てがかりはゴーレム
「ルクー。」
「あ?」
私が呟いた一言にとっくの昔に考えることはやめてしまい、凝りもせずにシャンタルにちょっかいを出そうとしていた兄が反応する。
「ルクーだよ。じいちゃんが亡くなるちょっと前から弄ってて今停止してるって言ってた。じいちゃん言ってた。何かがあったらルクーを再起動しなさいって。」
「そうか!ルクーがいたか。」
ルクーは祖父が作業や在庫管理の補助に使っていた東方の磁器人形の体を利用したゴーレムだ。
もともとは祖父が祖母に贈ったもので磁器でできた肌を持つ黒髪の人形だ。祖父母が錬金術魔法でゴーレム化して助手のように使役していた。
ちなみに祖父はこのルクーに色々と細工をすることが好きで、私が子供の頃は数々の悪逆陰険過激な防犯魔法を施して遊び人形として持たせてくれていた。
例の親戚もルクーの守りが発動してトーガローネの粉を目に浴びて悶絶する羽目になっていたし。
(祖父の凝っていたところは所有者にはトーガローネがかからないように設定していたところだ。)
私は工房の隅で布にくるまれて専用の椅子に置かれていたルクーに目をやった。
起動の魔石の保管場所は聞いているからそれに私の魔力を注いで再起動すればいい。これでひとまず状況の確認くらいはできるようになるだろう。
これで問題は一気に解決だ!勢いづく私に兄が冷静に突っ込んだ。
「待て、大事な問題がある。」
ルクーを包んだ布包みを抱きかかえようとした私に兄がまた声をかける。
「お前、ゴーレム起動免許取れたのか?」
「おぅふ。」
思わず妙な声が出て私は天を仰いだ。肝心のゴーレム起動資格がわたしにはまだなかった。
錬金術師は多く契約精霊か人工精霊、ゴーレムを使役する。
人造魔法生物であるゴーレムは作成者の命令に忠実に動き大層便利だが、現在では作成も起動することもギルドもしくは政庁による許認可制になっている。
過去に作成者がが研究のため法を犯しまくったという歴史や作成者の統御を外れたゴーレムが暴走し大惨事を引き起こしたりがあったためだ。
ゴーレムの作成資格は錬金術師か魔術師としての各ギルドへの登録があること、魔法知識、古代語の読み書き、核作成と廃棄、制御理論及び不測の事態の際の停止手段の試験に突破することなどだ。
特に停止手段は重要視され、これを持たない術者は他の科目でどんなに優れた点数を獲得していても認可を受けれない。
ゴーレムを使うのは主に工業系の錬金術師だ。私はポーションや薬品を主に錬成するしシャンタルという精霊もいる。
だから特にゴーレムは必要ないのだ。ので学院の最終試験でこの項目は取得していなかった。
科目だけは合格していたのでたぶん申請すれば書類審査の実で通るとは思う。
「あー。まだ取れてない。私ゴーレム使わないから。」
「じゃあダメじゃんか。」
兄が今度こそお手上げだ、とソファに身を投げ出した。
「試験はモールだと来月だからその時には取れるって!」
「でも急がないとダメじゃないのか。たとえば今夜、この魔法陣が破たんしたらどうするよ?」
兄貴に言われて私は思わず黙り込む。魔眼で見たところ予兆はないけれど術者である祖父が死んだのだからいつ破綻してもおかしくない。
「じゃぁ、起動の理論はわかってるんだからこっそりと・・・」
「ゴーレムの起動って独特だから魔力探知されるんじゃなかったのかよ?」
私がポンと手を打つとエリックが嫌そうにそう言った。これは誰が確認したわけでもないけれどまことしやかに囁かれている噂だ。
もし、こんなことで逮捕されたりして没収されたり、万が一錬金術師免許没収なんてことになったら元も子もない。
「三歩進んで二歩下がる・・・で、よいのかの?この場合。」
シャンタルの言葉に私たち兄妹はがっくりと首を垂れた。
エリックはゴーレムに詳しい錬金術師に当てがあるらしくルクーの再起動についてはひとまず置いておいて転移陣の確認から始めようと主張した。
「今回はいきなり飛ばされたけど、準備をしたら大丈夫だと思う。妹よ、兄を信じろ。」
確かにエリックの腕は大クラン『白金の羅針盤』でも屈指のものだからこそだろう。
だけど下準備も何もなしでそんなところへ飛び込もうとは、私はとても思えない。
「でも今日はやめようよ。お願いだから。私も準備しときたいものあるし。錬金術師は準備がないと有効な手が打てないからさ。」
今すぐにでも行こうとするエリックをなんとかなだめて私は猶予を獲得することに成功したのだった。
その翌日、今度こそエリックは王都モールの本部に早便を使って旅立ち、私は祖父の工房で謎の転移陣についての手がかりを探した。
いくら住むことろがあるとはいえ、その家が正体不明の謎物件では住み続ける事なんてできないし、売ることもできない。
エリックが心配していたオッサ・・・親戚は現れたのだが、シャンタルが幻術でもかけたのかすぐに出て行ってくれた。
どうやら帰還の手がかりになっているらしい祖父のくれたお守りの腕輪に魔力を充填しておく。
それからエリックが一人で家の中を探索するのは絶対にダメだ、と厳命していったので自分が作った魔眼ゴーグルで階段から3階を観察するだけにしておいた。
『エマ、何かわかったか?』
足元でシャンタルが私の服の端を口にくわえてモゴモゴ尋ねてきた。私が飛ばされないように、との配慮らしい。
「扉がみんな魔力で細工されてるってことはとりあえず。どんな作用か、まではより近づかないとね。」
転移陣を維持するのには魔力が必要だから供給になにがしかのトラップでも仕掛けられていれば大変だ。
『エリックが戻ったらになるな。エマは賢いが腕力はないしの。』
「わきまえてるわよ。じゃ、戻ろう。」
エリックが入室したことで転移陣が発動するなら私や、人間よりも魔力が多いシャンタルに反応しないとも限らない。
ドアノブに障ることが発動起因の可能性もあるので、ゴーグルの精度を上げて確認する。
どうやら特に仕掛けは施されてはいないようだった。
ひとまず安全圏内(と思いたい)1階に戻り、工房や店の整理整頓に明け暮れたのだった。
手がかりがわかったら後は再起動




