V
それでこのカプセルはどうするの? 運び出すの? 一応言っとくけど今の僕だとこれは大きすぎて持ち上げるのは無理だと思うよ。
『知っています、折角ですから孵化させて使役しましょう、神々に力を授けられたあなたなら天使を使役出来る筈です』
そうなんだ、ねぇ? 文明を滅ぼせる位だから天使って強いんだよね?
『もちろんです』
それなら、このダンジョンからさっさと脱出出来るよね?
『他力本願は感心しませんが、まあ、出来るでしょうね』
よし、それなら早く孵しちゃおう。コネクターやっちゃって!
『……分かりました、では、孵化を開始します』
コネクターがそう言うと同時にカプセルが光輝いた。おお! 神々しいとはこう言うのを言うんだろうか? そう思った矢先、
『エラー、孵化プロセスに異常発生、原因の解析を開始します』
コネクターとはまた違う機械的な声が耳に響いた。コネクター! なにが起こったの?
『どうやら、カプセル収容時になにか問題があったようですね、ですが大丈夫です、カプセルには自浄機能がありますから、すぐに解決するでしょう』
そんな機能もあるんだ、高性能だねこのカプセル。
『原因の特定に成功、排除開始』
なんか、排除とか言ってるけど、大丈夫? これ。
『これは神々が直々に作り出した物ですよ、問題なんてありえません』
『排除失敗、解消方法を検索します、神々のネットワークへ接続、エラー、手近なネットワークを検索、発見、コンタクト開始……成功、検索開始』
ねぇ、なんか時間かかりそうな気がするよ。ホントに大丈夫?
『……カプセルの世界アーカイブへの接続を確認しました、これは……現在進行中のプロセスを凍結、状況の確認を最優先、対処開始』
ありゃ? コネクターまでおかしな事になってる、僕はどうしたらいいだろうか?
『今あなたの相手をしている余裕がありません、ですので進化プロセスを起動させます、そこでしばらく眠っていてください』
えっ!? ちょ、と、まっ、て──。
☆
ハッ!? ここはどこ? ここはダンジョン。僕は誰? 元人間の名無しのローパー。何をしていた? 天使のカプセルを孵すところ。よし! 記憶は大丈夫、コネクター! コネクター聞こえてるー!?
『おはようございます、遅いお目覚めでしたね』
何が遅いお目覚めだ、君が僕を寝かしたんじゃないか!?
『まあまあ、無事進化も完了したことですし、まずは新しい体を確認したらどうですか?』
言葉が終わると同時に写し出されたローパーの姿は、なんと言えばいいかな? ヤドカリ? カニ部分はローパーだけど。
甲羅はカタツムリのような形からサザエのような巻き貝に変わった。これじゃあローリングダッシュは使えないな、う~ん、折角出来た逃げ技がいきなり無用の長物になってしまった。よく見ると甲羅のあちこちに小さな穴が空いていて、そこから触手を出せるようだ。蓋も出来るみたいだな。
触手の数は2本増えて10本に、8本動かすのに慣れた時間を考えれば少ない時間で使いこなせるようになるだろう。
頭は少しシャープになった? 例えるなら二等辺三角形、かな? 凹んだだけだった耳はきちんと耳の形になっている、えらく尖ってるけど。相変わらず口はない、なんで目は相変わらずつぶらなんだろうか? モンスターなんだよね? ローパーって。
『続いてステータスをお見せします』
名前【 】
種族:ズーローパー
Lv.1∕25
技能:熱感知
触手再生
超音波
麻痺液
部位複製
秩序の種子
今度の進化はLv.25か~、長いなぁ。ところで器官複製が部位複製になってるんだけど、これは何が出来るの?
『器官複製は器官、主に内臓関係の物がメインでしたが、この部位複製は頭や手足、翼、最終的に全身を複製する事が可能です』
おお! つまりこのローパーの体からサヨナラ出来るって事!?
