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新・暁星堂騒動記 相続したのは魔法物件でした  作者: 星乃まひる
とある錬金術工房の営業日記
20/41

ブルグ商業ギルド生産部 4

「さて、今は特に大規模な工事も受注もないからゆっくりお話をしましょうか。」

出席する親方衆全員が揃ったのを確認して組合長がそう言うと、副組合長 絹の錬金術師といわれる ちょっと神経質そうな細身の紳士が頷いた。


会合と言ってもブルグの町全体に関わるような要件でもない限りはだいたいは最近の注文状況の確認とか不足数の融通。素材の品質の話なんかが多い。

今日の話し合いももうすぐ魔蚕の飼育が始まる絹工房からの今シーズンの準備依頼が中心だ。

絹を染めるための染料の原料調合。

一般染織工房からの発注。

薬草工房への魔蚕の餌になる植物の発注するからそのための肥料の作成依頼なんかを報告し合う。


「魔道具工房は水の浄化魔道具の設置とメンテ。作業が始まる前に進めておこうかね。」

「毎度のことだがよろしく頼む。」

「任せときな。あんたたちは今年もいい絹作り出して私らへの支払いをしっかり頼むよ。」


絹工房が生産を始めると染織工房ではできあがった布を染めるための準備作業や染料を作る植物の栽培、狩人ギルドへの素材採取依頼なんかも始まる。

染色には水を大量に使うし、その排水は当然汚れているから魔蚕の飼育が始まるとその対策のための水の浄化設備のメンテナンスをする必要があるのだ。

毎年恒例のことだから確認のための話し合いは順調に進む。


「次は狩人ギルドからの依頼についてだね。これはうちだけが対象ではないが。」

狩人ギルドからの依頼は生産ギルドから鑑定士を出してくれ、というものだ。

狩人ギルドには狩人たちが街の外から獲得してきた様々な物資が持ち込まれる。

魔物や薬草、鉱物などの種々雑多なそれらを正しく鑑定し、適正な価格を支払うことはとても大事な仕事だ。

だが狩人は捕獲することはできても正確な査定をすることは難しい。だからその素材を最もよく使用することになる生産ギルドに、そしてギルドから錬金術師組合を含む各組合にも割り当てがきているのだ。


