ルクーの再起動 前
エリックはジョルジュの言う通りに翌朝早朝に戻ってきた。
「飛ぶ途中に月が見えたからコイツが来るかな?と思ったんだ。投擲用の装備も用意しといて正解だったぜ。」
先日と同じように少しくたびれた様子で戻ってきたエリックは私にポンと皮袋を投げてよこした。
開いてみるとロドスの月の迷宮に多く生息している月兎がゴロっと出てくる。
どこに行くとの情報もないのに飛ばされた先から月兎を5頭ほど単独で仕留めてくるのはさすがの腕前だと思う。
月兎も牙は魔力をこめた装身具にもなるし、素材として使うこともできるのでありがたくいただく。
お肉もなかなかに美味なので下ごしらえをするとからりと揚げて夕ご飯に食べてしまった。
エリックが戻ってきたことを連絡するとすぐにジョルジュが返事を送ってきた。
声を封じた魔術具を飛ばす魔術具で、今やっている作業が終わるので明後日の昼前に来るという。
「エリックにもう勝手に扉を開けないように言っといてくれ。部屋によってはマーレンブルガの火山洞窟なんだからな。」
家が燃えるような場所に何を取りに行ったんですか?爺ちゃん!!!絶対にそこは転移陣切ってやるんだからね!!
2日後約束通りジョルジュは暁星堂を再び訪れた。
「お前、昔は懐いてたのに今回はやたらとこいつ避けたがると思ってたらそういうわけだったのかよ。薄情だな。」
久々の再会に(前回はすれ違いだったし)ひとしきり盛り上がった後に、エリックがジョルジュに私の記憶違いを話すと兄はあっさり認めた。
「いやぁ。忘れてるんだから思い出させるのは悪いじゃんか。トラウマ?そんなのになったら困るだろ?」
なぜ!!兄が!私の頭を小突くのか!!てか、コイツ、私と同じできっと忘れてたんだ。そうだ、そうに違いない。
「ま、そんなことはもうどうでもいいからさ。どれだけ長丁場になるかわからないからメシ持ってきたんだ。」
前は手ぶらで現れたジョルジュは黒い金属製全身鎧のような外殻のゴーレムを連れていた。
鎧の上からフード付きローブを着た子供くらいの大きさのゴーレムは手に何やら似つかわしくないバスケットを持っていた。
受け取るときに興味本位で顔を覗いたけれど目のような位置に魔石は埋まっているが口はない。
シャンタルはゴーレムが気になるらしく足元をウロウロしている。そんな様子にジョルジュが肩をすくめる。
「バレたら仕方ないかな。フラン、出て来い。」
ゴーレムの動きが急に滑らかさを失い、と同時にジョルジュの肩に火の鳥が現れた。
「ほほぉ。やはり気配がすると思ったらお前も我が同類か。」
シャンタルがとん、と飛び上がって私の肩に止まりこくりと首を傾げる。
ちなみに精霊のシャンタルは重さも自由自在に変えるので負担はない。
「我が名はフラン。以後見知りおけ。ねぇねぇ、ジョルジュ。僕ちゃんと精霊っぽかった?」
フラン、と呼ばれたジョルジュの契約精霊は胸を逸らすようにしてあいさつした。
「こいつが俺の契約妖精だ。火の鳥、名前はフラン。よろしくな。こいつだけだとゴーレムは命じた通りに動くだけだ。フランが入ると、器用さが増す。
あと、フェニックスは珍しいからな。目くらましにもいい。」
フェニックスの羽は火に強い希少素材だし、国によっては火の鳥の生き血をのむと不老不死になる!とか言われていたりもする。
契約精霊を誘拐することは基本的には無理だけど、契約主よりも魔力のある存在ならばできないわけではない。気を付けておくにこしたことはない。
白い炎に包まれたフランはジョルジュの手からクズ魔石をもらうとパクリと飲み込んだ。
「僕はジョルジュの作るものが好きで手伝いたいの。」
フランがそう答えるとシャンタルも同意してなんだか妖精どうしで盛り上がっている。
「連れ同志はさっそく仲良くなったみたいだな。ゴーレムは土の要素が必要だし、ルクーは素材的に火の要素が強いからちょうどよさそうだな。」
