わが家の秘密(後)
家族会議は続く
安心したのかエリックは眠り続けていて夕方になって自力で起きてきた。
「でもさ。普通転移陣を家に設置するなんてありえないでしょう?」
「そうなんだよな。そう簡単に自宅に転移陣なんて設置されて自力で素材回収されたら俺たちの商売がしにくくなるんだよな。」
私が用意したスープにパンを浸して食べながら兄がグチる。
「兄貴・・・ずれてる。論点が。そもそもそんなに転移陣設置何て聞いたことないし、ムリだよ。」
確かに錬金術には素材を使う。品質の高いものを作るにはもちろん術師の繊細な魔力操作や入念な素材の準備もいるがやはり素材自体の品質の高さが重要になってくる。
様々な薬草や金属、魔石や魔物の部位など近辺では手に入らないものだって多い。
で、魔力のある素材はそれなりに入手に危険も伴う。失敗すれば命を失うことだってあるのだ、私たちの両親のように。
それを手に入れるのが狩人、とも呼ばれる冒険者で狩人ギルド、商業ギルド、素材屋と間が入るに連れ価格はまぁ当然上がる。
「私はこの家に転移陣なんて設置してどう維持してたか?とかどこにつながってるか?のが気になるんだけどさ。」
転移陣は人や物を瞬時に離れた場所へ移転させるそれはそれは便利な魔法だ。品質のいい素材はやはり名産地から、となれば有効な手段ではある。
これが普及すれば旅は安全になるし輸送コストは格段に下がる。だけど実際にそんなのを設置している人は早々いないのが現実である。
そんな便利なものがなんで普及していないのか?
一言でいえば転移陣は便利だけどそれ以上に体力的にも魔力的にも、とーっても効率の悪い魔法だからだ。
魔力は生きているものならば誰でもなんでも持ち合わせているものだ。
だけど体力と同じで決して無尽蔵に存在するものではない。使えば疲労するし回復するにはそれなりに休養や時間が必要なものだ。
転移陣を発動させるには魔法使いの詠唱ならばその人の魔力を、錬金術師たちの転移陣ならばそれを展開するにはそれなりの質の素材と作業が必要になる。
つまりは原価1万Gする素材を獲得するのにギルドを通じて手配して輸送費かけても1.5万Gで入手できるものに準備諸々で50万Gかけるようなものになる。
おまけに発動すれば術者はほぼヘロヘロになるまで魔力を消費することになり、現地では使い物にならない。
それでも一度設置して恒久的に使えるならまだしも設置するだけで魔力は消費するのだ。
よほどの緊急事態でもない限り転移陣を安易に使用するのは割に合わないことこの上ない。
それが設置された建物、しかも設置者が亡くなっても起動しているとかどういう仕掛けがあるのか?
何か問題を起こしてしまうんじゃないのか?そうなったら相続した私がお縄になったりしないのか?そこが気になるところなんですけど。
私たちが住んでいるのはアウストラ国の都市ブルグだ。
ブルグの街は川を挟んで貴族や富裕層が住む旧市街とそこを囲むように発展した新市街とに分かれている。
新市街には街の生活を支える職人たちが多くて私たちが住む通りは錬金術師たちが多く住むので錬金術横丁(アルカナム通り)と呼ばれている。
その錬金術横丁の中でも比較的旧市街に近いエリアに私たちの家はあたりの街並みに普通に溶け込んでいる住居兼工房兼店舗だ。
建物は地上3階屋根裏付き地下1階で家族の生活空間は主に2階で3階と屋根裏は倉庫と居室、1階は主に店舗と工房で地下に遮光の作業スペースと倉庫がある。
その家に祖父は私たちが出て行ってからコツコツと転移陣を設置してしまっていたらしい。
「爺さんも酷いよなぁ。俺には狩人は自ら採取地を知るのも大事だ、世界を己で見ろ!なんて言いながら自分は階段降りたら素材ゲット!なんだもんな。」
エリックは狩人として素材収集の依頼を受けることを仕事の大半にしている。
両親が亡くなる12歳まで錬金術師としての基礎も学んでいた兄は素材への知識がある狩人として重宝な存在らしい。
依頼や修業として移動だけでひと月などという遠征に出かけるのも珍しいことではない。
「私も。ギルドとの交渉も大事なスキル!とか言ってさ。」
荒事が苦手な私だけれど、素材を消費するばかりでは理解が進まない!という祖父と師匠の方針で狩りをしたことも少なからずある。
必要な素材を買い入れるために卸問屋や、生産ギルドとの交渉にもたくさん臨んだ。
「てかお前もちっとは疑えよ。3階も倉庫も入らしてもらえなかったんだろが!」
「倉庫は錬金術師にとって特別なんだもん。一人前と認められたって思ってたの!!」
たまの帰省時だけでなくブルグに戻ってからも祖父には地下倉庫と3階には無断で入らないようにきつく言い含められた。
子供の頃は祖父母となら入れた場所に入れないことに疑問を全く感じなかったといえば我ながらマヌケだとは思う。
だけど言わせてもらうが錬金術師にとってレシピを刻む『紋章』や素材を収めたインベントリは命にも替えがたいのだ。
だからその管理は慎重なうえにもさらに慎重になるし、魔力や素材が許せば工房や倉庫を拡張した異空間に作るものだっているのだ。
私だっていつかはそうやって使い勝手のいい工房を作りたいと思って貯金と素材集めをしている。
で、問題は解除方法だ。祖父は突然逝ってしまった。だから扉があるのはわかったけどヒントがないのだ。
「おじいちゃんの精霊に話が聞けたらよかったんだけど。」
錬金術師は多くが契約精霊を持っている。私のシャンタルもそうだ。祖父には水の精霊がいたのだ。
代々続く錬金術師だと家系に精霊がいたりするが彼女はそうではなかったので祖父の死と同時に精霊界に戻ってしまっていた。
「どうにかして呼び出せないのか?」
「うーん。無理だと思う。精霊だって様々いるわけだからね。同じ子が出てくるとは限らないからね。」
私がそう答えるとエリックは天を仰ぐ。
「なぁ毛玉、お前精霊界とかに探しに行って戻ってこれないわけ?」
エリックはシャンタルを掴み上げると鼻先に顔を寄せて真剣に聞いている。
『無茶を言うでない。あれは水が本性だから我とは住まう場所が違う。』
「なんだ、案外役に立たないんだな。・・・ってえ!!」
しょうもないことを言ってエリックがシャンタルにひっかかれていたがとりあえず見ないふりだ。
労力が惜しいし、本気で仕掛けてくれば今頃兄は真っ二つだ。
軽いひっかき傷で済むならポーションでもぶっかけておけばいい。
「とにかく入ってみて転移陣を見つけて解除するしかないのかよ。いつまでかかるんだよ。行けば戻れぬ片道切符とかやだぜ。俺。」
大問題が発覚したお家ですが問題解決のてがかりは見つかるのかな?
(見つかります)




