魔力過多症 1
以前投稿していた「暁星堂騒動記」を設定を少し変えて書き直しました。
この世界の生きているものはすべて魔力を持っている。
空気の中や生き物の中で魔力になる前のそれらはマナと呼ばれあたりまえにそれらに囲まれて生きている。
自らの力でマナを操り魔法を顕現させる者は魔法使いと呼ばれ数は少ない。
魔法を自在に操れない人々はマナを宿す素材を元に様々な道具を用い魔法に似た効果を得る術を得た。
数は決して多くはないが魔法使いよりは身近な彼らは錬金術師と呼ばれ、生活に欠かせない役割を担っている。
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私の名前はエマ。
錬金術師として、生まれ故郷ブルグの街で曾祖父の代から続く錬金術工房兼薬屋暁星堂を去年21歳で祖父から受け継いだ。
今では狩人ギルドにポーションなんかを納品したり、街の人にポーション、職人たちに仕事に必要な薬品を錬成して販売したりなどしている。
祖父の続けてきた商売をそれなりに順調に切り盛りしている自負はある。
「薬を飲ませやすくしてほしいのよ。」
息子とともに工房を訪れた幼馴染のマルタは出したお茶を一口飲んだ後にそう切り出してきた。
今回マルタが飲みやすくしてほしい、と相談してきた薬はマルタ本人ではなく息子のルカが服用するものだ。
「そう。ルカは魔力過多症でしょ。季節の変わり目とかにはかならず新しいマナの影響で辛そうなんだけど。エマならわかるでしょ。」
幼馴染とはいえ商家のお嬢様生まれのマルタは結婚が早くて息子のルカはもう3歳になる。くるっとした巻き髪に母譲りの可愛らしい男の子だ。
少女時代はほっそりとした金髪碧眼で儚げだった彼女は今はちょっとふっくらとして母親らしい落ち着きを見せている。
世界にあるものはすべて魔力を持っているのは人間ももちろん同じだが、人にはまれに魔力を体が処理しきれる以上に持ち合わせて生まれてくる人がいる。
『魔力過多症』は多めの魔力が体外の魔力やマナに過剰に反応してしまうある種のアレルギー症状が主で過剰な魔力を体外に排出してやれば問題なく収まってしまう。
魔法や魔術具が未発達な時代は苦しむ人が多かったけど、生活に魔道具が普及してからは過剰な魔力を輩出する手段が増えて魔力過多症は一家に一人いれば便利、などと言われたりもする。
ちなみに私も魔力過多症だったけど家業が錬金術師だったから祖父母に手伝いとしてよく使われていてそこまできつかった記憶が少ない。
「エマ、ちょっとこれ持って。」
なんて吸収魔石を持たされてはちょいちょい魔力を抜かれていた覚えがある。
子供の頃は楽になっていいな、なんて思っていたけれど錬金術師になった今になると
「ただ働きか!!」って気になる。
まぁ本人にしてみれば苦しいことは苦しいし、自分以外の魔力や空気中のマナに反応して苦しむことがあり調整ポーションを服用する。
調整ポーションを服用することで自分以外の雑多な魔力に慣れていくのだ。
だがそれがとにかく不味いのだ。私も逃げ回ったからルカが嫌がるのはよく分かる。
ルカも魔力過多症で定期的に魔力を抜く必要があるけれどマルタは宝飾を扱う裕福な家に嫁いだからルカは薬も必要なもの、それも上質で体にいいものを与えられている。
魔力が多いことは貴重で恵まれた資質になるのでルカは親や周りも期待してる文字通り掌中の珠なのだ。
「ルカ、お薬嫌い?」
母親と私の話にはとっくに飽きてしまってお店の片隅で子犬に変化したシャンタルを撫でていたルカに近づいて聞いてみる。
「きやい。だって苦いんだもん、お口がぐにぃってなるのよ。」
3歳になったばかりのルカは可愛らしい頬をプクリンと膨らませ、私は思わず指先でその柔らかな頬をつついた。
「でも鼻水流してたら可愛いルカが台無しだな。」
「ルカ男の子だもん。可愛くなくていいもん。」
可愛い、と言われることがすでにご不満なのか、さらにほっぺをぷぅっと膨らませてそっぽを向く。
「頑張ったご褒美にって飴をあげてもみたんだけどひっきりなしに飴になっちゃうと虫歯が心配だし。」
息子の幼い反抗にマルタがやれやれと肩をすくめる。
「だねえ。薬は苦いって当たり前だけど・・・。」
良薬は口に苦し、と昔から言われる言葉を思い出して苦笑した・・・ところでふと思いつく。
「・・・口に苦くてもそれしかないんだから我慢しろってことだよねぇ・・・だったら苦くない調合を探せばいいんじゃない?
薬は苦くて当たり前で苦労してるなら喜んで飲めたらママは楽だよね?」
エマ、エマ・・・と私の名前を呼んで肩をゆするマルタの手は感じていたけれど思考の海に飛び込んじゃった私だった。
第一話 魔力過多症は5回で終了の予定です。