「狩人ギルドは脳筋だし苦労に見合わないって鑑定に文句言うからねぇ。」

「拘束時間が増えるなら休業補償になる割増欲しいですね。」

「気に入った素材を優先的に抑えてもいいですか?」


「新人に行かせたいけど。どうかね?」

「間違えたらまたうるさいぞ。てかそんな目利きの弟子なんてすでに新人じゃないし。」

「講習でもする?」

「まとめて教える、ってのはなかなかなぁ。関係ない素材の目利きなんて自信ないし。」

下働きとしても貴重な戦力をあまり工房外の雑事に出したくない本音も見え隠れする。

「じゃあやっぱり中堅とワンセットかね。」

「俺、1人親方なんですけど。」

私と同じ境遇なのだろう工房主がそっと意見を述べる。

給金が抑えめになる狩人ギルドでの仕事は経験は身につくけれど経済的に厳しいのも本当のところだ。私も一人親方だからそこのところは激しく同意したい。


結構好き勝手な意見がザワザワ飛び出した後、ドーラさんがふと

「目利きレンズはどう?これを持たせたらよくないかい?」

「あ、それは安心だけど。数がないし。」

そんな意見を聞いたドーラさんがニヤっとちょっと人の悪い笑顔を浮かべる。

「うちの工房で受注したらいいんじゃない?」

「利益誘導かい!」

「違うわよ!共存共栄よ!」

笑いが少し巻き起こる。


「これは職人ギルドの上へあげる案件だね。うちだけじゃ判断できないね。」

意見がある程度出たのを見ると組合長が話題を切り上げた。



そんなこんなで話し合いは終わり帰ろうと会議室の扉を開くと大声が飛び込んできた。

どうやら鍛造師と鋳造師がどちらの金属鍛錬法が優れているかで言い争いになっているらしい。

こんな時、いつもピッコロ親方がいれば身体強化した拳で一撃なんだけどあいにくさっさと帰宅したらしい。


どちらも重い鍛冶道具を使い慣れて鍛え上げた体をしていているからかギルド内の誰も止めることもできずに遠巻きに眺めている。

リコの姿を探すとカウンターの中にいて口元を見ると「絶対無理!」と言っているのがわかった。


「まぁまぁお二人とも。ここでは迷惑ですから今日はもうそれぞれお帰りになったほうがいいんじゃないですか?」


彼らの知り合いらしい親方会合に参加していたらしい錬金術師が仲裁に入るが

「「魔法でなんだかんだするやつはすっこんどけ!!」」


「俺たちは自分の腕と勘と技術でやってんだ。魔法だの魔道具だので楽してるヤツはすっこんでやがれ!」

「ひょろひょろしやがってよ。お前からツブしてやろうか?」


・・・・泥沼か。


と思ったと同時にその細い体からドスの効いた声が響く。

「てめえらの素材加工は誰がやってると思ってやがる!!」

「あぁ?なんでてめえが参加して来るんだ?」

「うるさい!!この頭まで筋肉野郎どもが!!俺は錬金術に命はってるんだよ!てめえらのスッカスカの頭じゃ考えてらんねえ計算してんだ。力ばっかで解決すると思うなよ!あぁ、お前らごと加工すっぞ。」

「錬金術師の手なんざ借りなくても昔ながらの工法でできるわっ!!」

「素材無駄にする姿しか浮かばねぇよ。あ、金がないから頼めないだけだろ!!」

「あぁ。それは錬金術師そいつの言う通りだな。」


・・・・おぅ、はっきりと泥沼だ。



「お客様もお見えになるギルド広間で何やっているのかしら?これだから職人は、って小馬鹿にされたいのかしらね。」

口元の笑みはそのままに全く光のない瞳と抑揚のない組合長の冷え冷えした声が響く。


実際空気は冷えてるはずだ。だって会頭の契約精霊は世にも珍しい氷の精霊氷狼なんだから。



「それはその・・・。」

威圧されて顔色もない者もいるが1人だけ何とか返事を口にする。だが結局見つめられてまた口を閉ざした。


空気までも凍るんじゃないか?という場を動かしたのはドーラさんの一言だった。


「マルティナ。ちょうどいい。うちに大量の馬具、武具メンテ依頼が来てるんだ。手伝ってもらうかね。それでどうだい?」


ドーラ工房は仕事の速さ丁寧さが売りで、所属職人や錬金術師はもちろん、下請けにもとんでもないクオリティを要求されることで有名だった。

だからドーラ工房と仕事をして認められたとなると錬金術師だけでなく各種職人にも一目置かれる近道になるのだけれど、いかんせんそのハードさに自ら飛び込むものは少ない。


「あら。それはいいわね。幸いどちらも金属を取り扱うお仕事なら渡りに船だわ。鍛冶組合には私が話を通しておきましょうね。」

組合長の声が穏やかになるが、それは地獄への片道切符に等しい。顔色が悪い3人はあとずさろうとして

急に進めなくなり、怪訝な顔になり、目の前に迫るドーラさんにうっと息を呑む。

「名前も顔も覚えたからね。ピッコロとリカルド。いいかい!明日うちの工房に顔出しな。そこの若いの、お前もだよ!」

「「「は、は、は、はい!!!」」」

一斉に返事をすると我先にと慌ただしくギルドを去っていく。


(明日の予定の変更とか、いろいろと準備がいるんだもんね。おつかれさーん。)

なんてのんきなことを考えていると

「エマぁ。」

いつの間にか背後に近づいていたドーラさんがにやりと笑う。

「はぁいぃ?」

もちろん、私も満面の笑顔で答える。


「新鮮な労働力をありがとよ。いい仕事だったよ。」

言葉の後半は地下にいるであろうシャンタルに向け、ドーラさんは笑った。


そう、ドーラさんの御見立通りにシャンタルに地から引く力を変えさせて2人の足を止めたのは確かに私だ。

やっぱり自分の行動には責任持たなくちゃいけないのだ。それに修業にもなるだろうから結果ウィンウィンでいいんじゃないかな?と思う。


職人ギルドは今日も平和です。

組合編はこれで終了。

3人の若手?職人は真面目にお仕事したはずです。


次回はまたエマのお仕事。

読んでくださってありがとうございます

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