ユニコーン 2
現れたのはユニコーン
なんて会話したのがつい先日。
まさかユニコーンと遭遇することになるなんて思いもしなかったわけですが。
私たちは反属性親和薬なるものを作るための素材を狩りに転移陣を使用した。
必要なのはレミンティアという木の花だ。満月の夜に咲く花を結晶化して採取する。
採取自体はさほど難しくはないけれど開花した花に施術者の魔力を注ぐ必要がある手間のかかる素材だ。
だから花のサイズ次第で魔力枯渇しないように予備魔力を蓄積した魔石も用意した。
兄貴もギルドに売って活動証明になる魔獣を狩りたいらしい。
ジョルジュも薬を発注したいとかで私の護衛を兼ねて来てくれていた。
レミンティアの木のある行く先はアウストラシアの10日間ほどの離れた場所で特に危険な魔獣が出る地域でもない。
いつものように魔石や採取道具を準備していたって普通の往復になるはずだった。
先に転移陣を踏んで姿を消したジョルジュに続き入ろうとしたがなかなかに作動しない。
転移陣は先に誰かがいると次の移動が進まないのだ。
あれ?と思った次の瞬間で私も飛んだけれど目の前にジョルジュがまだ立っていて鼻を少し背中にぶつけた。
「ちょっと!?」
「ああ、すまん。ちょっと驚くことがあってな。」
ジョルジュはそう言いながら顎をしゃくると、目の前に『それ』がいた。
1.6メドルの私のお腹くらいまでしかないずんぐりむっくりな体躯。
夜の闇みたいに黒い毛並みに枯れ枝や葉っぱが絡みついてほつれているけれど金色に光るたてがみのロバみたいな生き物。
あきらかに魔獣なんだけど馬型魔獣の中でも種族がちょっとすぐに思いつかない。
「だから!てめえ誰に断って俺の巣にズカズカ立ち入ってやがんだ?あ?黙り込むな、とっとと答えやがれ!!て、なんで増えてんだ?おらぁ!」
え?と思う間もなくキンキンと甲高い声が響き渡る。
(なんなんだ?脳天に叩きこまれる甲高い怒鳴り声は?しかも人語!?)
とっさにジョルジュの方を見たがあっけにとられているようで困り果てた顔をしていた。
「人間や犬ころごときが俺様の領分にズカズカ入り込むだなんてクソ図々しいんだよ!!」
新たなターゲット(私だ)の出現にさらにヒートアップしたのか後ろ脚で立ち上がりながらまくしたてる。
ぎゃあすか叫んでこっちの話を聞かないのはそっちじゃないか?
私も立ち尽くしていたからか、ジョルジュに促され位置をずらすと即座にエリックが現れた。
「エマ、お前着いたらサッサとどけよ、ってなんだこれ?馬か?」
さすが魔物慣れしているというべきだろうか?兄貴はいち早く自分を取り戻したようだ。
戦斧をしっかりと握りつついつでも切りかかれるように身構えながら私たちに聞いてくる。
「いや。なんだろね?馬にしては小さ・・・あれ?」
がっしりとした足と顔つきがなんとなくロバに似ている生物。ただ一点額の真ん中にちんまりとだけど何かが折れたような生えているような。
脳内にひとつの名前が浮かんぶ。横を見れば同じく気がついたのかジョルジュも口をパクパク動かしてるけれど言葉を抑えるように拳を顎にあてている。
その間も丸まっちいそれはなぜか私にギャンギャンがなりたてる。
(なんで私にロックオンなん?ちょっと燃やすか。黙らせる程度に。)
手袋に仕込んだ火魔法でも発動しようかと考えた瞬間だった。
『やかましいわ!この小童一角馬ごときがぁっ!!』
私の影に入っていたシャンタルがバッと飛び出すと本来の虹色の蜥蜴の姿に変わり、さすがの魔物が息を呑む。
「わ。シャンタル!!いいの?」
普段はこの姿は可愛くない、とかたくなに子犬の姿を取っているシャンタルの尾が二股に分かれ棘のある鞭のように伸びると、馬?の後ろ足二本に絡みついてあっという間に逆さ吊りに吊り上げた。
『ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあとわめきたてるな!我が主を侮るなど万年早いわ!腐れ子馬が!!』
「な、なにしやがんでぇ!犬ころが!!ってか犬ころじゃねえのか?」
『ここまでされてまだ我を犬ころ呼ばわりするか!?ユニコーンごときが我を気安く呼ぶでないわ!!』
さらにヒートアップしたシャンタルが蔓を揺らすのか逆さまのそれがブラブラと、いやもはやグルグルと激しく揺れる。
「あらぁ。怒らせちまったか?」
構えた戦斧を持ち直したエリックがのんびりと言うとジョルジュが頷く。
「ここまで怒らせちゃうともう人類は加担しない方が賢明だと思うわ。」
「フラン置いてきてよかったかな?燃やしてたな。て、シャンタル、今なんつった?」
「ぎゃー!やめてくれぇ!何か、なんか出るぉ!」
さっきまでの威勢はどこへやら?情けない声を上げて半泣き声を上げる。
『腐れ脳みそが出れば少しはユニコーンにふさわしい品格が身につくであろうよ!!いっそ叩き割るか!?啜りつくしてくれようかぁぁ!!』
しゅるしゅると吊り上がる高さが増していく。
「やめてぇ!やめてくれぇ!!」
シャンタルに散々ぶん回された後ようやくユニコーン(仮)は地上へと下ろされた。
随分と苦しかったのは間違いないようで馬の顔色はわからないけれど汗びっしょりになってフラフラしていてさすがに気の毒だ。
ユニコーンというけれどなんだか知られているものとはだいぶ違う。
荷運び馬に似たずんぐりした体躯、でも小さくて大人はとても乗れそうもない。一般に白馬が多いとされるユニコーンと体色も随分違う黒色だ。
ただ額の真ん中に真珠のように煌めくしっとりした白いハゲがある。
これが角ならこの馬がただの馬でなく紛うことないユニコーンの証である。
「俺は正真正銘のユニコーンだ!!」
頭を反らして誇らかに告げた。
1.6メドル だいたい160センチ。
ユニコーンのサイズはイメージ的に大型犬くらいかな。