ジョルジュはそう言うと笑った。
挨拶が終わるとさっそく祖父の工房に入って作業開始だ。
祖父の工房はお店から半分地下に入ったところにある。温度湿度の管理がしやすいので工房は地下にあることが多いのだ。
もっとも祖父の工房は魔力的に維持してあるのでなんなら庭でも構わないのだけれど。
「じゃあ兄貴はその椅子に座って。いらんことしないでよ。シャンタル、見張って。」
「フラン、お前もだ。焼くなよ。」
「・・・お前ら・・・。俺だって錬金術師の家に生まれたんだからやっちゃいけないことくらいわかってるし。」
兄貴の不満は黙殺して私とジョルジュはルクーの再起動に取り掛かった。
ジョルジュの錬金術師の工房装備をフラン(の入ったゴーレム)が出してくる。どうやら腰に付けている鞄は空間錬成で収納力を拡張しているらしい。
あきらかに鞄の大きさを越えたものが次々と取り出される。
そんな道具の中からジョルジュは使い込まれた黒いローブをばさりと羽織るとベルトで締め、手袋をはめた。
錬金術師のローブはそれぞれが素材で強化したり、魔法陣を刺繍したりすることで各々の作業に合わせた防御力を上げたりしている。
ちなみに手袋は素材からの魔力干渉を受けず、逆に素材への魔力干渉もしない特殊仕様だ。これを作るのももちろん錬金術師の仕事になる。
「こっちの装備は久々だからなんか着慣れないな。オイル程度ならここまで装備しなくても作れるし。」
作業する時の必要な素材を錬成するくらいであまり錬金作業はしていない、とジョルジュが言う。
魔術具組み立て作業の時は前掛け、手袋、ゴーグルくらいで作業をしているらしい。
「白って珍しいなぁ。汚れが目立つだろ?」
私のローブを見てジョルジュが感心したように言う。
私の装備素材は修行先で揃えた物が多いからこのあたりにはあまりない形だったりしてちょっと変わっているらしい。
特にローブの刺繍文様は防火、防塵、変質防止の効果がある。師匠からの直伝で習得するまでは大変だった。
「私はポーションとかの薬品を使うから汚れはすぐに分かったほうがいいの。逆に黒が珍しいかな。」
「なるほどなぁ。俺のは高温対策されてるから素材の色でこうなっちまう。」
刺繍の文様の意味を聞かれて応えていると
「もしもーし。そういう話はルクーの調整が終わってからにしてくれね。」
外野から声をかけたエリックに私たちは肩をすくめた。
傷ついたり倒れて壊れたりしないように布を巻き付けて工房の机に置いていたルクーを手に取って布をそっと取り去った。
抜けるように白い肌はなめらかで東方の磁器という素材でできている、と以前に祖母に聞いたことがある。
(磁器・・・・。モールの学院で一度見たよ。壺だったけど。触っちゃダメって言われたんだけど。高価すぎるって。)
糸で作られた髪の毛は記憶の中では艶やかな黒髪だったのだけど魔力結晶による動力回路が回っていないせいかカサカサに乾いている。
作業机の上に寝かせると着せられていた衣装を脱がせて横たえる。
最初は背後から覗き込んでいただけのジョルジュだったが、やはり興味があるのか手を伸ばしてきた。
「これは・・・体も磁器製のか。魔術だけでない強化とか・・・すごいな。」
押さえきれなくなったのかルクーの体を持ち上げると首や腕の接続部を丁寧に確かめていく。
「エマ?どうかしたか?」
こらえきれない笑いに頬を引く着かせているのに気が付いたのかジョルジュが不思議そうに尋ねてきた。
「ううん・・・。なんでもない。ちょっと思い出しちゃって。大丈夫。」
「そうか?ならいいんだが。」
不思議そうな表情を浮かべたが、すぐにルクーに目を向けると体をひっくり返してあちこち確かめる。
(漲る変態感とか言ったらたぶんヤバい。)
ゴーレム再起動しました。
ルクーは磁器の人形です。顔は、私としては博多人形的なイメージですが、顔は絵ではなく目とかははめ込みな感じです。




