ブルグ商業ギルド 生産部 1
ユニコーンの襲来から一週間過ぎた。
あの後、ジョルジュも呼び出してユニコーンの身の振り方(?)についてわが家で会議を開いた。
で、追い返すわけにもいかないのでユニコーンはいまだにわが家にいる。
「ただいまぁ。ルクー、お使いすませてきたぞ!パン屋のおばちゃんがサービスしてくれた。」
首に収納袋をぶら下げたユニコーンが鼻先で器用に扉を開いて裏口から入ってきた。
「ご苦労さま。間違いない。」
ルクーは収納袋を受け取り、中身を確認すると厨房に姿を消した。
「シュナ、お使いはもう慣れた?」
そう聞きながらユニコーンの頭を撫で、首に結んだ飾り紐とメダルを確認する。
我が家に住むことになりいつまでも種族呼びもなんだろう、ということでユニコーンにはクリシュナという名前をつけた。
やはり伝説の幻獣ということで東の言葉で黒い神様の名前からつけてみたのだけれど、今では頭二文字が抜けてシュナで定着している。
「ああ、道はもう大丈夫だぞ。見た目もみんなわからないみたいだ。」
なぜ希少種ユニコーンが街中で出歩けるのか?
そう、今シュナは人の目には黒犬に見えている。
偽装の魔術を身の回りに常時展開しているのだ。
角がないし今世間で一般的に認知されているユニコーンとはサイズが違うし、パッと見ロバっぽいけど、安全のために首に下げた飾り紐にメダルのように仕上げた偽装魔術具を取り付けた。
ちなみに作ったのはジョルジュだ。
偽装は本体を知っていれば感じなくなるので、私やエリック、ジョルジュにはしっかりとずんぐりむっくりな角なしユニコーンに見えているが、他の人にはツヤツヤ毛並みのスラっとした姿に見えるらしい。
ツヤツヤ毛並みのすらっとした体はシュナ本人・・・というか本馬?の希望だ。
シュナは喜んでいるけどユニコーンとしてのプライドはいいのだろうか?
シャンタルといいシュナといいわが家の人外魔法生物は価値観がちょと人間に寄りすぎな気もする。
人語を話す件についてはシュナは近所の人や同業者には私の新しい従属妖精と説明してある。
精霊や従属妖精は魔法使いや錬金術師には珍しくないので一番無難だからだ。
まぁそんな感じでシュナは暁星堂の一員になった。
住むからには働かざる者食うべからず、ということでシュナも少しづつ家の手伝いをしているのだけれど
本人のやる気はともかく馬体ではできることが限られるのでお使いが彼の主な活動の場になっている。
そんなこんなで私がシュナのお使い成功を褒めていると
ルクーがアイロンをかけた深緑のマントを持って姿を現した。
ゴーレムだけど精緻な人形を素体とするルクーは漆黒の髪がサラサラ揺れて可愛らしい。
ルクーは暁星堂の店番から在庫整理、祖父母の残したレシピの管理だけでなく炊事掃除と家事全般までこなしてしまうスーパーゴーレムだねぇ。
なんて考えていると
「エマ、支度できた。」
皺ひとつなく手入れされた外出用のマントに私は今日の用事を思い出して顔をしかめた。
「あ、今日はギルドの会合かぁ。めんどくさいなぁ。」
壁のカレンダーを見ながらため息をつく。2ヶ月に一度の木曜は商業ギルドで錬金術師組合の会合がある。
ブルグの 錬金術師組合は親方として独立した工房主は全て参加するのが一応の決まりだから祖父から引き継いだ私も参加しなければならないのだ。
工房主資格は修行して親方や組合理事に認められることで得ることが多い。だから親方はだいたい三十路くらいが多くなる。
私は錬金術工房暁星堂の店主であり、何の因果かこの年で理事でもあるので参加しなければならない。
私は去年から参加した新米だし親方を張るような周りは祖父や父の年代ばかりでなんとなく居心地は今ひとつだ。
まぁ悪い意味というよりは生まれた頃から知られたおじちゃんおばちゃんに囲まれたこそばゆい居心地悪さってとこだけど。
「ルクー、行きたくないよ。」
さっさと着替えをするように促した後、マントにブラシをかけてほこりを払っているルクーに訴えては見るけれど
「エマ、これもお仕事。仕方ない。」
目を閉じてため息をつきながら首をゆっくりと横に振る。
磁器人形を元に組成されたゴーレムで本来は表情なんてないはずなのに、なんだか残念な子を見るような表情に見えるのは気のせいだろうか?
「ルクー、冷たい。」
促されても立ち上がらずに粘ってみる。
「エマ、ワガママよくない。会合行けばお給金も出る。お金の分だけは働かないとダメ。」」
そう言うと私の後ろに回って椅子をテーブルから引きはがしにかかる。
体は人間の子供のようなサイズしかないけれどゴーレムだから力は強い。
抵抗も空しく非力な人間である私はテーブルから引きはがされてしまった。
「・・・エマ、行きたくないなら・・・・。」
グズグズと渋る私の様子にシュナが言いかけたが体ごと向きを変えて自分を見るルクーを見ると言葉を飲み込んだ。
「き、決められた会合なら仕方ないよなぁ。エマ」
いつの間にかシュナはルクーには逆らわないことを決めたらしい。
「ルクーには逆らえまいよ。エマ、遅刻したほうが悪目立ちしてよくないと思うぞ。」
いつの間にか庭から私の元へ戻ってきたいた妖精体のシャンタルが私の肩に腰を掛けた。
「うぅ。シュナばかりかシャンタルまでも・・・・。いじわる。」
そう言いながら私はいじけつつ準備を進めるのだった。
エマのお仕事話。
ユニコーンは名前も着いて楽しく生活始めてます。