『まあ、スキルの特性上可能ではありますが、その分大量の血液が必要になります、ちなみにズーローパーの平均体長は36㎝、体重7.3㎏、触腕120㎝、太さ4㎝、その小さな体に納まるといいですね』
そっちの問題があったか!? くそ~、でも進化したら体は大きくなる事は分かったんだ、絶対いつかローパーから卒業してやる! あっ、そういえば天使はどうなったの?
『もうすぐ孵化します、私のネットワークに入り込んできた時はどうなる事かと思いました』
コネクターのネットワーク? そういえばこっちにもネットとかあるんだ。
『あなたの知っている物とは少々違いますが、似たような物はこの世界にもあります』
へぇ~、ちなみにコネクターのネットワークって何をするものなの、検索?
『私のネットワークは世界の管理に関係するものです、例えば自然環境の整備、生態系の管理、分かりやすいのはこの辺りですかね』
ふ~ん、なんだか大変だね。
『特に大変と感じた事はないですね、それが私が生まれた理由であり存在する意味ですから』
そっか、コネクターには最初からすることもいる理由もあるんだね、僕にはそういうの無かったなぁ。
『人は夢を持つと言いますが、あなたには無かったのですか?』
なりたいものもやりたい事も別段なかったしね。今は……生きる事に精一杯だし、人ですらないし。
『無駄話をしている間に孵化が始まったようです、珍しい物ですから見逃すと損ですよ』
コイツは僕のサポーターとか言ってた気がするんだけど、それにしては扱いが雑なのは性格的なものなのか? そんな疑問を思っている間にカプセルは大きな音を響かせながら割れていく、そういえば結局エラーはどうなったんだろう、異物がどうとかも言ってたけど解消出来たんだろうか?
ついにカプセルが割れる。中から現れたのは……女の子? それも2人。カプセルって複数人で使うものなの?
『いいえ、個人用です、ただこの子達は、その、ちょっと特殊なので』
具体的には?
『その内分かります、それではまたちょっと触手をお借りしますね』
コイツ説明する気がないな? 何を隠しているのやら。
さて、その天使の少女達だが、どちらも似たような背格好、若干、右の子の方が背が高いか?
その右の子は白い髪、長さは肩に届かない位で均等、白い肌で黒いワンピースにサンダルを身に付けている。翼は生えていない、正面から見る限りは。
左の子は黒い髪、長さは胸に届く位、小麦色の肌で白いワンピースにサンダル、デザインが少し違うかな? こちらも翼は生えていない。この世界の天使は翼が生えていないのかな? 見た感じどちらもただの人間に見える。
さて、2人の天使はどちらも立ったまま眠っているかのように目を瞑ったままだ。その2人の額にコネクターが僕の触手を押し当て何かしている。そして、
『手動での起動準備が整いました、設定を開始します、まずこの子達の自由意思設定です、従順な人形から感情あふれる少女まで自由に設定可能です、どうしますか?』
えっ? 僕が決めるの?
『もちろん、あなたが使役するのですから、あなたの言うことならなんでも聞く妄信的な子にも出来ますよ、欲望の捌け口にも──』
それ以上しゃべるな外道、僕はそう言う考え方は嫌いだ。普通にしろ普通に、僕はあくまでこの子達の上位者であって所有者ではない、これでいける?
『可能ですが、良いのですか? 反旗を翻す事も可能になってしまいますが?』
いいよ、そもそも僕は誰かの上に立つタイプだとは自分で思えないもの、愛想をつかされたのならそこまでって事で。
『それは私が困りますので、裏切りと離反は禁止、それ以外はあなたの要望に沿う形にしますね』
それ、僕の意見聞いた意味あるのか? まあ、言っても君は聞かないと思うけど。
『これで起動準備が整いました、さあ、目覚めの時です』
ほら、僕の話全然聞かないよ、この人。あっ、人じゃなかったな。