IV
う~ん、光らない。
僕がこの何もない部屋に移動してから数日、ずっとトラップが再起動しないか試している。叩いても、管を突き刺しても何も起きない。どうすればいいんだ!?
『素直に先に進みましょう、既にこの階層のマップデータは取得済みですし』
軽く言ってくれるじゃないかコネクター、そりゃ君には体が無いから他人事だろうが、僕には死活問題なんだぞ!? さっきまで中途半端にしか役に立たなかった熱感知が恐ろしくデカイ何かを僕の目に写してるんだぞ、僕はここから動きたくない!
『ですが動かなかったらここで餓死するか、あなたより強いモンスターに食い殺される未来しか用意されていませんよ』
うう、それくらい分かってるよ。行くよ、行けばいいんだろ! 僕だって餓死なんて嫌だからね。でも、あれの所には行かないからな! 絶対に!
『マップだと熱源があるのはこの階層で一番大きな部屋、恐らくこのダンジョンのボス部屋でしょう』
ボス部屋!? それじゃあ僕達はダンジョンの一番奥に来ちゃったってこと?
『その通りです、ちなみにさっきまでいた場所はダンジョンの最上階、つまり入口のエリアです』
入口からボス部屋までショートカットって、おかしくない? 普通逆でしょ!? このダンジョン狂ってるよ!?
『ダンジョンは千差万別、多種多様、こんな時もあります』
初めてのダンジョンが狂ってるとか、勘弁してよ。はぁ……それで? 入口への道はどっち?
『それなら部屋を出て右に向かって下さい』
右ね、了解。道案内は任せる、頼りにしてるよコネクター。
『全て私にお任せを』
なんでだろう? そう言われると素直に信じられないなぁ。まぁ、今の僕には信じるしか道がないんだけど。早く薄暗いダンジョンから光溢れる世界に出たいし、頑張ろう。
コネクターの案内の元、似たような景色のダンジョンを進む。幸い出てくるのはバットばかり、大分戦い慣れてきたのか、結構触手が狙った所に当たるようにもなった。
ついでに新しい器官を複製した、超音波発生器官、つまり鼻だ。飛ばせる範囲は狭いが遠くに超音波を飛ばせる、これで足元の詳しい形が分かるようになった。おかげで進む速さが上がった、気がする。
ローパーになった僕の歩みは非常に遅い、触手を足代わりに一生懸命走っても人が歩く程度のスピードしか出せない。更に厄介なのはダンジョンに住むモンスター達だ。
自分より大きいと思う反応を見つけては道を逸れ、時には岩場の間に隠れやり過ごす、そんな日を数日続けた。しかし、上への階段には辿り着けていない。ねぇ? コネクター、あとどれくらいでこのマップから出られるの?
『あと4ヶ所角を曲がれば上への階段に到着します』
分かった、ようやくこの場所から離れられ、る!?
『ああ、これはいけませんね、【スタッグビートルセネピート】です、あなたに分かり易く言うとクワガタのような大顎を持った巨大なムカデです、どうやら天井と同化し温度を隠し、超音波は地面を中心に探査していましたから見つけることが出来なかったようです』
そんな冷静な解説望んでない! 早く逃げないと! 幸いこの地形ならこの螺旋状の甲羅が使える。頭を収納、触手だけ出しておく、指示は頼んだぞコネクター! いくぞ! ローリングダーーーッシュ!
触手の筋力で甲羅を転がす、それと同時にセネピートが大顎を開き襲ってくる。
止まるな! 何も考えず触手で押せ!
『そこで右に曲がってください』
体を右に傾け更に右側の触手で少しブレーキ、でも左は止めない。
『今です』
コネクターの合図でブレーキをかけていた右の触手を解放、まっすぐ走ってると感じたらまた加速開始。
「GI、SYAAAAAAAAA!!」
ギャーー!! めっちゃ近くでセネピートの叫びが聞こえるーー!? はやく! 早く! もっと速く! 疾風のように!!
『あっ!? そちらはダメです! 道を逸れて下さい!』
突然そんな事言われても車は急には止まれなーーい! そう思った直後体に襲いかかる浮遊感、どうやらちょっとした出っ張りに乗っかって飛び上がってしまったようだ。これでは方向転換も出来ない。……僕、終わった。
と思ったら、突然体がガンガン揺れる。あだだだだだだだだだ! うぉ!? 更に体に強い衝撃がして頭が甲羅から飛び出た。一体なにがおこった?
『飛び上がった先に甲羅がギリギリ入る穴が空いていて、そこにピンポイントに入り込んだのです、あなたは中々運がいいですね』
運がいいならこんな体になんかなってないよ。それでここはどこ?
『マップ情報にはありません、俗に言う隠しエリアですかね?』
僕に聞かないでよ。そう言うのは君の方が知ってるでしょ?
