらさらと受け取り控えを書いてくれた。

「10日って結構かかりますね。」

「まぁ他の職種ならもう少し速いけどね。錬金術師や魔力を使われるので仕方ないんだよ。ヴィンスがもう少し早くやっときゃよかったんだけどね。」

同じように受付カウンタの中で別件を担当していた年配の婦人がひょいと話に入ってきた。」

「あ。マリアさん。お久しぶりです。」

子供の頃お使いに来るたびにギルドで事務員をしていたマリアさんのことは私も覚えていた。

「いや、こんな小さかったエマが店主になるなんて私も年を取るもんだよ。これはうちの孫、ここで働いてるからよろしく頼むよ。」

「こちらこそ、これからお世話になります。よろしくお願いします。」

私の書類を受け取ってくれた紅茶色の髪をした青年がカウンターの中でペコリと頭を下げた。


「なんにせよ。老舗が続いていくのは私たちみたいな年寄りにしたら嬉しいことさ。しっかりやるんだよ。」

マリアさんの言葉に私は頷くと商業ギルドを後にした。

書類の確認も提出もスムーズに進んだのでまだ日は高い。


出かける前にルクーが今日は床を大規模掃除するから夕方まで帰らないでほしいと言われている。

(いろんなお店を冷やかすには軍資金が足りないし。ジョルジュのところに邪魔するのはなんだなぁ。)


ふと通りに目をやると並んで歩く母娘連れの姿が目に入った。


そうだ。叔母さんに会いに行こう!


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