ルクーの再起動 (後)
「で?こいつの起動用の魔石はどうなってる?あるのか?準備しないといけないのか?」
「あ、ここにある。魔力を補充はおじいちゃんがしてるみたい。はめ込むだけでいいみたいになってるけれど。」
私は箱に大きく『ルクーの魔石』と書かれたものを取り出した。
「ヴィンスの爺さん・・・・。しっかりしてるんだかしてないんだか、わかんねえ。」
後から探すものには親切だけどこの魔石は平民街なら簡単に家が建つサイズだ。経済観念がおかしい、ジョルジュが呟いた。
服を脱がせてルクーの背中に嵌めていた外殻を外す。体を全体的にチェックしていくと左腕に魔法陣の欠けが見つかった。
「ここはどうする?少し欠けがあるけれど。」
ジョルジュが目ざとく見つけた魔法陣の欠けを指さす。
魔法陣は簡単に真似されたりしないようにダミーの模様に囲まれているから正確に見つけ出す眼力はさすがだ。
「これなら線を繋ぐだけで大丈夫と思って。どう?」
「うん。じゃあそうしよう。」
杖から魔力を流して線を繋ぐと補修は完了だ。
「ここは補修して私が新しく書き直した魔法陣を起動するようにすればいいと思う。」
私が普通紙にいくつか原案を書き込むとジョルジュは何度か見比べて頷いた。
「ここまで出来てれば補修に関しては俺が手伝うことは特になさそうだな。さすがガンティーシャまで修業に行っただけはある。」
強化用の素材と起動用の素材を用意して書き込みや錬成準備を終えたところで魔力がキツくなったので休憩をした。
酒盛りの準備を始めようとした兄を叱ってからみんなで残っていた月兎の肉を煮込んだスープで食事をした。
ジョルジュが持ってきてくれたのは街で評判の焼き菓子だった。ほろほろとしてとても美味だ。
魔力回復ポーションを飲んで回復した魔力を体に馴染ませれば作業再開だ。
ゴーレム起動用魔法陣を書いた魔術紙は昨夜までに書き上げた。うっかり起動しないように線は何本か抜いてある。
ジョルジュに渡すと確認して了解をくれた。
「次の試験は受かるんじゃないか?停止手段は?」
「それはもう決まってる。」
停止手段はつるのムチだ。魔法陣を刻んだ指輪を用意してある。これからはいつも嵌めていざ、という時に使うことになる。
「へぇ。契約精霊の力を使うんだ、なるほどな。」
起動には自前の魔力かシャンタルの魔力を使って蔓を打ち出しゴーレム錬成陣を消す。
錬成陣の細部は作成者秘匿だが契約精霊が火のジョルジュには使えないから問題はない。
「さて。じゃあやりますか。」
テーブルを片付け、ローブを纏うと作業再開だ。
「流れこめ。命のマナよ。機械の体に流れわたりてその歯車をくるくると動かせ。滑らかに滑らかに。」
はめ込んだ魔力結晶を周りの機械となじませるように短杖ではなく指先でじっくりと魔力を流し込む。
たっぷりと時間をかけて作業を終えると素材に魔力が満ちていく。満たされたそれをルクーの外殻をはめこみ組み立てていく。
象牙色の肌色が温かみを増し、カサついていた髪も艶を増す。
ゆっくりとルクーの体が大きさを変えて6歳ほどの子供の大きさくらいになる。
これは理屈はよくわからないけれど、よくある反応だからさほど驚きはしない。
閉ざされていた瞼が開くと状態確認の時はガラス玉のようだった瞳に深みが出て魔力が通った証の赤い光を放つ。やがてルクーは自分でゆっくり上体を起こし首を動かしてあたりを見てそれから手をあげてじっと見つめた。
「ルクー?」
どきどきと高鳴る胸を押さえながら恐る恐る声をかける。
「エマ。無事にルクーの再起動に成功したようだな。」
可愛らしいルクーの唇からこぼれ出たのは、なぜかちょっとかすれた祖父の声だった。
「・・・・・?なんでルクーから爺さんの声がするんだ?」
兄の呆然とした声が響くけど、私にわかるわけがない。
もう一度ジョルジュを見ると今度は明らかに表情が変わっている。どうやら想定外らしい。
「わしじゃ。これを無事に聞けてまずは良かった。お前がこれを聞いたということは無事にルクーを再起動、ということだからな。」
ルクー(爺ちゃん?)はそう言うとルクーの起動魔石はただの魔石ではなくて音声記録の魔術具だと告げた。
ちなみに音声記録だから質問はしても無理だ、とも続けた。
「最近はどうにも心臓の調子がおかしくてな。エマが戻るまで体がもてば直接教えておこうと思ったんだがまさかの時に備えておこうと思ってな。」
どうやら元気に見えても祖父自身は体調の悪化を自覚していたらしい。私が間に合わない場合を想定してくれたのだ。
ルクーから祖父の声で語られた伝達事項は次の通りだった。
①3階の部屋を転移陣で希少な素材の原産地とつなげていること。
②転移陣の魔力補給は転移先のマナ(魔素)の多いところを選んで吸収する仕様になっていて
マナが枯渇しない限り転移陣に魔力が供給される半永久機関、環境にも優しいエコ仕様だということ。
(ってことは自然消滅はありえないってこと?まった厄介なモノを!!)
