アラクネ騒動記 6
ヴィヴィは今の仕事が片付いて飼育許可証を取れたら迎えに来る、ということで今日は後ろ髪引かれまくり、という感じで帰宅した。
錬金術師や魔法使いと違い一般人が魔力のある生物を飼育するには許可が必要なのだ。
契約や自らの魔力で制御できないと周りに害を与えるかもしれないので仕方ない。
もっとも錬金術師や魔法使い以外で魔力のある生物を飼育したがる人も滅多にいないけど。ピッパちゃんはアラクネだから少し手間取るかもしれない。
ちなみに私の場合は錬金術師だからシャンタルやシュナはその管轄下にいることになる。許可は不要だが届出はしている。
ルクーは人工魔法生物だからまた別枠だ。
「お迎えの準備が出来るって言ってたからそうしたらピッパちゃんはヴィヴィのお家の子になるね。」
その日の夕食時、帰宅した兄にヴィヴィとピッパちゃんの話をした。
兄もマノア家絡みの素材採集で狩人ギルドに頼み込まれ素材狩りに出ている。
「そうか。絹の錬金術師の娘だもんな。ピッパとともにいるのにはこれ以上の話はないか。よかったな。ピッパ。」
初対面の時にいきなり斧もって殴りかかろうとした兄を防御本能で糸まみれにしたりと出会いは最悪だったけど、ここ1か月ほどで兄とピッパちゃんは意外なくらい馴染んだ。
エリックに言わせると
「敵意のない魔物にむき出しになるほど俺は脳筋じゃない。」
ということになるらしい。
「だけどピッパ気を付けろよ。ヴィヴィは楚々とした見た目にそぐわず気が強いからな。でもって優しい。強がってたら支えてやれな。お前ならできる気がするよ。」
「わかったわ。エリック。よく見てるのね?」
「・・・まぁ。エマの関係でチビな頃から知ってるからな。妹が増えたようなもんだ。」
なんだか娘を嫁に出す父親ってこんなかな?とふと思う。
たぶん、俺はそんな年じゃないって怒るから言わないでおくけれど。
「お前もいいウチが見つかってよかったな!」
ルクーが用意した魔力草を食べながらシュナが言う。
「ええ。短い間でしたけどありがとう。でも、シュナ、あなた食べる時にお話するならきちんと飲み込んでからになさいな。それにもう会えないわけではないわ。」
姉のようにそう言うと腕を一本伸ばしてシュナの口元の欠片を取り去る。
「おう!気をつける!!」
「だめ。もう出来てない。」
元気よく返事をしたが給仕中のルクーに速攻ダメだしされている。
ピッパちゃんはアラクネだから大きすぎる食物は口に入らない。だからとても上品に食べる。
ルクーが用意したのはシャンタルの薬草園から取れた魔力草だ。
ピッパちゃんの口に合うように細かく切られ、葉先の尖った部分は除かれている。
ちなみに除かれた葉先を使って低級ポーションを作った。
大事な薬草を無駄にすればシャンタルが泣くし、素材は大事にしなければならない。
大蜘蛛、蜘蛛なんて言ったら巣にかかった生き物を頭からバリバリ食べるとばかり思っていたが聞いてみると基本は木の実や草の実で育ったという。
ピッパちゃんの飼い主のおばあさまは彼女をベジタリアンに育てたようだ。
ヴィヴィにそのことを教えると
「そうなの?艶を出すために魔蚕をあげようと思ってた。」
生育が悪いのを生餌にするか、死んだのを与えようと思っていたという。
栄養的にはいいらしいからどうにか加工するという。
ちなみにそれをピッパちゃんに伝えたら実は怖気を奮っていた。
「ピッパちゃんがくれた糸をレースに編んで飾り付けたらとても素敵に仕上がったの。仮縫いとマノア様の確認が済んで今は職人が仕上げに入ったわ。許可証も取れたわ。
父様が手伝ってくれてね。父様も早くピッパちゃんに会いたいそうよ。」
布に関わる家業だけに全員ピッパちゃんと会うのを楽しみにしているという。
一度は会いに来たいというのだけれどまぁ引っ越しまで我慢してくれることになった。
ヴィヴィは3日おきくらいにピッパちゃんに会いに来ている。
この機会に工房の2階に住まいを移す、という。魔蚕や実験設備もあるのでやはり生物を新たに増やすのは問題がありそうだからだという。
女性の一人暮らしを家族はだいぶ渋っていたらしいが、ボディガードとしてのピッパちゃんもいるので認められたのだという。
(ま、よく聞いてみたらマルタの家の向かいの空き物件だけどね。)
次回でアラクネ騒動記は終わりです。