『私は世界のナビゲーター、しかし、知らない事も存在します、例えば目の前の楕円形の塊とか』
楕円形の塊? ただの大岩じゃないの?
『いいえ、これは大岩ではありません、自然に発生しない物です、解析したいのでちょっと触れてもらえます?』
え~? 嫌だよ、そんな得体の知らない物に触るなんて。自分で触りなよ。
『分かりました、では触手をお借りしますね』
えっ!? ちょっとなに言ってるの? あっ、勝手に触手が動いて近付いていく!? 何してるの!? ねぇ、マジで何してるの!? 体を勝手に動かせるなんて聞いてない!!
『話したら気味悪がるでしょうから話しませんでした、接触しましたのでしばらくそのままでお願いします』
そのままも何も動けないんですけどぉ!? 僕の体返せ!!
『騒がしいですね、さっき保留にした進化先でも眺めてて下さい』
【スパイラルローパー】
【シェルローパー】
【ズーローパー】
実はバットを沢山倒してレベルはMAXになっている、MAXになると進化と言う名の限界突破が可能になる。が、進化は一晩程の時間がかかるらしく保留になっていたのだ。
しかし、会ってから数時間位だけど態度がえらく投げやりになったな、コイツ。頭に浮かぶ3つの名前、どれもローパーだな。まぁ、全く別の生物になることなんて早々ないよね。それでこの進化先ってどんな奴なんだ?
【スパイラルローパー】
『周囲のものをなんでも喰らい尽くすローパー種
甲羅は無くなり触手の先に口が形成され数が倍になる』
【シェルローパー】
『甲羅は厚く頑丈に、触手は長さと数が倍になる
動きは鈍重だが、手数での攻撃に秀でる』
【ズーローパー】
『取り込んだ遺伝子で体を強化するローパー種
遺伝子情報さえあればどんなものでも再現出来るが
比較的動物種を採用する事が多い』
スパイラルローパーは攻撃型、シェルローパーは防御型、ズーローパーはなんて言えばいいんだろうな、汎用型? かな。
まずはスパイラルローパーはない、僕の性格に合わない。なんだよ周囲のものを喰らい尽くすって、そんな恐ろしい存在誰がなるか。次のシェルローパー、僕個人的にはこれがいい! でも今の状況で鈍重になるのは勘弁してほしい。
消去方で僕が選択するのはズーローパーになる、説明から考えるといままでやってた事とそう変わらないし、そう違和感もない、と思う。
『進化先を決めたようですね、ですが、もうしばらくお待ちを、あと数十秒で解析が完了しますので……完了しました、これは【エンジェルカプセル】ですね』
エンジェルカプセル? 天使の容器、でいいの、かな?
『はい、意味合い的には、これは神の兵隊【天使】が納められた容器です、相当古い物ですね、一体どれくらい昔の物かは更に詳しく解析しなければ分かりませんが』
天使って神の兵隊なんだ、へぇ~。でも、どうしてそんな物がダンジョンに?
『恐らく、かつてのラグナロクの時に神々の元へ帰り損ねた個体だと思われます』
ラグナロクって何?
『世界でもっとも育った知的生命体、あなたに分かり易く言うと人類種がそれに該当します、それが世界の脅威になった時、一部の知的生命体以外を滅ぼし、文明と自然をリセットする戦い、それがラグナロク、人類の中では天罰と呼ばれているものです』
へぇ~、そんな物がこの世界にはあるんだ、この世界の人類は大変だねぇ。
『ちなみに、あなたもラグナロクの一環として存在していますので、あしからず』
えっ!? そうなの?
『はい、ラグナロクには段階があり、第一段階は知的生命体に警鐘をならします、これは神託を受けた選ばれし人々が世界に流布するものです、ですのでラグナロク直前には多種多様の宗教が設立される事になります』
もし、僕達の世界がこの世界と同じシステムなら第一段階には達しているね。宗教、沢山あるもの。
『第二段階が人に化けた天使が知的生命体を導きます、それに伴いモンスターが活性化、活性化したモンスターは天使に討伐され英雄になり、知的生命体への影響力を高めるのです、これが現在の世界の段階になります』
それ、マッチポンプって言わない?
『神々が白と言えば、どれほど淀んだ黒でも白になるのです、ちなみに本来あなたはその天使になる予定でした』
マジで? 一体どこを間違えたら天使とモンスターを間違えるのさ!?
『そして、最終段階、星を覆う程の大きな門が開き、数多の天使が降臨し全てを大地に還します、出来れば神々もこの手段を使いたくないそうなので、頑張って天使が降臨しないように頑張って人類を止めましょう』
コイツ、僕の言葉を無視しやがった。コイツも神々ふざけんな!! 僕をそんな恐ろしい事に巻き込むんじゃない! せめて僕がこの体になる前に説明してくれよ! ホントにもうどうしてこんな事に、はぁー、平穏な日常に帰りたいなぁ。