解除についての手順は
① 戻りの転移陣に魔力を充填し自分にも十分な魔力を回復しておく。
②扉を開いて転移する。①で作成した転移陣を使って帰還する。
③ブルグの家の転移陣から該当するものを解除する。
この繰り返しになるそうだ。
「転移陣を繋げたのはなぁ、まぁやってみたかったから、としか言えんの。」
失敗すると思って繋いでみたら案外と順調につなげてしまったのでさらに重複してみたのだそうだ。
それだけ?そんな理由でやれちゃうの?と私が頭を抱えていると
「ま、ワシがそれだけ稀代の錬金術師だったいうことかの。」
「自分で言うな、くそじじい!!」
背後で兄が思わず叫んだ。気持ちはわかる。
「エリックが錬金術師にならなかったし、エマも薬品関係で行くなら素材はこの移動魔法陣に頼らなくても手に入るだろうが。
好きじゃろ?素材採取と研究。錬金術師の逃れられない性じゃからな。
今までの記録は一応書付に残しておいた。もう少しいろいろと話しておきたいこともあるが、この魔石ではこれが限界でな。
後はルクーに管理してもらっている資料を出してもらえ。ルクーに探させるんだぞ。でないと・・・燃える。」
その最後のセキュリティは必要なの?
そこまで言うと魔石の容量が終わったのか、もう一度魔力を注いでみても同じ言葉を繰り返すだけだった。
何回か録音を聞きなおした後に魔石を外すとルクーはまた瞳から光が消えて元の人形状態に戻る。
「ルクーを再起動しないと話は前に進まないってわけですか。」
私の独り言に
「あ・・・ああ。そうだな。今度はゴーレムの再起動を完了してしまおう。」
ジョルジュが答えて作業再開だ。
祖父の残していた箱の中からもう一つ『2個目はこっち』と書かれた紙を付けた別の魔石を取り出すと魔術具を外した場所にはめ込んだ。
2個目ってなんだよ!というツッコミはもはや誰も口にはしない。
録音の魔術を施された魔石と違いこちらは魔力の充填が必要なようだ。
「だけど魔力の補充はなかなかに厄介だぞ。エマは魔力どうなんだ?」
錬金術師は魔力のある素材を扱うが自身は魔力量はさほど多くない者が多い。自前の魔力が多い者は多くは魔法使いとなるのだ。
「あぁ、それは大丈夫。私は錬金術師よりは魔法使い向きだって言われたし、師匠にも習ったしね。」
魔法陣錬成や展開に便利な体質なのでちょっとした自慢なのだ。
魔石を握りこんで魔力を充填する。最後の少しを充填すればいいようにされていたのかすぐに魔石に魔力が満ちた。
先ほどと同じように詠唱をしながら魔石の魔力を馴染ませていくとルクーの閉ざされた瞼がもう一度開いた。
さっき紫だった瞳は今度は若草色のに色を変えている。
「エマが満たした魔力の色だ。おかしなところはないな。」
ジョルジュが安心させるようにそう教えてくれた。
自力で起き上がったルクーは今度もゆっくりと自分の体を見回した。カチカチと関節がこすれ合う音が響くがそれもやがて収まる。
「順調?」
「順調。」
ジョルジュの言葉に安心しかけた。それと同時に作業のため脱がせていた衣装を着せようとルクーに手を伸ばす。
「エマ。動かしてくれてありがとう。そしておかえりなさい。エマ。」
先ほどのあきらかなじじいの声とは違う、かわいらしい声に私は思わず出しかけた手をひっこめた。
振り返れば兄も目を剥いて固まっている。祖父と一緒にいた頃のルクーは決まった言葉しか話さなかった、いや話せなかった。
今ルクーは明らかに自分の意思で言葉を選んでいる。
何だ?何やらかした?
「私はずっとヴィンスを見てきたよ。ヴィンスとリサを見てきた。これからはエマが私の主ね。よろしく。」
(爺ちゃんと婆ちゃんの名前来た!!何?何が起きたの?爺ちゃん!!孫をからかってる??)
ジョルジュやエリックと顔を見合わせているとフランとシャンタルが
『長く年経たモノは魂を持つという。外殻から察するに頃合だったようだよ。じゃぞ。』
見後にハモる。
確かに私も学院時代に習ったことがある。特に東の方にその例が多いと聞く。私が魔改造したわけじゃないと安堵した。ちょっとだけ。
「・・・にしてもゴーレムが自分の意志とか、俺聞いたことないぞ。」
ジョルジュが今度は喉の奥から絞り出すようにそう言った。
新生活はまだまだ落ち着きとは程遠いものになりそうだ。
ゴーレムのルクーは無事に再起動しました。
が、自分の意志を持ちました。
西洋的世界に付喪神が現れた~。




