現れた男 (後)
なんとさらに驚きの事実発覚である。
転移陣は爺ちゃん独自の施工ではなくて共謀者がいただなんて!
(全部は明かさずに要所だけ見てもらおうと思ってた相手がこの騒動の原因の一端とかさ!!)
ジョルジュの話によると祖父は贔屓の素材屋が潰れて入手に余計なお金がかかることで出来心で始めた、らしい。
「俺、ちょうど考えてた魔術具で付与する魔法陣をあれこれ考えててな。相談してたのさ。そしたら俺の経歴とかあるだろ、護衛代わりに誘われたわけさ。」
転移陣を設置するのに転移先の座標を決めるのはやはり訪れたことがある方が速い。
設置した後の魔術的な処理や素材採集の際の護衛や捕獲なんかの肉体労働をジョルジュが担当していたらしい。
(それはじいちゃん、完全に巻き込んで口止めにかかったな。)
なんだかんだ言ってブルグの街だけでなくアウストラ国規模でも名家の血を引くジョルジュがいれば多少のことなら多めに見てもらえる・・・気がする。
ひとつ踏み越えれば次のハードルは簡単に下がるわけで、なし崩しに増えていき現在に至るらしい。
3階の3部屋に各3か所くらいづつ転移陣を設置して、必要に応じて移転先を変えていたらしい。
「だけど転移陣は設置にも発動にも魔力を食うのにそれを複数なんてどうやって?」
数に面食らった私はまずは一番の疑問を口にした。
「それに関しては爺ちゃんが効率的な展開方法を知ってるとか言ってたけど。俺は聞いてない。」
私の疑問をジョルジュはあっさりと流す。いいのか?錬金術師としてそのスタンスで?
「なんだよ、相変わらず警戒してます丸出しだな。」
眉間にしわを寄せて考え込んでいる私をジョルジュが覗き込む。
小さかった時には意識したこともなかったけれど、ものすごく整った顔に至近距離に来られたらとっさにすごく困る。
気安く話しかけてくる彼はどうやら幼い(ここ大事)私に働いた数々の悪行を気持ちよく忘れているらしい
だいたいジョルジュは苦手だ。
エリックの友人である彼は子供の頃から我が家によく来ていた。
貴族の血を引く彼が平民の我が家に足繁く来ていた理由は子供だった私は知らないけど、兄を取られた気がしたし、扱いが乱暴だった記憶はしっかりとある。
ま、大人になればあの時の自分がチビの癖に付きまとって遊びたい盛りの少年の邪魔にしかならなかったことは今ならよくわかる。
でもでも、両親を急に亡くして寂しかった私には兄が世界のすべてだったんだから引っ付きたがったのは仕方がないと思う。
だからってそのまま遊びに付き合わせてハチの巣をつついてみたり、街の溝(思い切り下水だった)にハメられた恨み、怪談を聞かされまくった恨みは金輪際忘れてやるもんか。
やった方は忘れてもやられた方はきっちり全部覚えているのだ。
思わず睨みつけた私をジョルジュは不思議そうに見つめ返してきた。
「ほんっとうに申し訳ありませんでした!!!!」
わたくし、ただいま絶賛謝罪中である。
なんとなく間が持たないのをジョルジュが思い出話でしのごうとした結果、記憶をすり合わせてみれば
なんということか、私の記憶のジョルジュにされた酷いことの大半はエリックが原因でジョルジュが後始末していたことが発覚したのだ。私の記憶は丸っと逆さまだったことになる。
キラーハニービーの巣に突っ込んだのは蜂の子は美味いを兄にそそのかされた私が泣いてねだったからで、ジョルジュはそんな私を引っ抱えて逃げただけだったし(兄は先に逃亡)、
錬金術師通りのくっさい用水路にハマったのはエリックがうっかり背中を押したからでジョルジュは逃げたエリックに置き去られて呆然として、さらにあのくっさい溝に入って助けてくれたって言うし。
『ブルグ、ほんとにあった怖い話』の朗読は私が泣いて頼んだからだったし。(そしてさらに泣いたが。怖すぎてその夜漏らしたが。)
15年目の真実発覚である。私は恩人を15年間逆恨みしてたことになるのだ。
「避けられてるなぁ、とは感じてたけどさ。ひどくね?記憶の改ざん。」
ジョルジュはため息をつきながらそう言いつつ茶菓子を口にした。
「いや、もう返す言葉もございません。」
額を床につけたまま私はさらに小さく身を縮める。
「ま、ガキの記憶なんだからさ。そんなもん仕方ないさ。俺だって5才の頃なんてそうそうきちんと覚えてないしな。・・・で、その謎体勢なんなのさ?」
地面に這いつくばった私の姿勢にジョルジュが不思議そうに尋ねてきた。
「最大級の謝罪の意志を表すポーズ。ガンデューサに来た旅芸人がやってた。」
十五年の長きにわたる逆恨みも謝罪だし、不審者扱いまでしたのでこれくらいはしたほうがいいかな?と思ってやってみたらさらにドン引きされております。
「なんかやめて。俺、すっごい悪人みたいだから。」
ジョルジュに言われて私は素直に立ち上がり椅子に戻った。
「で、じいちゃんの転移陣の細かい所は俺にもわからないんだ。だからエマのルクーを再起動するって言う選択は間違いじゃないと思う。」
むしろなんで止めてたのか、と思うとジョルジュが続ける。
「とりあえずルクーの再起動の件はわかったよ。
俺もお前たちが戻ってこなかったり、ここを手放すことになったら再起動するつもりだったからな。」
ルクーの再起動には免許もちとしてジョルジュが立ち会い私が資料を探す、そういうことになった。
「次は俺も道具を持ってくるよ。」
そう言ってジョルジュは帰った。契約精霊に任せてきた炉の管理があったからだ。
それに一応兄のいない家にいきなり男性と夜に二人きりはまずい。
ルクーの状態を見た後は子供の頃の話をしたり、学院の話をしたりした。
学年は重ならなかったけど知ってる先生や街の話は面白くて時間を忘れそうだった。
「なかなか良い感じの男ではないか。」
ジョルジュを見送って部屋に戻るとシャンタルが言ってきた。声の調子が笑いを含んでいる。
「ちょ!!シャンタル。私そんなんじゃないからね。」
「・・・・エマ、私はなかなかよいとしか言っておらぬ。自爆じゃの。」
シャンタルの丸く可愛い瞳がすごく悪い顔になって笑った。
次はいよいよゴーレム再起動




