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新・暁星堂騒動記 相続したのは魔法物件でした  作者: 星乃まひる
とある錬金術工房の営業日記
24/41

アラクネ騒動記 4

同居人また増える

「エマ、ルクーからの伝言よ。お茶が入ったので厨房に来る?お店に運ぶ?」

扉がゆっくりと開くとそこから真っ赤なルビーのような眼が覗き込む。

「あ、ありがとう。私が行くわ。」

「じゃあ伝えるわね。シャンタル様もお待ちしてます。」

柔らかで上品な言葉を残し大きな牧羊犬ほどのサイズのアラクネが厨房へと戻っていく。


「エマ、どうした?」

シャンタルが私を見上げる。

「いや。ピッパはアラクネなのに上品だなぁって。」

「誠に。エマは少し見習うくらいでよかろうな。我は先に行く。薬品はきちんと片付けるのだぞ。」

「はかい。わかったよ。ちゃんと取っておいてよ。オヤツ。」

シャンタルは笑うばかりだ。


森で見つけたピッパちゃんは大事に大事に育てられた箱入り娘ならぬ箱入りアラクネだった。

ポーションに使うためのマーシュ草を採取に行った転移先で目の前に真っ赤な目をしたアラクネが飛び出してきた瞬間は正直覚悟を決めた。


(人生終了・・・だと思ったもんね。一人で来たのを反省したよ。)

その日はエリックもジョルジュもいなくてシャンタルがいるからいいか、と一人で転移陣を作動させたのだ。

シャンタルがすぐに防御陣を展開し、あたふたとナイフを構えたけれど一向に攻めてくる気配もなく、結界の外から敵意がないこと、久々の魔力の揺れと人間の気配に人恋しさのあまり出てきたこと切々と語られた。

そのように大事に大事に育てられたのならばアラクネと言えど可哀想になって連れ帰ったわけだけど、姿を見た時の兄貴とシュナの狼狽えぶりとその後の騒動はものすごかった。

シャンタルが強制的に止めてくれたけど。



長い放浪の汚れを落とし、疲れを癒したピッパちゃんはびっくりするくらいに温和で品が良い性格を披露しつつ暁星堂で穏やかに暮らし始めたのだった。


ピッパちゃんはわが家に来てからシャンタル特製の薬草を食べたり、私が錬成した栄養剤を飲んでやっと落ち着きを取り戻したようだった。

茶色だった体は黒く艶を増し、瞳の赤から血を思わせる不吉さが抜け温かみのあり、透き通るルビーのような美しさになった。

それに伴いピッパちゃんの糸もだんだん繊細で中から光るような美しさになった。


アラクネ糸も

「もう長い時間魔物や森の草を食べてきたからあまりいい糸じゃないかもしれない、」

と言いながら提供してくれた。

確かに初期の糸は魔力にムラが出たりしていたけど私には十分に見えた。

付与術用の魔紙に漉き込んでもらうとかなり品質を上げれたし、破りにくいものが出来上がった。


「エマ、今日はやっといい糸が作り出せたの。」

ピッパちゃんが愛しげに差し出してきた糸は半ば透けるような美しい糸で、服飾の素材に詳しくない私も思わず息を呑む素晴らしさだった。


「うふふ。エマが好きに使っていいのよ。やっと満足がいく糸が生み出せたの。」

「あ、ありがとう。でも、いいのかな。私にはもったいないよ。」

砕いて紙に漉き込んだらきっとものすごい品質になりそうだけどさすがにそれはためらわれる品質の良さだ。

いつの間にか背後に来たのかルクーが覗き込んで糸をじっと見ている。

「ルクー、欲しい?」


頷いたので糸を一枷渡してみた。と、次の昼にはとても繊細な花の織り込まれたリボンが仕上がっていた。

「染めるのは無理だから、でもできた。」

ルクーは確かに人間ではなくて魔法で生成されたゴーレムだから休息は必要ない。

だから理論上は家事の終わった夜に不眠不休でできないわけではない。

だとしても速すぎるスピードではあるんだけれど。


(ルクー・・・マジ万能。てかどこにそんな技術が?お婆ちゃんの仕事?)

万能メイドゴーレム・ルクーの新たなスキルが発見されたのであった。



今日のピッパちゃんはルクーがアラクネ糸を編み上げたレースのリボンを身につけている。

色はアラクネ糸のままの生成でも元の艶が虹色に煌めく繊細で美しいリボンだ。

ルクーの織りあげたリボンは今、シャンタルと私、作成者であるルクーと糸の生みの親ピッパちゃんでわけて身に着けている。

きらめくリボンを身に着けたピッパちゃんは、知らない人が見たらちょっとシュールかもしれないけど、私としてはとても可愛らしいと思う。


(そう、内からにじみ出る女子力!!)


「ルクーの作るお菓子はどれも素朴で優しくて大好きですわ。お茶との相性もよくて。」

「そう。じゃあこれ。庭のマルベリーのジャムと焼いてみた。」

「まぁ。彩も素敵!形も上品で、一口で食べられると欠片がこぼれなくていいわね。」

「うむ。確かにこの彩も波打つクッキーの形も美しいの。この花柄の皿に載せると色味が映える。」

「それ。美しい。この皿はどう?」



焼きたてクッキーについて味だけじゃなく見栄えまで語りながらキャッキャウフフしてるのがゴーレム、精霊、魔獣。全て人外というこの事実。


そんなことを考えながらクッキーをパクリと口にした私は思わず脱力する。


別に可愛いものを愛でるのが人の特権とかは言わないけれど私がそこまで考えてるかといえば甚だ心もとない自覚はある。

(クッキー、可愛いのも食べやすいのも大事だけど。美味しければいいし。)

可愛いグッズは気持ちを上げてくれるけど、便利さのが大事だと内心思っちゃうし。

「も少し、錬金術以外にも気を配ろうかなぁ。」



「エマにはピッパのようないかにも繊細な女性らしさ、はないからの。」

私の内心を読んだかのようにシャンタルがさらっと失礼である。


庭からシュナと兄貴の声が聞こえる。最近仮角を付けたシュナとの特訓が日課になっているのだ。


シュナはなんだかんだ言いつつも兄にくっついて修行だ狩りだと出歩いている。

取り外し可能な角で戦うのがなかなか様になり、いい戦力になっているそうだ。


(角を付けた犬な見た目のユニコーン。どこから突っ込むべきか、放置か?)



ピッパちゃんにも彼女と本当に相性がいい相手を見つけてあげたい、そう考えた時ふとある人の姿が浮かんだ。


暁星堂に人外の同居人がまた増える。

人間以上に人間らしく女子なピッパちゃん。

長い野生にやっと終止符。


明日も更新する予定です

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